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8月, 2021の投稿を表示しています

チャイティンのΩとバエズのエントロピー

【「チャイティンのΩとバエズのエントロピー」を公開しました】 https://youtu.be/ZjMfjlBxO5o?list=PLQIrJ0f9gMcPPgVvBB4BWA7-RuBmWLqqz スライドのpdfはこちらです。 https://drive.google.com/file/d/1E545s0CYATo5NlFHlgMr-87SRfpIjwng/view?usp=sharing 今回から、バエズのエントロピーの話を始めようと思います。といっても、今回は、バエズのエントロピーの式が、先日話したチャイティンが定義した不思議な数Ωの定義によく似ているという話で終わります。 以前、「チャイティンとゲーデル」という小咄をことが書いたあります。冗談が好きな人は、こちらを参照ください。 https://maruyama097.blogspot.com/2017/01/blog-post_25.html 今回は、シャノンのエントロピーとコルモゴロフの複雑性について、いくつか基本的なことを確認したいと思います。 シャノンの理論は、 複数のオブジェクトの集まりをどのようにエンコードし、そうしたオブジェクトのシークエンスを如何に効率的に送るかについて考えます。それに対して、コルモゴロフの複雑性は、一つのオブジェクトを、最も効率的にエンコードすることを考えます。 ただ、「情報圧縮」という点では、二つの理論は共通の関心があります。 シャノンの理論では、例えば、アルファベットの集まりXがある確率分布に従う時、そのエントロピーH(X)を用いて、N文字のメッセージを。NH(X)ビットに情報圧縮できることを示せます。 コルモゴロフの複雑性理論では、次のような形で情報圧縮に関心を持ちます。 「Berryのパラドックス」というのがあります。  「30文字以下では定義されない最小の自然数B」 これはある意味、Bの定義ですが、Bは日本語では21文字で定義されています。 こうした「定義」「名前づけ」「記述」の曖昧さを避けるために、あるオブジェクトの「記述」はそれを出力するプログラムで与えられると考えます。コルモゴロフの複雑性𝐶_𝑈 (𝑥)は、万能チューリングマシンUにプログラムpが与えられた時、xを出力するプログラムpのうち、最小のプログラムの長さ(|p|)です。その時、pは、オブジェク

5/29マルレク基礎「情報とエントロピー入門」講演ビデオ公開しました

【 5/29マルレク基礎「情報とエントロピー入門」講演ビデオ全編公開しました】 MaruLaboでは、3ヶ月経過した丸山のセミナーを無料で公開しています。 今年の5月29日に開催したマルレク基礎「情報とエントロピー入門」講演ビデオを全編公開しました。エントロピーの勉強を始めようと考えている人、是非、ご利用ください。 YouTubeの新しい「チャプター」機能で、ビデオの途中からの視聴が可能になっています。お試しください。(PC/Mac をご利用の方は、ビデオの説明のなかの「もっとみる」をクリックください。) 講演資料は、こちらからダウンロードできます。合わせてご利用ください。 https://drive.google.com/file/d/1hoJMalvdnzg_m75a5KYvpGt0dTo96-6Z/view?usp=sharing  ------------------------------------------   「情報とエントロピー入門」  ------------------------------------------  ● Part 1 「エントロピーの理論を振り返る」 https://youtu.be/n1m0xFX6Dmc?list=PLQIrJ0f9gMcNUBuVzPZ2BXUB_vZp4e4Xq  ● Part 2 「統計力学とボルツマン・エントロピー」 https://youtu.be/3rJA7L2xHJA?list=PLQIrJ0f9gMcNUBuVzPZ2BXUB_vZp4e4Xq  ● Part 3 「情報理論とシャノン・エントロピー」 https://youtu.be/xLf69raZ5G4?list=PLQIrJ0f9gMcNUBuVzPZ2BXUB_vZp4e4Xq  ● Part 4 「シャノン・エントロピーの通信技術への応用」 https://youtu.be/Wj2nskUOfpk?list=PLQIrJ0f9gMcNUBuVzPZ2BXUB_vZp4e4Xq 講演ビデオ、講演資料は、次のまとめページからもアクセスできます。 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy/

