ベルの再評価

 【 ベルの再評価 】

今度のマルレクで、量子のもつれあい=量子エンタングルメントが実在することを理論的に示し、量子論の基礎を固めた物理学者ジョン・ベルの話をしようと思っています。

残念ながら、ベルはその大きな功績に比して、あまり知られていないように思います。多分、それは、一般の人には、彼がノーベル賞をもらっていない物理学者であることが大きいように思います。

今年のノーベル賞が、エンタングルメントの実証実験の分野に与えられたことは、ベルの再評価の大きなきっかけになったと思います。

事実、1964年のベルの論文の引用数は今年2022年になって、ロックスターがニュー・アルバムを発表した時のように飛躍的に伸びました。(例えば、https://inspirehep.net/literature/31657 )

このことは、一般の人だけではなく一般の物理学者の少ない部分も、ベルの論文にこれまであまり関心を払っていなかったことを示しているのではと思っています。杞憂でしょうか。

ノーベル賞の影響力、あらためてすごいなと思います。

ベルは、1990年の10月1日、ジュネーブで脳出血で不慮の死を遂げます。
20世紀最大の物理学者の一人だと、多くの人が(僕も)思っているのですが、なぜ、ノーベル賞が与えられなかったかについては、Wikipedia には次のような記述があります。

 「ベルは知らなかったのだが、彼はこの年の
  ノーベル賞の候補に指名されていたと、
  広くいわれている。」

確かめることはできないのですが、ありそうなことかもしれません。ベルは運が悪かったのかも。ただ、それは、そうであってほしいという「都市伝説」かもしれません。

去年も今年もノーベル物理学賞は、10月4日に発表されています。もしも、実証的な実験が重視されるノーベル物理学賞をベルが1990年に受賞することができたのなら、アスぺやクラウザーも受賞できたかと思います。1990年のノーベル物理学賞は、フリードマンら「クォーク模型」の三人に与えられています。

ベルの研究とその評価の流れを見ていると、科学的な研究の評価には、想像以上に長い時間がかかることがわかります。エンタングルメントの発見以来の簡単な年表を作ってみました。

  1935年 アインシュタインらエンタングルメント発見
  1964年 ベル エンタングルメントの存在の理論的証明
  1982年 アスぺらエンタングルメントの存在の実証実験
  1990年 ベル死去
  2022年 エンタングルメント研究にノーベル賞授与

アインシュタインの発見からベルの定理まで29年、ベルの定理からアスぺらによる実験の成功まで18年、ベルの定理(ベル不等式の破れ)からノーベル賞まで58年!

ともあれ、エンタングルメントと量子論の基礎に関心が集まるのは嬉しいことだと思います。

最後に一つだけ。

量子論の基礎については、アインシュタインとボーアの論争が有名です。ベルは、アインシュタインの批判に対して、量子論の立場を擁護しその基礎を確かなものにしたのですが、ベルは量子論の基礎について、ボーア、ハイゼンベルグたちのいわゆる「コペンハーゲン学派」とは異なるビジョンを持っていました。

彼は、アインシュタインを尊敬しつつ、理論的には、物理学者 ボーム(David Bohm)から強い影響を受けています。ボームもまた、一般には、あまり知られていないかもしれません。次回、ボームの話をしたいと思います。



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