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11月, 2021の投稿を表示しています

11/30 平原ゼミ第四回 講演ビデオ公開しました

【 11/30 平原ゼミ第四回 講演ビデオ公開しました 】 11/30 平原ゼミ「Coq スタートアップセミナー 」第四回「VsCoqのセットアップ」講演ビデオ公開しました。ご利用ください。 https://youtu.be/jFmOMsGMUXc?list=PLTCzV3aLjJ1QyzxQPF5LPS2VERiiHTn4g 講演資料は、次のページからアクセスできます。 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup4/ これまでの平原ゼミ「Coq スタートアップセミナー 」は、こちらからアクセスできます。  ● 第一回「Coq環境の紹介」 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup/  ● 第二回「CoqIDEのセットアップ」 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup2/  ● 第三回 「jsCoqのセットアップ」 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup3/  ● 第四回 「VsCoqのセットアップ」 https://www.marulabo.net/docs/coq-startup2/

「エンタングルする自然」講演ビデオ公開

【「エンタングルする自然」講演ビデオ公開 】 MaruLaboが行った有料セミナーの講演ビデオは、順次、全編無料公開することにしているのですが、3月の「エンタングルする自然」の講演ビデオは一部しか公開されておらず、4月の「エンタングルする認識」の講演ビデオは、公開されていませんでした。 12月に「エンタングルメント」についての基礎的なセミナーを予定しているのですが、その準備を始めようとして気づきました。 3月のセミナー「エンタングルする自然」の講演ビデオ、全編公開しました。 「エンタングルする自然 / エンタングルする認識   I 」のページ https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement/ から、アクセスできます。ご利用ください。 12月の「エンタングルメント」セミナーの背景知識として役に立つと思います。 ここに収録されているのは、次の四本のビデオです。( Part I は公開済みでした )  ● Part 1  エンタングルメントの発見 — 「逆理」から「原理」へ https://youtu.be/YdL8ARu0W7k?list=PLQIrJ0f9gMcOzHD2qVN9n1xb6d-Eq-Ep5  ● Part II  20世紀の自然科学 https://youtu.be/mPsOHYCqp_E?list=PLQIrJ0f9gMcOzHD2qVN9n1xb6d-Eq-Ep5  ● Part III  量子論と相対論の「対応」の発見 https://youtu.be/9WiSZebzT98?list=PLQIrJ0f9gMcOzHD2qVN9n1xb6d-Eq-Ep5  ● Part IV 「時空」を生み出す「原理」としてのエンタングルメント https://youtu.be/tPOCywrULQ8?list=PLQIrJ0f9gMcOzHD2qVN9n1xb6d-Eq-Ep5 「エンタングルする認識」の講演ビデオも、タイミングをみて公開します。こちらの公開は、いま少しお待ちください。

11/26 マルゼミ・11/27 小又ゼミ、講演資料公開しました

【 11/26 マルゼミ・11/27 小又ゼミ、講演資料公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識」の講演資料公開しました。 次のページの「講演資料 公開」からアクセスできます。ご利用ください。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ セミナーへのお申し込みは、次のページからお願いします。 https://philosophy02.peatix.com/ お申し込み、お待ちしています。

MaruLabo 「計算科学と複雑性」関連ページを作成しました

【 MaruLabo 「計算科学と複雑性」関連ページを作成しました】 マルレク、テーマが毎月いろいろ変わるので、全体として何を伝えたいのかわかりにくかったかもしれません。 マルレク+MaruLaboは、「技術と科学の未来講座」を目指しています。未来の若者(基本的には「未来のIT技術者」を念頭に置いています)が学ぶことになるだろうと僕が考えていることを提示しています。 現在、そうしたイメージをわかりやすくするために、関連するトピックスをまとめたページを作成しています。 今回は、この間のMaruLabo での計算科学と複雑性に関連したトピックを取り上げたセミナーのまとめページ「計算科学と複雑性関連ページ」を作成しました。    https://www.marulabo.net/marulabo-complex/ このトピック、ページが多いので「複雑性」と「開発方法論」と「チュートリアル」の三つに分けました。 これで、マルレク+MaruLaboのポインター・ページは三つになりました。  ● 「エントロピー」関連ページ   https://www.marulabo.net/marulabo-entropy/  ● 「エンタングルメント」関連ページ    https://www.marulabo.net/marulabo-entanglement/  ● 「計算科学と複雑性」関連ページ   https://www.marulabo.net/marulabo-complex/ 丸山が、フォーカスしているテーマは主要にこの三つですので、ポインター・ページの作成は、当面、これで終わりです。 このポインター・ページがポイントしているページのコンテンツを、より利用しやすいものにする作業を、現在、進めています。(ごめんなさい。まだ手が回っていません) マルレク+MaruLaboのページを、いつでも、またどのページのどの部分からでも「読める資料」として整備していきたいと思っています。基本的には、ネットのコンテンツで、自分のペースで自分で学ぶという学習スタイルを想定しています。

