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7/30 マルレク 「並列・分散アルゴリズムの基礎」講演ビデオ公開

【 7/30 マルレク 「並列・分散アルゴリズムの基礎」講演ビデオ公開 】 MatuLaboでは、開催したセミナーの講演ビデオを公開しています。 今回は、7月30日に開催されたマルレク「並列・分散アルゴリズムの基礎」の公開です。 ---------------------------- このセミナーには、大きく二つの目的があります。 第一は、「排他制御 Mutual Exclusion 」「生産者・消費者同期 Producer-Consumer Synchronization 」といった基本的な並列アルゴリズムを、改めて学ぶことです。 これらのアルゴリズムは、1960年代の半ばにダイクストラらによって定式化されたもので、計算科学のいわば「古典」と言ってもいいものです。 ただ、こうした知識が、現代では不要になったわけではありません。 セミナーの第二の目的は、こうした並列・分散アルゴリズムの基礎理論が、現代ではどのように捉え返され新しい理論化がなされているのか、その一端を紹介することです。 ---------------------------- 次が、講演ビデオの再生リストのURLです。 https://www.youtube.com/watch?v=BS0UByMriBM&list=PLQIrJ0f9gMcOxhU_wwXXGuExXdLqRKuWP この再生リストは、次の四つのビデオを含んでいます。 ● 並列・分散アルゴリズムの基礎 (1) 排他制御 ダイクストラ https://youtu.be/BS0UByMriBM?list=PLQIrJ0f9gMcOxhU_wwXXGuExXdLqRKuWP ● 並列・分散アルゴリズムの基礎 (2) 排他制御 ランポート https://youtu.be/LnVpLb2WFI8?list=PLQIrJ0f9gMcOxhU_wwXXGuExXdLqRKuWP ● 並列・分散アルゴリズムの基礎 (3) 生産者消費者同期 https://youtu.be/EwZsNCYsFow?list=PLQIrJ0f9gMcOxhU_wwXXGuExXdLqRKuWP ● 並列・分散アルゴリズムの基礎 (4) アルゴリズムの正しさへのアプローチ https://youtu.be/Qg9FzNcTC78?list=PLQIrJ0f9g

ベルの定理のブルース

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【 ベルの定理のブルース 】 面倒な話が続いたので、今回は、休憩です。 1990年の1月に、ベルはCERNで "Indeterminism and non locality 非決定論と非局所性"という講演をします。ビデオが残っています。 https://www.youtube.com/watch?v=3l9HtG-VZCU&t=1909s    遠隔作用がないという立場をとれば、決定論になる。  ただ、決定論の立場をとれば、遠隔作用が出てくる。 ベルが発見したのは、簡単にいうとそういうことなのですが、それがミュージシャンを刺激して「ベルの定理のブルース」という曲ができたと、講演の中で楽譜と歌詞の一部紹介しています。 (  https://quantumtantra.tumblr.com/post/101941768645/bells-theorem-blues-doctor-bell-say-we  から曲が聞けます。)  Doctor Bell say we connected  He call me on the phone  Doctor Bell say united  He call me on the phone  But if we really together, baby  How come I feel so all alone?  ドクターベルは、私たちはつながっているという  彼も、電話をかけてきてそういう  ドクターベルは私たちは一体だという  彼も、電話をかけてきてそういう  でも、私たちが本当に一緒なら、あなた  どうして、私はいつも一人だと感じるの?  It’s so easy to forget you  Last night I did it fifty times  And I never think about you  Except from nine to nine  Since we got tangled up in quantum honey  Can’t get that sweet thing off my mind.  あなたを忘れるのは簡単なこと  昨日の夜は、50回もそうした  あなたのことなど考えもしない  9時から9時までの時間以外は  私たちは、量子のよ