「エントロピーは計算科学とも接点を持つ」

【「エントロピーは計算科学とも接点を持つ」を公開しました】 9/4マルレク第三部「複雑性とエントロピー」のショートムービー「エントロピーは計算科学とも接点を持つ」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/DIMaG5muL4Y?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z スライドのpdfは、次からダウンロードできます。 https://drive.google.com/file/d/1vddaC9-_8Tk_Mb6riA1KarZzwemMlQ0Y/view?usp=sharing 第三部では、John Baez, Mike Stayの論文 “Algorithmic Thermodynamics”の概要を紹介しようと思っています。 https://arxiv.org/pdf/1010.2067.pdf エントロピー概念には、歴史的には、熱力学と情報理論の二つの起源があります。 エントロピーという概念は熱力学の中で発見され、ボルツマン、ギブスらの研究の中で、熱力学的・統計力学的概念として理論的に定式化されました。  こうした研究の系譜とは全く独立に、シャノンは、自ら作り上げた情報理論の中で、エントロピー概念を再発見します。(シャノンに「エントロピー」という言葉を使うように勧めたのは、フォン・ノイマンだと言われています。) バエズらの論文は、エントロピー概念に、熱力学・情報理論以外に、第三の起源がありうることを示唆するものです。 そして、その第三の起源は、計算科学であるといいます。バエズらの「アルゴリズム論的熱力学」では、エントロピーは計算理論のプログラムの複雑性に対応づけられます。ここでの複雑性は、「コルモゴロフの複雑性」と言われるものです。 もともとは、熱力学的概念であったエントロピーが、プログラムとどのような関連を持つのでしょう? ここでは途中を省略して、この理論が明らかにする、両者の対応の例を紹介しましょう。  ● 熱力学での容器中のガスのエネルギー Eは、「プログラムの実行時間の対数の期待値」に対応する。  ● 熱力学での容器の体積 Vは、「プログラムの長さの期待値」に対応する。  ● 熱力学での容器中のガスの分子の数 Nは、「プログラムの出力の期待値」に対応する。 なんか、にわかには信じられない

たとえ話で理解する「量子暗号」 3 -- コインからqubitへ

【「たとえ話で理解する「量子暗号」 3  -- コインからqubitへ」公開しました】 「たとえ話で理解する量子暗号」の第三弾として「コインからqubitへ」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/VVkWXtT50GA?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z スライドのpdfは、次からダウンロードできます。https://drive.google.com/file/d/1QFSQM56NdpuW_z9jQTze30gRq5w6qMY5/view?usp=sharing 4種類のコインとコイントスを使って、量子暗号 BB84をシミレートしているのですが、この方式には大きな脆弱性があります。 AliceとBobの通信の途中に、こっそり攻撃者Eveが入り込んだとします。Aliceが送ったコインを見れば、Aliceが送ろうとしたビットの情報が分かります。また、情報を盗んだコインをそのままBobに送れば、Bobは異変が起きていることに気づきません。 量子暗号のエンコード・デコードのシミレーションは、物理的コインで可能でしたし、量子暗号の共有キーの構成のシミレーションも、物理的コインでも可能でした。ただ、AliceからBobに、物理的コインを渡すというスタイルでは、中間者攻撃により、共有キーの秘密は破られます。この点で、物理的コインによる 量子暗号のシミレーションは失敗します。 量子暗号では、こうした攻撃を跳ね返すことができます。今回は、4つのコインを4つのqubit |0>,  |1>,  |+>,  |−> に置き換えて、量子暗号が、この問題に、とてもスマートに対応しているのを見ていきます。さすが量子! 回り道をして、やはり量子暗号は量子でなければという結論に落ち着いたわけなのですが、コインによるシミレーションは、量子暗号の特質を知る上で、役に立つのではと考えています。 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。https://info-entropy3.peatix.com/ まとめページは、 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy3/ です。スライドの