形式手法 -- 次の30年

昨日Springerで買ったのは「形式手法 -- 次の30年 ( Formal Methods – The Next 30 Years) 」という今年10月に行われた国際学会の論文集だった。 冒頭の招待講演の内容にすこしゲンナリする。 形式手法は安全性を「証明」するだけでなく、安全性を改善するためにも用いなければならないという。まあ、それはいいのだが、学部の一年生から正規表現と有限状態マシンのことをきちんと教えるのがいいという話で話を締めくくっている。 「そこじゃないだろう。エライ人かもしれないが、話はピンボケ。」 生意気な自分の院生時代のことを思い出した。ピンボケと言われるのは、今度は自分の番なのに。 気を取り直して、次の論文「形式手法における人間」を読む。 この論文の主要な関心は、どうやったら仕様を書くことを人に教えられるのかということ。教育の問題に対する目配りは、広い。また、どうしたらそうした層を、子供からリタイアした人にまで、広げられるのかという「形式手法の民主化」という問題意識はいいなと思う。 次の論文は、形式手法で検証済みのマイクロカーネル seL4 を作ったアンドロニックのもの。彼は形式手法の受容の基本的問題を「アカデミックな研究」と「IT業界の実践」のギャップと捉えている。そうした分裂を克服した "One Team"の必要について、seL4開発の経験を交えて語る。それは、突き詰めれば「社会的要因」の問題だとする。 ここまでは良かった。 ただ、この二つの論文以降は、ずーっと、技術的な論文が並ぶ。どこにも「形式手法 -- 次の30年」の話はない。 だまされたみたい。 冷静に考えれば、若手だろうがベテランだろうが、「形式手法 -- 次の30年」なんてテーマの論文を「学会誌」に投稿しても、絶対、受理されるされるわけないんだから。「学会」の「表現」は「不自由」なものだ。 それに、「次の30年」って、長すぎると今気がついた。 僕だって、30年後のITを語ることはない。それは30年後の社会や、100年後の地球環境を語るより多分難しい。僕の視界は、長くて 10年か20年(適当に言っている)。 タイトルに、釣られたんだと悟る。 二つの論文のために、一万数千円はらったことになる。まだ、24時間経っていないので、クーリング・オフできないかな。 ====

コミュニティとしての大学・メディアとしての大学

明日、あるところで頼まれて大学問題で講演する。大学について考えたり語るのは久しぶりだ。いただいたお題は「クラウドサービスを積極活用した 大学の未来像 」というIT寄りのものだったのだが。 講演の準備で、この間、HarvardやStanfordやMIT等の大学サイトを調べていた。 日本と比較して、いろいろと考えさせられることがあった。特に、大学の情報発信の多様さと豊かさ、それを維持する情熱とそれを自発的に支える人の広がりに、息を呑んだ。これらの大学は、優れたコンテンツを持った、巨大なネットワーク・メディアを形成しているのだ。 大学の規模の問題ではない。多分、これらの大学より規模の大きな大学は、日本にはたくさんある。また、おそらく「広報予算」の大小の問題でもない。「広報・宣伝」の組み立て方が、全然違うのだと思う。 今日はちょっと忙しく、詳しいは展開できないので、すこし抽象的になるのだが、要点だけ、まとめてみようと思う。 キーワードは二つある。「コミュニティとしての大学」「メディアとしての大学」である。(「同窓会があります」とか「大学の広報・宣伝に、沢山お金をかけています」というのを念頭において読んでもらうといいのかも。) (当たり前と思うかもしれないが、大学コミュニティの中にも社会は入り込んでいる。学生は、一時的に大学を通過するだけかもしれない。放っておけば、大学コミュニティのまとまる力は存外弱いのだ。) ・社会の中に、 大学という「コミュニティ」がある。 ・社会の中でのこのコミュニティの中心的ミッションは、 「教育と研究」であり、その主人公は学生である。 ・大学コミュニティへの帰属意識は、「我々は、こういうコミュニティなのだ」という自発的なものである。 ・それを維持する上で、大学からの 「情報発信」は、不可欠な役割を果たす。 ・大学は、社会の中で、メディアになり、コンテンツ・ホルダーになる。 ・その不断の情報発信を支えているのは、コミュニティのメンバーの自発性である。 ・メディアとしての大学にとって、大学の内外の区別は、大きな意味を持たない。むしろ、誰もがアクセスできるのは、大きな武器になる。 ・こうした大学のあり方を、Social化・Global化したネットと、IT技術が可能としている。 ================= 2014年11月20日  FBへの投稿

JaynesのMAXENT -- Gibbsの論理の不思議なパワー

 【 JaynesのMAXENT -- Gibbsの論理の不思議なパワー 】 11/26 マルゼミ「認識について2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」の動画と資料です。ご利用ください。 https://youtu.be/IGiPmn8c5IQ?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX 動画のスライドは、 https://drive.google.com/file/d/1_nTAnVhWXotbHA_6CEK40YKgGk189OWb/view?usp=sharing からアクセスできます。 本投稿のもっと詳しい情報は、こちらからアクセス出来ます。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ 現代のBayesian理論の最大の貢献者は、 E.T.Jaynes です。相対エントロピー の重要性を最初に指摘したのも彼です。 このセクションでは、Jaynes  の 「MAXENT = 最大エントロピー原理」を紹介します。 それは、統計理論の枠を超えて、科学の方法論、さらには、認識の理論としも、大きな影響力を持っています。 ここでは、JaynesのMAXENTのアイデアの出発点となった、Gibbsの方法とその不思議なパワーについて述べてみようと思います。 Gibbsの方法は、不思議なパワーを持っています。 たとえば、ある系のエネルギーについて考えてみましょう。 我々は、ある系がどのようなエネルギーをもつかを、観測によって知ることができます。 しかし、それだけでは、明らかに情報が不足していて、その系がどのようなエネルギー分布に従っているかを知ることは出来ません。観測された平均的なエネルギーだけから、系のエネルギー分布を知ることは不可能です。 ところがGibbsは、この不可能を可能にしました! 我々が知っていることは、系の平均的エネルギーが E であるということだけです。系の確率分布をp_iとすると、この条件は式で表すことができます。 もう一つ、我々が知っていることがあります。それは、p_i の和が 1になることです。 ただ、あきらかに、情報が不足していて、この二つの式だけから p_iを求めることは不可能です。 Gibbsは、欠けている情報を、利用できる他の情報で補おうとします。