対話型ゲームの射程

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【 対話型ゲームの射程 】 CHSHゲームのように、出題者と回答者の二組の対話で進行するゲームを対話型ゲームと言います。 このセッションでは、まず、アスペによるベルの定理の実証的な検証実験とCHSHゲームという対話型ゲームによるアプローチの対応関係を見ていきます。 二つの入力 X, Yを受け取って、二つの出力 A, Bを返す実験装置があるとしましょう。最初は、どんな仕掛けで入力を出力に変えているのか直接にはわからないにしても、実験を繰り返すと、入力と出力のデータの間にある統計的な相関を見つけることができるようになるかもしれません。 まあ、ある場合には二つのデータの間に何の相関も見つからないかもしれないのですが。話は飛ぶのですが、現代の暗号技術の主流になりつつあるラティス暗号のLWE( Learning With Errors )は、一様にランダムなデータと、その中に正規分布する小さなノイズ紛れ込ませたデータを、相互に区別することが難しいことを利用しています。 実験装置が受け取る入力データ X, Y は、対話型ゲームでプレーヤー二人が出題者から問題として受け取るデータに対応します。実験装置の出力データ A, B は、対話型ゲームでプレーヤー二人が出題者に返す回答に対応します。 こうしてみると、対話型ゲームのチーム・プレーヤー二人は、観測装置との比較では、ブラックボックスの「中の人」として振る舞っていることになります。 このプレーヤーは、頭を絞ってゲームに勝つための最良の「戦略」を追求します。それは、隠れた相関を最も敏感に感じ取るための最良の観測装置にゲームを変えます。 入力と出力の相関は、入力 X,Y が与えられた時の出力 A, Bの条件付き確率  P(A, B | X, Y) で表現できます。入力と出力の具体的な値を、x, y, a, b として、これら全てが 0か1の値を取るとすると、先の相関は、次のように分解できます。  p( a, b | x, y )       = p( a, b | 0, 0 )+ p( a, b | 0, 1 )+ p( a, b | 1, 0 )+ p( a, b | 1, 1 ) このとき、 xy = a + b (mod 2) でゲームの勝敗は決まるのですが、プレーや二人はこのルールのもとで、ゲームの勝率が最大になるような「戦

non-local ゲーム

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 【 non-local ゲーム 】 「二人がエンタングルした量子を共有する」 CHSHゲームのnon-local 版は、こうした想定から始まります。ただ、この想定に違和感を持つ人も多いと思います。 一つは、「量子を「持つ」ことなんかできるの?」というものです。確かに、ベルの思考実験でもアスペの実験でも、最初に想定され実験されたエンタングルする量子は光の量子である光子でした。光子は、文字通り光のスピードで運動しますので、もちろん手に持つことはできません。 ただ、non-localゲームの想定は、「二人がエンタングルしたボールを共有する」と考えてもいいのです。 光子だけでなく、電子も陽子も中性子もエンタングルします。それは、原子もエンタングルするということです。エンタングルした原子から、エンタングルした分子が作れます。そうしていけば、エンタングルしたボールだってできるはずです。 物理学者のサスキンドは、二つのチームに別れてエンタングルした物質の片方づつを集めていけば、地球大のエンタングルした物質も、太陽系大のエンタングルメントした物体も、ついには、エンタングルメントするブラックホールだって作れるはずだと言っています。この話は、今回のセミナーでサスキンドとマルデセーナの「ER=EPR仮説」の中で紹介しようと思います。 non-local CHSHの前提を「二人がエンタングルしたボールを共有する」と言い換えても、まだ誤解がありそうです。 それは、多分「共有する」という言葉がまずいのだと思います。これだと一つのボールを二人が共有するというイメージが、先に浮かびます。 そうではないのです。ボールは物理的には二つあります。片方のボールをアリスが、もう片方のボールをボブが持っているのです。アリスが自分のボールをツンツンしようが、ボブが自分のボールでキャッチボールしようが、それは自由にできます。 ただ、二つのボールが全く独立かというと、そうではありません。この二つのボールは、相互にエンタングルメントしています。そのうえ、そのつながりは、直接には目には見えません。不思議な関係です。 こうした non-local なCHSHゲームの想定は、量子を対象にした大規模な実験施設でしか検証できないものとしてのエンタングルメントのイメージを大きく変えるものです。それがその後、どのように発展してい