「たとえ話で理解する「量子暗号」 2 -- 共有キーの構成」

【 「たとえ話で理解する「量子暗号」 2 -- 共有キーの構成」公開しました】 昨日の「たとえ話で理解する量子暗号」の第二弾として「共有キーの構成」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/lsjSDYVGuD4?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z スライドのpdfは、次からダウンロードできます。 https://drive.google.com/file/d/19u6mU7HIDUuPQSpDktPuZ871hWANuKEe/view?usp=sharing 4種類のコインとコイントスを使って、量子暗号 BB84をシミレートしているのですが、今回は、AliceとBobが共有するキーの構成法を紹介します。 Aliceがランダムな入力ビットのそれぞれに対して、どのようなエンコードを行ってビットをコインにエンコードし、BobがAliceから送られるコインを、どのようなデコードを用いてビットを出力するのかの、エンコード・デコード情報をAliceとBobが公開しても、その公開情報だけからは、共有キーの情報は得られないことを説明します。 ここまでは、順調に進みました。 ただ、こうしたやり方には問題もあります。それについては、次回に説明します。是非、何が問題かお考えください。(ヒント:共有キー構成のプロトコルは「盗聴」されても安全か?) 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。 https://info-entropy3.peatix.com/ まとめページは、 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy3/ です。スライドのpdfにアクセスできます。

たとえ話で理解する「量子暗号」

【 たとえ話で理解する「量子暗号」】 9/3 マルレク「量子情報とエントロピー」にむけて、ショートムービー「たとえ話で理解する量子暗号」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/joTWZCO5uEE?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z 今回は、予定にはなかった番外編です。昨日、思いつきました。ベネットの量子暗号 BB84 の初等的な説明です。ケットもアダマールも出てきません。出てくるのは、四種類のコインとコイン投げだけです。この説明、すこし、自分でも気に入っています。 この「たとえ話」でのコイン投げは、もちろん、量子論の観測に対応しているのですが、ここでの四つのコインが、どのような量子状態に対応しているのか考えてもらうのがいいと思います。 実は、BB84の説明としては、まだ途中です。ただ、ここまでくれば、ランダムなビット列に対して、Aliceがランダムにエンコード方法を選び、Bobもランダムにデコード方法を選ぶことを通じて、公開キーが構成できることを、やはり初等的に説明できます。 スライドは、こちらからアクセスできます。BB84自体、物理的というより論理的なパズルみたいなものですので、動画を観るより、週末、ゆっくりpdf眺めてもらえればと思います。 https://drive.google.com/file/d/1rvcj5FCjmwZkJ8MfNXZfCIjSeqvMP3pC/view?usp=sharing 明日のショートムービーから、第二部の「様々なエントロピーの形式」に入ります。ご期待ください。

量子通信の世界

 【 「量子通信の世界」を公開しました 】 9/3 マルレク「量子情報とエントロピー」にむけて、ショートムービー「量子通信の世界」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/gT1-6b0d1lc?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z まとめページは、 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy3/ です。スライドのpdfにアクセスできます。 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。https://info-entropy3.peatix.com/ 今回の登場人物は、Charles H. Bennett とPeter Shorです。 Shorは、有名な「ショアのアルゴリズム」のショアですが、今回紹介するのは、それとは別の彼の仕事についてです。 トピックスは、「量子暗号」と「量子テレポーテーション」と「量子エラー訂正」の三つです。前の二つはベネットの、最後の一つはショアの仕事です。 「量子暗号」について。 「RSA公開キー暗号の安全さは、公開キーが簡単には素因数分解されないことに依存している。強力な計算パワーを持つマシンが登場すれば、公開キーが破られる可能性はある。ただ、量子の性質を利用すれば、どんな計算パワーでも破れない、公開キーの構成が可能だ。 しかも、悪意のある第三者が、公開キーの構成を「盗聴」して、それを再構成しようとしても、それは現実的には不可能であることが保証される。」 「量子テレポーテーション」について。 「量子Aと量子Bがエンタングルメント状態にある時、量子Aの状態変化は、瞬時に量子Bに反映される。たとえAとBとが、どんなに離れていても。このことを利用して、量子Xの状態を、遠く離れた場所に転送することが可能となる。このことは、量子状態のコピーを禁じた量子情報論の「No Cloning定理」にも、光速を超えた情報伝達を禁じた相対論の原理とも矛盾しない。」 「量子エラー訂正」について。 「ハミング・コードは、冗長なbitを付加して転送されたbit の誤りを検出し訂正する。これは古典bitに対するものだが、同様なことが、量子bit=qubit に対しても可能である。すな