MaruLabo「エンタングルメント関連ページ」を作成しました

【 MaruLabo「エンタングルメント関連ページ」を作成しました 】 この間の、MaruLabo でのエンタングルメントに関連したトピックを取り上げたセミナーのまとめページ「エンタングルメント関連ページ」を作成しました。ページのリンクだけでなく、それぞれのコンテンツの見出しにもリンクを張りました。ご利用ください。   https://www.marulabo.net/marulabo-entanglement/ 現在、少しずつですが、MaruLabo のホームページの改善を進めています。 これまでのMaruLaboのページは、ビデオのコンテンツを前面に出していたのですが、これからは、まず、pdfの資料にアクセスしやすいページにしようと考えています。 同時に、YouTubeのコンテンツについては、「チャプター機能」を利用して、動画の必要な場所に、すぐジャンプできるようにしていきたいと考えています。 今回、「エンタングルメント」に関連して、細かなリンクとチャプターのタイムスタンプを作成できたのは、次の二つのページだけです。全体については、作業を進めますので、少しお待ちください。  ● 「エンタングルメントで理解する量子の世界 https://www.marulabo.net/docs/entangle-talk/  ● 「密度行列 ρ で理解する量子の世界」 https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/ 何年か前に、IT技術者を対象として量子論の基礎と量子ゲートの働きを教えたことがあるのですが、その人たちに次のステップとして、「エンタングルメント」を基礎から解説しようと思っています。もちろん、あたらしい人、歓迎です。

「エントロピー関連ページ」を作成しました

【 MaruLabo「エントロピー関連ページ」を作成しました 】 この間の、MaruLabo でのエントロピーに関連したトピックを取り上げたセミナーのまとめページ「エントロピー関連ページ」を作成しました。ページのリンクだけでなく、それぞれのコンテンツの見出しにもリンクを張りました。ご利用ください。  https://www.marulabo.net/marulabo-entropy/ 現在、少しずつですが、MaruLabo のホームページの改善を進めています。 これまでのMaruLaboのページは、ビデオのコンテンツを前面に出していたのですが、これからは、まず、pdfの資料にアクセスしやすいページにしようと考えています。 先のコンテンツへの細かなリンクの設定も、ビデオを「見てもらう」ページから、資料を「読んでもらう」ページに重点を移すのに役立つと思っています。ビデオを開かなくても、簡単に資料の一部分を確認することができます。 資料のpdf Viewer は、画面にカーソルをおけば、上下に資料のスクロールが可能です。 もちろん、動画の配信は引き続き頑張っていこうと思います。 MaruLaboのページからも、資料のタイトルをクリックすれば、すぐにYouTubeが開きます。 動画中心にアクセスしたい方は、丸山のYouTubeチャンネル "Maruyama  Lectures" https://www.youtube.com/c/MaruyamaLectures の方が便利かもしれません。こちらへのチャンネル登録、よろしくお願いします。 ======================= 先の「エントロピー関連ページ」は、次のページたちへのポインターになっています。 是非、資料として、ご利用ください。  ● 「情報とエントロピー入門」 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy/  ● 「情報とエントロピー」 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy2/  ● 「量子情報とエントロピー」 https://www.marulabo.net/docs/info-entropy3/  ●  「量子、情報、物理 — 量子情報と物理学入門 」https://www.marulabo.

Deep Learning と相対エントロピー

【 Deep Learning と相対エントロピー 】 11/26 マルゼミ「認識について2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」の資料です。ご利用ください。 ページの構成変えました。下のリンクに飛べば、pdfのviewerに着地しますので、そのままでスライドの資料が読めます。viewerのタイトルをクリックすれば、YouTube 動画をみることができます。お試しください。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/#Deep_Learning_%E3%81%A8%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%94%E3%83%BC 本投稿のもっと詳しい情報は、こちらです。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ ====================== 11/26 マルゼミへのお申し込みは、次のページからお願いします。 https://philosophy02.peatix.com ====================== 【 「学習」のBayesian的解釈 】 前回見た「認識の発展」解釈とは逆に、もしも、最初から正しい分布q を、何らかの方法で我々が知っていて、実験 𝑝(𝑡)を繰り返すのなら、 H(𝑞||𝑝(𝑡)) は、実測値𝑝(𝑡)から、正しい答えq に至るために「学習しなければいけない情報量」を表すことになります。 q は、「常に正しい」と仮定しているので、それは時間には依存しません。qは、tを含まないことに注意してください。 ここでは、 H(𝑞||𝑝(𝑡))=0 は、「もはや、学習すべき情報が残されていない」ことを意味して、その状態で、学習は終わります。 【 クロス・エントロピー 】 ディープラーニングでコスト関数として利用される「クロス・エントロピー」は、こうした「相対エントロピー」の一種です。 「正しい」分布をq、実測値を pとしたとき、クロス・エントロピー 𝐻_𝑐𝑟𝑜𝑠𝑠 (𝑞, 𝑝)は、次の式で定義されます。   𝐻_𝑐𝑟𝑜𝑠𝑠 (q, p)  = ∑  q_i  log ⁡p_i   シャノン・エントロピー H