CHSHゲーム -- local

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【 CHSHゲーム -- local 版 】 今回は、簡単なゲームを紹介します。  アリスとボブのチームが、胴元の出す問題に答えて勝負します。アリスとボブは、チームなのですが、ゲーム中は会話を禁じられています。二人は、別々に胴元の質問に答えなければなりません。 突然、ゲームの話を始めたので、これまでのエンタングルメントやベルの定理の話となんの関係があるんだと思われるかもしれません。 たしかにそうですね。今回のセッションで紹介するゲームは、実は、エンタングルメントとは、直接は関係ありません。 ただ、次回、このゲームにエンタングルする量子が登場します。そこでは、アリスとボブが、エンタングルした量子の片割れをそれぞれ持つという想定が加わります。 それ以外、ゲームの勝ち負けのルールも、アリスとボブがゲーム中会話してはいけないというルールもそのままなのですが、ゲームの様相が変わります。 今回紹介するゲームでは、アリスとボブのチームが勝つ確率は、最大でも75パーセントなのですが、次回紹介するゲームでは、アリスとボブのチームが勝つ確率は85パーセントになります。 それは、古典論=局所実在論のもとでのベルの不等式を、量子論での観測が破ることと同じ現象です。エンタングルメントは不思議なパワーを持っているのです。 今回のゲームを localなゲーム、次回紹介するゲームを non-local なゲームと呼ぶことにしましょう。 ------------------------ 「Bellの定理 (3) -- CHSHゲーム local」を公開しました。 https://youtu.be/O3tyWqWiSFs?list=PLQIrJ0f9gMcN3x9bET7QoK2YWs8dfsKNa スライドのpdf https://drive.google.com/file/d/1IdJAg3Vuiop-sczc5wXEqJ8Xay8_M77a/view?usp=sharing blog:「CHSHゲーム -- local」 https://maruyama097.blogspot.com/2022/10/chsh-local.html まとめページ「エンタングルする自然 ver.2 」 https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement2/ まとめ

CHSHのアイデア

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【 CHSHのアイデア 】 ベルの不等式は、CHSHの不等式と呼ばれることがあります。 このCHSHとは何を意味しているんでしょうか? IT系の人なら、シェルを変えるchsh (change shell)コマンドを連想するかもしれません。残念ながら、それとは関係ありません。 CHSHは、ベルの理論をわかりやすい形に書き換えた四人の物理学者のイニシャルを並べたものです。  Clauser, John  Horne, Michael  Shimony, Abner  Holt, Richard 先頭のクラウザーは、今年のノーベル賞を受賞しました。同じく今年のノーベル賞を受賞したアスぺは、CHSHたちの定式化に基づいて、ベルの理論、エンタングルメントが実際に存在するという理論を、実験的に証明しました。 CHSHの定式化がどういうものであるかは、それに基づいたアスペの実験をみるのがわかりやすいと思います。 アスペの実験装置では、エンタングルした量子の片割れを、右と左の検出器目掛けて打ち出します。左側には二つの検出器A0とA1が置かれ、右側にも二つの検出器B0とB1が置かれます。これらの計四つの検出器が観測した値を a0, a1, b0, b1としましょう。 これらの検出器が観測しようとしているのは量子のスピンです。重要なことは、量子のスピンは、上向き(+1)か下向き(−1)の二つの値しかとらないことです。どんな観測を行っても、a0, a1, b0, b1は、+1かあるいは−1の値しか取りません。 ここからが、CHSHのアイデアが光るところです。 a0 = +1 あるいは a0 = −1で、b0 = +1 あるいは b0 = −1ということは、a0 = a1か a0 = −a1 のどちらかが成り立つということ。前者なら、a0 − a1 = 0 で、後者なら a0 + a1 = 0 が成り立ちます。(ここがポイントですので、ゆっくり考えてください) この時、次の式を考えます。   CHSH =  ( a0 + a1 )b0 + ( a0 − a1 )b1 a0 = a1 なら、この式の後ろの項がゼロとなって消えて   CHSH =  ( a0 + a1 )b0 + 0 = 2a0・b0 a0 = ±1 で b0 = ±1 ですので、a0, b0の値のどの組み合わせでもこの式が

Bellの定理(1)

【  Bellの定理(1)】 Bellの定理は、自然の事象間の古典論的相関と量子論的相関が、異なるものであることを示す定理です。 基本的には、古典的相関は量子的相関に含まれます。量子論の世界には、古典論の世界には含まれない相関関係が存在します。量子エンタングルメントは、まさにそうした相関関係です。 Bellの定理には、いくつかのバリエーションがあります。 セミナーでは、次の三つのスタイルを紹介しようと思います。。  ● Bellによる証明  ● CHSH による定式化  ● CHSHゲームという定式化 このセッションでは、まず、Bellの1964年の証明を紹介したいと思います。 「Bellの定理 (1)」を公開しました。  https://youtu.be/v-tehuIdZsY?list=PLQIrJ0f9gMcN3x9bET7QoK2YWs8dfsKNa スライドのpdf https://drive.google.com/file/d/1I5zubmtMVMI_da0MlKOD5gXV3jyq-Bh0/view?usp=sharing blog:「Bellの定理(1)」 https://maruyama097.blogspot.com/2022/10/bell1.html まとめページ「エンタングルする自然 ver.2 」 https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement2/ まとめページ「エンタングルする認識」 https://www.marulabo.net/docs/philosopy/ セミナーへの申し込み URL https://entangled-nature.peatix.com/view