量子コンピュータと量子通信

【 量子コンピュータと量子通信 】 すこし、小難しい話がつづいたので、今回は、概論ですので、わかりやすいと思います。 「量子コンピュータと量子通信」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/9EK0i2ik0fc?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z まとめページは、 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy3/ です。スライドのpdfにアクセスできます。 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。https://info-entropy3.peatix.com/ この間のショートムービーで伝えたかったことの一つは、言葉足らずだったのですが、「量子の世界」に飛び込んだ時、はじめて、「物質の世界」と「情報の世界」のつながりが見え始めるということです。こうした現象は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて、科学・技術の非常に広い分野で確認できることです。 量子論のIT技術への「応用」では、「量子コンピュータ」をイメージする人が、一番多いのではと思いますが、もう一つ重要な応用分野があります。それが「量子通信」の分野です。9月のマルレクの出口では、この「量子通信」の分野にフォーカスしようと思っています。 「量子コンピュータ」と並んで「量子通信」が重要であることは、現在のIT技術の中心が、大雑把に言って、コンピュータ技術とネットワーク技術の二つであることを考えればわかります。どちらか一つだけでは、現代のITの世界は成り立ちません。 丸山が、量子通信の理論を重要だと考えるのには、他にもいくつか理由があります。 第一に、量子コンピュータより量子通信の「実用化」が、早く進むだろうということです。 何をもって「実用化」というかは、いろいろ議論があると思います。ただ、現在のスマートフォンやクラウドが、「量子コンピュータ」に置き換わることを展望する必要はありません。それらの技術とその発展系は、今後も生き続けると考える方が現実的です。 (その意味では、「トポロジカルな量子素子」の研究が、足踏みをしているのは残念なことなのですが。) それにもかかわらず、量子通信技術は、ネットワークの世界で現実的な応用課

「情報過程は物質過程である -- Church-Turing-Deutsch Principle」

【「情報過程は物質過程である -- Church-Turing-Deutsch Principle」を公開しました】 9/4 マルレク「量子情報とエントロピー」に向けて、ショートムービー「「情報過程は物質過程である -- Church-Turing-Deutsch Principle」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/f_jR_4gaVLc?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。 https://info-entropy3.peatix.com/ 今回は「計算」のお話です。現代の「情報の世界」で中心的な役割を果たしているのがコンピュータとネットワークであることは、誰もが知っています。ただ、コンピュータ=computer は「計算するもの」です。若者が日常的に使っているかは疑問ですが、日本語の「計算機」という言葉は、computerの直訳です。 では、 YouTubeやFacebookのコンピュータは、どんな「計算」をしているのでしょう? コンピュータを中心とした情報技術は、圧倒的な浸透力を持ちましたが、そのことは、必ずしも、コンピュータが行っている「計算」の原理や役割が広く理解されたことを意味しません。その意味では、今日の話は、IT技術雨者にとっても、少し耳慣れない話かもしれません。 計算についての基本的な原理を、「チャーチ=チューリングのテーゼ」といいます。   「計算可能と自然に見なされる関数は、全て、万能テューリング・   マシンで計算可能である。」 数学的な「計算可能性」を「万能テューリング・マシン」という機械の「計算可能性」で定義しています。同語反復的な定義に思われるかもしれませんが、ポイントは、抽象的な数学的な「計算可能性」を、具体的で機械的な「計算可能性」で説明していることです。 現代のコンピュータは、基本的には「万能チューリングマシン」の子孫と思って構いません。 それでは、現代のコンピュータは、量子の世界の現象を、正しく「計算」して予測することはできるでしょうか? ファインマンは、「答えは明らかにノーである。 」とします。  「それは、新しいタイプのコン

なぜ、コンピュータは 電力を消費し、熱くなるのか?