グロタンディーク七周忌

【 グロタンディーク七周忌 】 7年前の今日、グロタンディークが亡くなった。 日本風に言えば、今日が七周忌だ。 もっとも、そんなこと覚えていたわけではない。 Facebookの「過去のこの日」「思い出」というページに、7年前の僕の短い投稿が残っていた。 ---------------------------------------- グロタンディークがなくなった。 Toposも、最近のHomotopy Type Theoryも、彼なしには生まれなかったと思う。ただ、それは彼の仕事が及ぼした影響の一部に過ぎない。彼のビジョンは、今もまだ、生きている。 東京から稚内に行こうとしたとき、友人が、SGAをプレゼントしてくれた。 一番嬉しいたむけだった。 冥福を祈る。 ---------------------------------------- Facebookの「過去のこの日」の機能は、素晴らしい。なんせ、自分が忘れたことを覚えてくれているのだから。でも、グロタンディックが亡くなってから、Facebookに彼について投稿したことを思いだした。 Facebookへの投稿は、タイムラインの流れとともに消えていく。改めて、シェアし直したところで、やはり、いっときは何人かの目には止まるだろうが、やはり消えていくだろう。悪いことに、自分だって何を書いたのか忘れてしまうこともある。すこし、虚しいと思う。 いくつかのFacebookへの投稿を、自分のblogに再収録しようかなと思っている。 グロタンディック 追悼投稿 「無言の誓い」   「有名な数学者も間違える」 丸山 blog https://maruyama097.blogspot.com/

有名な数学者も間違える

難しい論文を、ウンウンわかったつもりになって読み進んでいたら、途中で「なんちゃって」とか「うそピョーン」とか書かれていれば、やる気は失せるだろう。 1983年のグロタンディックの仕事 ‘Pursuing Stacks’ は、ある分野(presheaf Topos)のホモトピー論について、非常に多くの問題を論じている。それは、600ページもある。グロタンディックは、数週間にわたって、夜通しタイプライターに向かっていたと思う。 グロタンディックだって、疲れがたまれば間違いを犯す。朝になると、グロタンディックは、前夜に行った証明・説明の誤りに気づく。ただ、彼は、前夜の間違いを草稿から消そうとせず、それはそのままにして、訂正された証明・説明を朝には草稿に付け加えて、仕事を続けたのだ。 グロタンディックのこの草稿を、どのような形で世に出すべきかで、ローヴェールとグロタンディックで意見の違いが起きてしまう。ローヴェールは、良心的な編者としては、間違った部分は削除し、それについては編者のコメントをつけて出すべきだと言ったのだが、グロタンディックは、草稿の間違いをそのまま残すことに固執した。 その理由が面白い。 「そうすれば、学生たちに、有名な数学者でさえ間違いを犯すということを学ばせるいい機会を提供することになる。」 ローヴェールは反対する。学生に提供すべきは、そんなことではなく、この本をちゃんと学生たちに読んでもらう機会を作ること。科学的な対象は、それでなくとも学ぶのが難しいのに、罰ゲームみたいな回り道を学生にさせる必要はないと、譲らない。 両者の議論は平行線で(そういえば、二人とも頑固そう)、結局、ローヴェールが編者になって、グロタンディックの‘Pursuing Stacks’ を出版するという世紀のプロジェクトは幻に終わった。 (僕が、そうした試みがあったことに、ようやく気づいたのは、今年の夏だった。もっとも、2013年のローヴェールの発言 "FAREWELL TO AURELIO" http://www.acsu.buffalo.edu/~wlawvere/FarewellAurelio.htm   まで、そのことを知っていた人は、ほとんどいなかったはずだ。) ただ、無茶振りをしているかに見える、グロタンディックの「数学者も間違える」ものだという認識は