「エンタングルする認識」ページ更新しました

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 【 「エンタングルする認識」ページ更新しました 】 MaruLabo「エンタングルする認識」ページを更新しました。 https://www.marulabo.net/docs/philosopy/ 10/29マルレク「エンタングルする自然 ver. 2」の開催に合わせたものです。 https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement2/ 10/29セミナーの理解に、参照ください。 「エンタングルする自然」「エンタングルする認識」二つのページは関連しています。 「エンタングルする自然」のページは、21世紀の自然観の中核に「エンタングルする自然」という自然観が生まれていることを紹介しています。「エンタングルする認識」のページは、こうした自然観を、我々がどのように形成・獲得してきたかをみようとしたものです。 「自然の認識」は、「自然」と「認識」という二つの項からできています。ただ、その二つの項はまったく切り離された別々のものではありません。「自然」が新しい相貌の下に立ち現れ始めたということは、「認識」の飛躍が起きつつあるということに他なりません。それは、人間が新しい認識のスタイルを獲得しつつあることを意味します。 僕は、エンタングルメントの認識が、現時点での人間の認識能力の飛躍の中心舞台だと考えています。 小論は、こうした進行中の転換を、1964年のベルの定理(第一部)、1985-6年の対話型証明の登場(第二部)、そして2020年のMIP*=RE定理(第四部)の三つのトピックを中心に概観したものです。 これらは、1930年代のアインシュタイン、チューリング、フォン・ノイマンの仕事に淵源するものです。 このページの各Partの関係については、スライドの図を参考にしてください。 量子コンピュター(第三部)のトピックは、「自然」と「人間の認識」という二項のコンテキストからではなく、「自然と人間と機械」という三項の関係として捉えるのがいいと考えています。 (このあたりの問題については、機械の利用と認識能力の拡大を扱った次のショートムービーをご覧ください。 https://youtu.be/j8flZDzL6yA?list=PLQIrJ0f9gMcMlJbm6pdZKdXwrzWSGyeqL ) 認識の「飛躍」と言いましたが、大き

ベルの再評価

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 【 ベルの再評価 】 今度のマルレクで、量子のもつれあい=量子エンタングルメントが実在することを理論的に示し、量子論の基礎を固めた物理学者ジョン・ベルの話をしようと思っています。 残念ながら、ベルはその大きな功績に比して、あまり知られていないように思います。多分、それは、一般の人には、彼がノーベル賞をもらっていない物理学者であることが大きいように思います。 今年のノーベル賞が、エンタングルメントの実証実験の分野に与えられたことは、ベルの再評価の大きなきっかけになったと思います。 事実、1964年のベルの論文の引用数は今年2022年になって、ロックスターがニュー・アルバムを発表した時のように飛躍的に伸びました。(例えば、https://inspirehep.net/literature/31657 ) このことは、一般の人だけではなく一般の物理学者の少ない部分も、ベルの論文にこれまであまり関心を払っていなかったことを示しているのではと思っています。杞憂でしょうか。 ノーベル賞の影響力、あらためてすごいなと思います。 ベルは、1990年の10月1日、ジュネーブで脳出血で不慮の死を遂げます。 20世紀最大の物理学者の一人だと、多くの人が(僕も)思っているのですが、なぜ、ノーベル賞が与えられなかったかについては、Wikipedia には次のような記述があります。  「ベルは知らなかったのだが、彼はこの年の   ノーベル賞の候補に指名されていたと、   広くいわれている。」 確かめることはできないのですが、ありそうなことかもしれません。ベルは運が悪かったのかも。ただ、それは、そうであってほしいという「都市伝説」かもしれません。 去年も今年もノーベル物理学賞は、10月4日に発表されています。もしも、実証的な実験が重視されるノーベル物理学賞をベルが1990年に受賞することができたのなら、アスぺやクラウザーも受賞できたかと思います。1990年のノーベル物理学賞は、フリードマンら「クォーク模型」の三人に与えられています。 ベルの研究とその評価の流れを見ていると、科学的な研究の評価には、想像以上に長い時間がかかることがわかります。エンタングルメントの発見以来の簡単な年表を作ってみました。   1935年 アインシュタインらエンタングルメント発見   1964年 ベル エンタングルメン