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【「なぜ、コンピュータは 電力を消費し、熱くなるのか?」を公開しました】 9/4 マルレク「量子情報とエントロピー」に向けて、ショートムービー「なぜ、コンピュータは 電力を消費し、熱くなるのか?」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/t11yYav4Qts?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z 9/4 マルレクでは、情報とエントロピーにまつわる、様々なエピソードを紹介しようと思っています。ぜひ、お申し込みください。 https://info-entropy3.peatix.com/ コンピュータが電気で動き、熱を発することは、誰でも知っています。 でも、同じ「計算」を行っていても、ソロバンは熱をもつようには見えません。 確かに、電気を使わなくても、指を動かすにはエネルギーが必要です。また、ソロバンも、摩擦で少し熱を持っているうのかもしれません。 ソロバンの使い手の中には、ソロバンを使わずに「暗算」で、とても複雑な計算をやってのける人がいます。ソロバンを使わない暗算では、「計算」にどのようなエネルギーが使われているのでしょう? もちろん、暗算を行う人の脳が「計算」を担っているのは明らかです。人間の脳が活動するためには、エネルギーが必要です。ただ、それは人間が生きるために必要なエネルギーと区別できるわけではありません。一般的には、「腹がへっては、いくさができず」です。 これは「ソロバンの暗算」だけでなく、人間の脳の高度な機能に関わる、難しい問題ですね。僕には、よくわかりません。 ただ、コンピュータが熱を持つことについては、分かっていることがあります。 「コンピュータが情報の 1bitを消去すると、最低でも 𝑘 𝑇 ln⁡2 のエネルギーを環境に放出する。」 ここで、 𝑘はボルツマン定数、Tは環境の温度です。 これを「ランダウアーの原理」といいます。「物質の世界と情報の世界」の結びつきを示す、もっとも早くに行われた、もっとも重要な発見の一つです。 続きは、YouTubeで! --------------------------------- 動画では触れなかったこと ---------------------------------

物質の世界と情報の世界

 【「物質の世界と情報の世界」公開しました 】 9/4 マルレク「量子情報とエントロピー」に向けて、ショートムービー「物質の世界と情報の世界」を公開しました。お楽しみください。 https://youtu.be/FkLWWR8OWs8?list=PLQIrJ0f9gMcOLx0Fm-G0wbNnIRr-GfP2z 「情報」という言葉を私たちは日常的に利用しています。ただ、この言葉は、中国から入ってきたわけではありません。日本で作られたものです。だいぶ昔ですが、成都の信息工程学院という大学を訪問したことがあります。その時、はじめて中国語では「情報」のことを「信息」ということを知りました。 シャノンの情報理論が日本に紹介された時、"information" という言葉が「情報」という言葉に翻訳されたわけでもありません。当時、日本で「情報」という言葉は作られていたのですが、それは「敵情報知・報告」という意味の軍事用語でした。森鴎外たちの仕事だと言われているようです。 「情報理論」は、どう翻訳されていたのでしょう? 簡単です。今のIT業界でも得意技ですが、カタカナ英語で「インフォメーション理論」と訳されていたようです。私たちが今では日常的に使っているような意味で、日本で「情報」という言葉が使われ始めたのは、1950年代の半ば以降のことです。 なんと、「情報」という言葉、僕より若いんです! くやしがってもしょうがないですね。 もちろん、「情報」という言葉はなくても、「なにかを知らせる」とか「なにかについての知識」という意味での「情報」の概念は、世界共通です。 英語では、"information"は、古い言葉です。今朝起きて調べてみたのですが、シェークスピアは、全作品の中で "information" という言葉を 3回使っています。今朝発見した豆知識です。役には立たないかもしれませんが。 肝心な話に入る前に、長くなってしまいました。続きはYouTubeで。

小又ゼミは、14日 21:00 開催です!

【 MMM小又ゼミ「ベクトル空間と線型符号」は、14日(土) 21:00 開催です!】 MaruLabo Micro Media 小又ゼミ「誤り訂正符号の初歩—古典と量子」を、8月14日(土)21:00 〜 から開催します。 今回のテーマは、「ベクトル空間と線型符号」です。講演資料は、こちらです。https://www.marulabo.net/docs/komata01 Zoom から、誰でもアクセスできます。ふるってご参加ください。 https://zoom.us/j/92751429977?pwd=eGtaRUdjUStlTDg2MGlnUWlKSHhXZz09 収録したセミナーは、YouTubeの "MaruLabo Micro Media"チャンネルで配信します。https://www.youtube.com/c/MaruLaboMicroMedia 小又さんからのメッセージです。 「現代の情報技術の基盤にある符号理論 (Coding theory)について学びます。 誤り訂正符号 (Error-Correcting Codes)は、現代の日常生活に不可欠で、数学や物理との関連でも理論的に興味深いものです。数学の初歩的なところから, なるべく具体的な例を用いて、ゼミ形式で小又が発表し, 議論しながら進めたいと思います。」 小又ゼミ「誤り訂正符号の初歩—古典と量子」の今後の予定については、次のページをご覧ください。https://www.marulabo.net/docs/komata/ ------------------------------- MaruLabo Micro Media では、8月、以下のセミナーを開催します。 ご期待ください。 ------------------------------- 8月3日(終了。ビデオ公開済み) 平原ゼミ「Coq スタートアップセミナー 」 第二回「CoqIDEのセットアップ」 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup2/ 8月14日 小又ゼミ「誤り訂正符号の初歩—古典と量子」 第一回「ベクトル空間と線型符号」 https://www.marulabo.net/docs/komata01/ 8月16日 浅海ゼミ「クラウドアプリケーションのためのオ