無言の誓い

グロタンディックに頼まれたカルボーニは、自分のアルファ・ロメオにローヴェールを乗せ、南仏の田舎のラベンダー畑の中のグロタンディックのボロ家に、彼を連れて行った。1989年のことだ。 2013年にカルボーニが亡くなった時、ローヴェールは、追悼文の中で、今まで知られてなかった事実を、初めて明かしている。 この時、グロタンディックはローヴェールに、自分が書きためた "Pursuing Stacks" の草稿の編集と出版を引き受けてもらおうとしていたというのだ。僕はローヴェールの「おっかけ」だったので、この「人選」は妥当なものだと思う。 (IT業界でたとえれば、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスが、大事なビジネスの話で密会したようなもの) グロタンディック後期の代表的な論稿 "Pursuing Stacks" は、1983年頃に書かれたものだ。ただ、数学のアカデミーに背を向け田舎に隠棲していたグロタンディックのこの草稿の存在が広く知られるようになったのは、1990年代に入ってからだと思う。それは、草稿のコピーの形で人から人へと回覧された。 ローヴェールとグロタンディックの1989年の話に戻るが、面白いのは、この時、グロタンディックは、宗教的な「無言の誓い」の行の真っ最中で、話すことも数学について語ることも自分に禁じていたらしい。 人に頼みごとをしようとしていて、「無言の誓い」もないものだが、こんなすれ違いが起きるのは、グロタンディックの家には、電話がなかったからだと思う。(ビル・ゲイツが貧乏で、電話を止められていたと思えばいい。) でも、ローヴェールの突然の訪問が、嬉しくないわけはない。グロタンディックは、紙に "Bill !" と書いて、ローヴェールに示したという。 二人が会って数学の話をしないわけはない。数学については語らないというグロタンディックの誓いを、彼は自分で破ることになる。でも、しばらくは、筆談で数学の話をしたらしい。 最初から前途多難だが、まだ、続きがある。それについては、次回に。 ============================= 4年前( 2017年11月19日  )のFBへの投稿から

prior と posterior で認識の発展を記述する

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【 prior と posterior で認識の発展を記述する 】 11/26 マルゼミ「認識について2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」の資料です。ご利用ください。 ページの構成変えました。下のリンクに飛べば、pdfのviewerに着地しますので、そのままでスライドの資料が読めます。viewerのタイトルをクリックすれば、YouTube 動画をみることができます。お試しください。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/#Prior%E3%81%A8Posterior%E3%81%A7%E3%80%8C%E8%AA%8D%E8%AD%98%E3%81%AE%E7%99%BA%E5%B1%95%E3%80%8D%E3%82%92%E8%A8%98%E8%BF%B0%E3%81%99%E3%82%8B 本投稿のもっと詳しい情報は、こちらです。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ ====================== 11/26 マルゼミへのお申し込みは、次のページからお願いします。 https://philosophy02.peatix.com ====================== 【 相対エントロピーの直観的意味 】 直観的に言えば、相対エントロピー H(q||p) は、あるシステムが確率分布 p に従っているという仮説的認識から出発して(これが ‘Prior’ です)、 その後、そのシステムの「正しい」あるいは「実際」は、確率分布 qに従っていることを学んだ(これが‘Posterior’)時に、得られる情報量です。 【 コイン・トスを例に相対エントロピーを計算する 】  Case 1:例えば、コイントスに使われるコインが、かたよりがなく公正なものだという仮定から出発して、実際に、コインの表がでたとすれば、その相対エントロピーは、log 2 となって、我々は1bitの情報を得たことになります。 Case 2:しかし、コインは常に表が出るという仮説から出発すれば、表が出たとしても、我々の得る情報、すなわち相対エントロピーはゼロになります。 【 PriorとPosteriorで「認識の発展」を記述する 】 認識のある段階で、我々はあるシス

確率的推論での「認識の発展」の議論に入る前に– 前節までのまとめと補足 —

【 確率的推論での「認識の発展」の議論に入る前に– 前節までのまとめと補足 — を公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/LP71tgM-W5g?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1WVW9DXtNxhqKGjxtN_zb6bATvs7paJYG/view?usp=sharing  からアクセスできます。 【 Grzegorczyk と Kripkeのモデルの背景 】 Grzegorczyk と Kripkeのモデルには、共通の背景があります。それは、1963年のJ.P.Cohenの仕事です。 Cohenは、Cantor以来の難問であった「連続体仮説」を、それが集合論ZFから独立であることを示すことによって、否定的に解決します。Hilbertが20世紀の数学が解くべき問題の筆頭に挙げた問題がついに解かれたのです。 Grzegorczyk と Kripkeのモデル構成の試みは、この20世紀の数学史上の大きな出来事を、どのように理解するのかという問題意識と、直接的・間接的に結びついています。 【 Grzegorczyk と Kripkeのモデルと 「直観主義論理」】 Grzegorczyk と Kripkeのモデルは、彼らの論理式の否定の解釈によれば、ともに、「認識の発展」の論理が「直観主義論理」に従うことを主張しています。次の二つの式は、同じことを言っています。 これは、とても興味深いことです。 もちろんCohenのForcing methodも直観主義論理に従います。 【  情報は命題として表現される 】 Grzegorczyk と Kripkeのモデルは、もう一つ大事な共通点があります。それは、両者のモデルにおいて、情報は「命題」という形で表現されていることです。 Grzegorczykの場合は、直接的です。「情報 𝛼がアトミックな論理式𝜙を成り立たせる」のは、𝛼 ⊳ 𝜙 ⟷ 𝜙 ∈ 𝛼 の時です。 Kripkeの場合は、すこし間接的です。 「世界Xで、ある論理式Aを証明する十分な