10月29日 マルレク「エンタングルする自然」を開催します

【 10月29日 マルレク「エンタングルする自然」を開催します 】  10月29日 マルレク「エンタングルする自然 -- 「逆理」から「原理」へ」を開催します。 お申し込みは、次のページからお願いします。https://entangled-nature.peatix.com/ 今回のマルレクのテーマは「量子エンタングルメント=量子もつれ」です。 2022年のノーベル物理学賞は、アラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーの三人に与えられました。三人は、いずれも「エンタングルメント」にかかわる実証的な実験の分野で大きな仕事をしてきた人たちです。三人のノーベル賞受賞をきっかけに、量子の世界の不思議な現象である「量子エンタングルメント」に対する関心が高まることを期待しています。 エンタングルメントは、現代では量子の世界ひいては自然のもっとも基本的な現象だと考えられています。今回のセミナーでは、「エンタングルする自然」という新しい自然観の成立を、一つのドラマとして紹介しようと思います。 アインシュタインが今から80年以上前に、量子論の矛盾を示す「逆理」として提示したこの現象は、当時の量子論の主流派であったボーアたちからは、黙殺されました。ベルは、ボーアたちとは異なる立場からこの問題を考え、量子論の正しさを理論的に確立します。 21世紀になって、マルデセーナやサスキンドは、量子論と相対論の統一を目指す取り組みの中で、エンタングルメントの重要性に改めて気づきます。先にも述べたように、エンタングルメントは、現代では、量子論の重要な「原理」の一つとして扱われているのです。 「逆理から原理へ」というタイトルは、そのことを指しています。 今回のセミナーは、以前マルレクでおこなった「 楽しい科学 -- エンタングルする自然」 というセミナー https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement/   と基本的には同じ内容にしようと思っています。「楽しい科学」というタイトルが示すように、科学が好きな多くの人に、自然観の変化の大きな流れとエンタングルメントの重要性を、楽しく伝えられればと思っています。 前回のセミナーとの違いは、主に、次の二点にあります。ご期待ください。 ● エンタングルメントについて、ベルの果たした大きな役割を

タイプで打つ数式

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 【 タイプで打つ数式 】 ある論文の参考文献に挙げられている本をネットで見かけたので、チラ見。全ての数式がタイプで打たれている。確かに、昔はそうだった。プリンストンの赤い表紙のレクチャー・ノートもみなそうだった。もう忘れていた。 ハーフ・スペース、半改行を駆使していて、ちょっと感心する。Theta関数についての本なのだが、肝心のthetaはすべて手書き。すごい手間だと思う。これ本人がタイプしたのかしら。助手がタイプしたのなら、すごく優秀な助手。どちらにしても、バグ取りも大変だったと思う。 今では、ワードでもパワポでもWebでも、かなり自由にLateXが使える。TeXやLaTeXをつくったクヌースやランポートは、本当にエライと思う。数学の論文を書く手間、講義のスライドを作る面倒さは、大幅に改善された。その上、読みやすい。感謝しかない。 LaTeXでつくったスライドなしで、講義すること学会で発表することは大変だったと思ったが、多分、実は、それはそうでもないことに気づく。黒板とチョークを使えばいいのだ。 論文のアイデアやその理解は、ただ、そうした表現手段とは独立に生まれるものだ。それには、頭さえ動けば、紙と鉛筆で十分なのかも。多分それは、時代が変わっても変わらないだろう。 CS(計算科学)専攻の院生に、「この本読んどいて」とMumfordの本を指示するCSの教授も格好いいな。