「あまり知られていないこと」を公開しました!

【「あまり知られていないこと」を公開しました!】 ショートムービー「あまり知られていないこと --  Complete Positive という抽象化」を公開しました! https://youtu.be/L0D-9mTFA4A?list=PLQIrJ0f9gMcMP-CPVK6wtgY3X7W4c0BSi 状態ベクトル使って量子論の原理を記述すると、次の二つの変化の間には、深い断絶が残ります。  ● 観測がなされない場合の、量子の状態のユニタリ変換に従う「決定論」的で「可逆」な変化  ● 観測がなされた場合の、重ね合わせが消失する「確率論」的で「不可逆」な変化 このショートムービーでは、世の中の量子論の本ではほとんど紹介されていない、密度行列の理論の拡張として、CP-mapの理論を紹介します。 そこでは、先に見たような量子の状態変化の二つのタイプの「断絶」は解消され、いずれの変化も CP-mapの作用として記述されます。 スライドは、こちらです。https://drive.google.com/file/d/1FvMxOSlmAg81bdJUnBIH9NMa_61fCH0r/view?usp=sharing まとめページはこちらです。 https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/

新しい「量子の理論」とエンタングルメント

【 新しい「量子の理論」とエンタングルメント】 新しい「量子の理論」が、物理的な世界の理解には情報の世界の理解が必要で、情報の世界の理解には物理的世界の理解が必要だということを明らかにしつつあるということ、また、物理的世界と情報の世界という二つの世界を結びつける重要な概念の一つが「エントロピー」であることを見てきました。 物理的世界と情報の世界を結びつける重要な概念が、もう一つあります。それが「エンタングルメント」です。 エンタングルメントは、物理的世界の奇妙な現象として、アインシュタインによって発見されます。アインシュタイン自身は、「そんな馬鹿げたことはあり得ない」と、そうした現象の存在を否定したのですが、20世紀の物理学の大きな達成の一つは、理論的にも実験的にも、エンタングルメントの実在を確証したことです。 今日では、「物理的世界はエンタングルしている」という事実が疑われることはありません。それは、現代の量子論の中心にしっかりと組み込まれています。そのことは、シュレジンガーやハイゼンベルグやフォン・ノイマンやディラックが活躍した量子論の「古典時代」と現代の量子論の、最大の違いと言っていいものです。 そうした物理学上の発見が、情報の世界と何か関係があるのでしょうか? それは、エンタングルメントを否定したアインシュタインの「理由」を考えてみればわかります。彼は、「情報は光のスピードを超えて伝わることはできない」(そして、これは正しいのです)ことを、エンタングルメントを否定する根拠にしました。 それでは、「情報は光のスピードを超えない」という「情報の局所性」という原理は、物理的世界の物理学的原理でしょうか? 確かにそれはそういうものとしてアインシュタインによって、初めて発見されたのですが、それは、謎に満ちた情報の世界の扉を開く、情報の世界の基本的な原理の発見でもありました。 ひるがえって考えれば、原因と結果の「因果関係」も、物理的世界の法則をある特質を満たす数学的形式で記述する「物理法則」の理解も、情報の世界の言葉で再解釈できるのです。 物理的世界と情報の世界という二つの世界のパラドックスとして登場したエンタングルメントの本姓を深く知ることは重要なことです。「量子情報理論」の重要なコンテンツの一つとして、エンタングルメントの概念が含まれなければなりません。 -----