Stan

Spotifyで歌詞が出るので、エミネムだって歌えるかもしれないと思っていた。彼の新曲 "I walk on water" https://goo.gl/2VxDv5 がランクインしたので、さっそくやって見たが、あえなく敗退。 この曲は、彼にしてはそんなに早口ではない気がするのだが。舌が回らないのもあるのだが、歌詞を読んでも、すんなりとうまく訳せない。(Googleニューラル機械翻訳だってうまくいかないに決まっている) 何度か読んでるうちに(聴いては無理だった)、だんだん、自分のこと、自分の曲作りのことを歌っているのがわかってきたのだが。 ベラスケスやピカソが、絵を描く画家の絵を描いたのと同じだ。 よくわかったのは、ビヨンセが歌うメロディ・ラインの歌詞。  I walk on water  But I ain't no Jesus  I walk on water  But only when it freezes  'Cause I'm only human, just like you  ..... "only when it freezes" という歌詞を見た時、思わず吹き出したのだが、どんな感情でここを歌うのかと思うと、きっと笑うところではない気もする。 でも、聞き取れなかった最後の歌詞 "I wrote 'Stan' " を見て、少し、しびれる。この曲の「ラス・メニーナス」は、Stan だったんだ。 https://goo.gl/TbQFKq 歌を聴くのと、歌詞を読むのは、違うことだ。 ============================= 4年前( 2017年11月15日)のFBへの投稿から

黒板とチョーク

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4年前(   2017年11月13日)のFBへの投稿から ============================= 30年近く、講義・講演はプロジェクターを使って来た。ビジュアルな情報があった方が、聴く方にもわかりやすいと思うし、話す方はデータが再利用できる。 でも、話せば伝わることとビジュアルな表現で伝えた方がいいこととの区別は、どこにあるのだろう?と考えたら、こんな例を思いついた。 図1は、先頃亡くなっらVoevodskyの証明の一部(だと思う) https://goo.gl/3y79Zb から。これを、口でしゃべったら、絶対うまく伝わらない。 (ただ、この例は、すごいのだ。僕は、カテゴリー論をちょっとかじったことがあるので二次元のdiagramなら、少しは追えるのだが、Voevodsky は、三次元で証明組み立てている!) ただ、こうしたdiagramをプロジェクター用に、LaTexで組むのは大変なのだ。(もちろん、根性があればできるし、データは再利用できるのだが) 図2は、Deep LearningのKarpathyが、RNNを使って、Stack Theoryの分厚い教科書を学習させて、数学論文の「モノマネ」をさせたもの。 https://goo.gl/FGtFGS (グロタンディックをおちょくってるのかと思うけど、ま、面白いから許す。) それはさておき、左側は見事に数学論文のマネをしているのだが、右側の上の方を見て欲しい。明らかに、diagramをマネる事に失敗している。ざまあみろだ。 Voevodskyがすごいのは、図1のような証明を、コンピュータにやらせるシステムを作ろうとしていた事。それは、この図を冒頭に掲げた彼の論文 "The Origins and Motivations of Univalent Foundations" https://goo.gl/3y79Zb を読めばわかる。 じゃ、Voevodskyは、論文やプロジェクターではなく、講義をする時には、どうしていたのだろう。 答えは、簡単である。 黒板にチョークで図を書いていたのである。 2011年ごろ、プリンストンの彼の講義のビデオをみて、ディジタル万歳の僕は、ちょっと軽いカルチャーショックを受けた。 でも、黒板とチョークの方が、合理的で効率的なのだ。間違っ

Maria Popova "10 Learnings from 10 Years of Brain Pickings"

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5年前( 2016年11月12日)のFBへの投稿から ============================= Brain Pickingのマリア・パポーバが、「Brain Picking 10年の10の教訓」というのをまとめている。 https://goo.gl/uJAXcV  1. 自分の心を変えるという、愉快ではない贅沢を許しなさい。  2. 名声や地位やお金や承認欲求のためには、何もしないこと。  3. 寛大であれ。  4. 自分の人生の中に、静寂のポケットを作りなさい。  5. 「あなたは何者なの」と問う人がいたら、その人を信じないこと。  6. 現実は、はるかに複雑で、芸術に値する。生産性よりも。  7. 実現に長い時間を要する価値あるものに期待しなさい。  8. あなたの精神を拡大するものを見つけ出しなさい。  9. 理想主義者であることを恐れないこと。  10. 皮肉なものの見方に、ただ抵抗するだけでなく、それと戦いなさい。 Brain Pickingが話題になった頃、サブスクライブしていたのだが、ちゃんと読み始めたのは、少し時間に余裕ができてからだ。僕のいるITの世界とは、ずいぶん違う世界かもしれない。 マリアは、ニューヨークで活動しているが、ブルガリア人だ。まだ、32歳。こうしたヨーロッパの知性をアメリカは受け入れてきた。 僕の好きな数理物理学者のJohn Baezのおじいさんは、メキシコからアメリカに移ってきた。(フォーク歌手のJoan Baezのおじいさんでもある) 今年、女性で初めて数学のフィールド賞をとった、マリアム・ミルザハニは、スタンフォード大にいるが、イラン人だ。 同じく、僕の好きな Scott Aaronsonの昨日のblogは、悲痛なものだった。彼のblogの名前は、彼の父祖が住んでいたヨーロッパのユダヤ人の街から取られている。 https://goo.gl/bLrwMn   I will sadly understand if foreign students and postdocs no longer wish to study in the US, or if foreign researchers no longer wish to enter the US even for conferences and vis