2022年ノーベル物理学賞の三人

 【 2022年 ノーベル物理学賞の三人 】 2022年のノーベル物理学賞は、アラン・アスペ、ジョン・クラウザー、ア ントン・ツァイリンガーの三人に与えられた。三人とも「エンタングルメント」つながりだ。 アスペは、局所実在論を否定し、量子論とエンタングルメントの実在的基礎を確立した画期的なジョン・ベルの仕事「ベルの不等式」を、実験的に検証した人。 クラウザーは、「ベルの不等式」をわかりやすい対話型ゲームで置き換えた「 CHSHゲーム」を考えた人。 ツァイリンガーは、エンタングルメントを利用した、ベネットらの「量子テレポーテーション」を実験的に成功させた人。 自分も、関心を持っている分野なので、これでエンタングルメントに関心を持つ人が増えればと少し嬉しく思う。 その反面、なんで、これらすべての元祖であるジョン・ベルにノーベル賞が与えられなかったのかと、いつも残念に思う。理論より実験が重視されるとは言われているのだが、アスペの実験がなされたときに、ベルとアスペが一緒にノーベル賞あげてもよかったと思う。 MaruLaboには、エンタングルメント関連のコンテンツがたくさんある。興味ある人は、参照してほしい。 ● アスペの仕事の関連 MaruLabo「 エンタングルメントで理解する量子の世界」 https://www.marulabo.net/docs/entangle-talk/ MaruLabo 「エンタングルメント」関連ページ https://www.marulabo.net/marulabo-entanglement/ ●  クラウザーの仕事の関連 MaruLabo「nonlocal game とInteractive Proof」 https://www.marulabo.net/docs/nonlocal-game/ https://youtu.be/ABqomQKq8FI?list=PLQIrJ0f9gMcMzPu0NUHkZz9n7mU7UzwkB ●  ツァイリンガーの仕事の関連 MaruLabo「 エンタングルメントと量子テレポーテーションを学ぶ」 https://www.marulabo.net/docs/teleportation/ MaruLabo「 量子通信入門 -- 量子ゲートで学ぶエンタングルメント」 https://www.marulabo.

Regevが示したこと (3)

【 Regevが示したこと (3) -- LWE問題の古典論的還元 】 「ラティス暗号入門」のセミナーは、ひとまず終わりました。そこでは、「ラティスとは何か?」「LWE暗号とは何か?」について入門的な解説を行いました。 今回のセミナーの第三部では、「ラティスとラティス暗号」という章を設けていたのですが、時間の関係で、セミナーではほとんど語ることができませんでした。 入門講座という性格にもよるのですが、このセミナーでは、この分野で最も重要な貢献を果たしたRegevの仕事の紹介は、十分なものではありませんでした。その上、セミナーで主要に取り上げたのは、2005年のRegevの論文だけでした。 Regevはこの2005年の論文以降も、活発に活動を続け、暗号の世界に理論的に大きな影響を与えました。 ここでは、彼が2005年以降発表した論文から、次の三つのトピックを補足しようと思います。 ● 2013年 LWE問題のラティス問題への古典論的還元 Regev et al., Classical Hardness of Learning with Errors , 2013 ● 2015年 DGサンプリングとラティス問題の関係 Regev et al., Solving the Shortest Vector Problem in 2^n Time via Discrete Gaussian Sampling, 2015 ● 最近の話題 Regev, Quantum Computation and Lattice Problems, 2018(<= 2003) 今回は、2013年の「LWE問題の古典論的還元」論文についてです。 --------------------- 動画「LWE問題の古典論的還元」を公開しました。ご利用ください。 https://youtu.be/jJTSzzsJXNI?list=PLQIrJ0f9gMcPtw-6OwIOO2rFKu_A-7OfF この動画のpdf は、こちらからアクセスできます。 https://drive.google.com/file/d/1FVbyQVmgg1yNl2nBxMDtKsIXuV7rX6Hd/view?usp=sharing 「ラティス暗号入門」のまとめページはこちらです。 https://www.marul

6/25 マルゼミ「エントロピー論とカテゴリー論」の講演ビデオ公開しました

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  【 6/25 マルゼミ「エントロピー論とカテゴリー論」の講演ビデオ公開しました】 MaruLaboでは、以前に行われたセミナーのビデオを公開しています。今回は、6月25日に開催されたマルゼミ「エントロピー論とカテゴリー論」の講演ビデオの公開です。 ご利用ください。 6/25 マルゼミ「エントロピー論とカテゴリー論」の講演ビデオの再生リストのURLです。 https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcO9a52VkdEjtFr-N4ihNrnS この再生リストは、次の三つのビデオを含んでいます。 ● 「第1部 新しいエントロピー論の登場」 https://youtu.be/gsXwFsk9gIg?list=PLQIrJ0f9gMcO9a52VkdEjtFr-N4ihNrnS ● 「第2部 カテゴリー論的アプローチの基礎」 https://youtu.be/jR0sMfzkacA?list=PLQIrJ0f9gMcO9a52VkdEjtFr-N4ihNrnS ● 「第3部 相対エントロピーのカテゴリー論的解釈」 https://youtu.be/AJtHytcOVYg?list=PLQIrJ0f9gMcO9a52VkdEjtFr-N4ihNrnS このセミナーの講演資料は、次からアクセスできます。 https://drive.google.com/file/d/1kVIW8rTV-nqvG31HLNEzGmeQ9MMMEyG8/view?usp=sharing このセミナーのまとめページは、次のページです。 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy5-addendum/