Bayesian inferenceと相対エントロピー 1

【 「Bayesian inferenceと相対エントロピー 1」を公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/OiSjknU_aHc?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1SkdpVjU2CqGB85xDYzrJTSQOVD9sWQCQ/view?usp=sharing  からアクセスできます。 【「相対エントロピー」とは何か? 】 ある確率分布 p(x)が与えられた時、そのエントロピー Sは、シャノンの定義で与えられます。 ただ、どんな確率分布についても、アプリオリに一つのエントロピーが先の公式で天下り的に定まるということに、すこし違和感を持つ人がいるかもしれそもそも、確率分布がアプリオリに与えられるものかは、自明ではありません。 そういう人には、次の「相対的なエントロピー」という考え方の方が、納得が行きやすいと思います。 「エントロピー」は、絶対的な確定したものではなく、事前に知っていたこととの関係で決まる、相対的なものだと考えるのです。 事前に知っていた確率分布をpとし、実際に、観測して得られた新しい確率分布 qとします。 この時、確率分布pに対する確率分布qの「相対エントロピー」 H_rel (q,p)を定義します。 こうした考え方は、Bayesianのものです。 「相対エントロピー」というのは、アプリオリな「シャノンのエントロピー」を、Bayesianの考え方で、相対化したエントロピーと考えることができます。 エントロピー=情報量のこのBayesian的な解釈は、人間の認識で得られる情報量の解釈には、とても向いています。 Prior の pという仮説的な確率の認識は、Posterior のqという確率の認識に「発展」したと考ることができるからです。 11/26 マルゼミのもっと詳しい情報は、こちらです。https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ ====================== 11/26 マルゼミへのお申し込みは、次のページからお

啓蒙時代の暗褐色の星

2年前( 2019年11月10日 )のFBへの投稿から ============================= シェイクスピアの「オセロ」は、将軍オセロが部下イアーゴの奸計にはまって、嫉妬心を爆発させ、無実の妻デズデモーナを自ら手にかけて殺し、自滅する話だ。この戯曲は、17世紀の20年代に初演されている。 「オセロ」の舞台はヴェニスで、将軍オセロはトルコ軍と戦っている。ただ、時代はわからない。当時のヨーロッパで、黒人のオセロが将軍になることが実際にありえたのか、ちょっと引っかかっていた。 この間聴いていた二つのオペラ「エフゲニーー・オネーギン」と「椿姫」の原作をチェックしていて、面白いことに気づいた。何に気づいたかというと、二つのオペラの原作者には、黒人の将軍の血が流れていたのである。 チャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」の原作は、19世紀のロシアの「国民的詩人」プーシキンの同名の韻文小説(1825-1832)だ。 ヴェルディのオペラ「椿姫」の原作は、「三銃士」や「巌窟王」で有名なアレクサンドラ・デュマ(大デュマ)の同名の息子アレクサンドラ・デュマ(小デュマ)の「椿姫」だ。 プーシキンの曽祖父は黒人で、ピュートル一世の時代のロシアで軍人として活躍し少将だった。デュマ(小デュマ)の曽祖母は黒人で、黒人との混血の祖父は、ナポレオンの時代のフランスで、中将にまで昇進する。 プーシキンの曽祖父、アブラム・ペトロヴィチ・ガンニバル(ハンニバルだ!)は、7歳の時、コンスタンチノープルの奴隷市場で売りに出されていた。彼に目をつけたのは、トルストイの曽祖父だったという。ピュートル一世は、彼をフランスに送り、教育を受けさせる。 「パリで、彼は啓蒙時代の象徴ディドロ、モンテスキュー、ヴォルテールと親交を結んだ。ヴォルテールはガンニバルを、『啓蒙時代の暗褐色の星』と呼んだ。」優秀だったのだろう。 プーシキンは、この黒人の曽祖父を非常に誇りにしていた。「1830年に「私の系譜」という短い詩を書いているが、600年に渡る父方の祖先については35行で書いた一方、アブラムだけで20行の詩を捧げている」 (そういえば、先日ビデオで見た、オペラ「エフゲニー・オネーギン」のパリのサロンの場面で、黒人士官が白人女性と一緒に参加していたような気がする。ビデオが手元にないので、確認できない

Kripkeの「可能的世界」 4 -- 認識の特徴を表現するモデル

【 Kripkeの「可能的世界」 4  --「認識の特徴を表現するモデル」 公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/F0OT-wt_21w?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1QmNcUrYTbjz8grIjHshlH0Ij8HRqbq9t/view?usp=sharing  からアクセスできます。 【 認識の特徴を表現するモデル 】 Kripkeのモデルが興味深いのは、このモデルにある性質を持つことを要請することで、認識あるいは論理の、いくつかの特徴を記述・表現することができることです。 これまで述べたことと少し重複するのですが、Kripkeのモデル(G,K,R)の特徴を見ておきましょう。Gは「現在の世界」を表します。KはGを始点とするすべての「可能的世界」たちのツリー構造です。Rは二つの可能的世界を関係づける関係です。 このモデル(G,K,R)で、関係Rは、次のような性質を持ちます。  反射性:HRH 世界Hで我々の持つ情報は,どんなに長い間そこHにとどまっていても、我々がうるすぺての情報であるかも知れません。HRHと考えることが出来ます。  推移性:HRH’で H’RH’’ なら HRH’’ 関係Rの推移性は、直観的に明らかです。 例えば、我々がGからH2に移動し、その後H2からH3に移動したのなら、我々はGからH3に移動したことになります。この時、GRH3 が成り立つことになります。 このモデルに、次の性質を持つことを要請したとします。  「すべてのAに対して𝜙(𝐴,𝐻)=𝑇 で、HRH’ なら𝜙(𝐴,𝐻′)=𝑇である。」  この要請は,もし,我々が,HでAの証明をすでに得ているなら,いかなる後であってもAを証明されたものとみなしてよいことを意味しています。 別の言い方をするなら、この要請は、このモデルでは、「我々は、一度知ったことは忘れない」という特徴、すなわち、知識が「累積性」を持つことを表現しています。 ビデオでは、直観主義論理の解釈が、このモデル(G,K,R)で可

Kripkeの「可能的世界」 3 --「可能的世界」へのジャンプ

【 Kripkeの「可能的世界」 3  --「可能的世界へのジャンプ」 公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/b7NkAWtDGAM?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1QUiHDNy7y5U9IA-VQoCYQZpjVuBNioA8/view?usp=sharing  からアクセスできます。 【 可能的世界へのジャンプ 】 世界間の関係と、それぞれの世界が持つ情報が与えられているとします。この時、世界から世界へ、我々がジャンプした時、何が起きるかをみてみましょう。 G 一我々の現在の世界一では我々はPを情報として持っていたとします。 我々がそれに満足するなら、何も別の世界にジャンプする必要はありません。ジャンプをしないという選択もあり得ます。我々の知るすべてのことによっても,何も新しい情報が我々にもたらされないなら,我々は,いくらでも長いあいだじっとGにとどまるかもしれません。 世界の情報がPだけだというのに我慢できず、思い切って世界Gから可能的世界H2にジャンプしたとします。世界H2 では,Pに加えて新しくQの情報を我々は得ることができました。 世界H2には、可能的世界H3がありました。新しい情報をえようとH2からH3にジャンプしたのですが、そこにある情報はPとQで、H2にあった情報と同じままでした。 残念なことに、この世界では、ジャンプ元のH2に戻ることは許されていません。もうひとつ残念なことは、世界H3には、それ以上ジャンプ可能な世界はありませんでした。G -> H2 -> H3 という経路でジャンプを選択したならば、我々は、この世界H3にとどまるしかありません。 それでは、世界H2は世界H3と同じ世界でしょうか? 確かに、その世界が持つ情報  P, Q に関して言えば、世界H2と世界H3は同じ世界です。 ただ、もし、H2にH3とは異なる可能的世界H4が存在して、H4にジャンプすれば情報 Rが得られるとすると事情は変わります。 なぜなら、世界H2は、今は情報 P, Qしか持

Kripkeの「可能的世界」 2 — 可能的世界と情報

【 「Kripkeの「可能的世界」 2 — 可能的世界と情報」公開しました 】  11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/4sVmXyfZSZI?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1PtCZXDjVA6_i0Eo45Hvy52HqsN65k_Lj/view?usp=sharing  からアクセスできます。 【 可能的世界と情報 】 「可能的世界」のそれぞれの世界は、時間の流れの中で、我々がそこでさまざまな情報を受け取る世界を表現していると考えることができます。 「可能的世界」の枠組みは、基本的には、我々の認識は発展することを表現しています。 「可能的世界」のそれぞれの世界を、区別し特徴づけるものは、それぞれの世界が持つ「情報」なのです。 ある世界を特徴付ける「情報」の表現として、「世界Xで、ある論理式Aを証明する十分な情報が存在する」ということを、次の式で表現してみましょう。   𝜙(𝐴,𝑋) = 𝑇 もしも、こうした情報が欠けている時、   𝜙(𝐴,𝑋) = 𝐹 としましょう。この式は、「世界Xで、論理式Aが偽である」ことを主張しているわけではありません.。「世界Xで、論理式Aが真である十分な情報」が足りないことを意味しているだけです。 𝜙の役割を明確にするために、状況を次のように、少し単純化して説明してみたいと思います。ある論理式Aが、三つのatomic formula P, Q, R から構成されているとします。 𝜙(𝑃,𝐺) = 𝑇  なら、命題Pを証明する十分な情報が、世界Gに存在するということですので、Pは世界Gが持つ情報と考えることができます。この時、世界Gの上に、Pを書き加えます。 𝜙(𝑄,𝐺) = 𝐹  なら、命題Qを証明する十分な情報が、世界Gに存在しないということですので、Qは世界Gが持つ情報とみなすことはできません。この時、世界Gの上に、Qを書き加えることはしません。 こうして、可能的世界たちが、それぞれ、ある情報を持つ表現された図形で与えられた時、可能的

Kripke の「可能的世界」 1

【 Kripke の「可能的世界」1 を公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/mwgSKyUo_l4?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1PL9wFPN2OPHieHUM5YJkwEcN_aRQ8Qfc/view?usp=sharing からアクセスできます。 【 Kripkeの「可能的世界」】 Kripkeは、ある世界から可能な世界を考えます。 現実の現在の世界をGとしましょう。未来に向かう時間の中で、Gから可能な世界が複数あるかもしれません。また、Gから派生した複数存在しうる可能的世界の一つHを考えれば、同様に、Hから可能な世界も複数あるかもしれません。可能的世界の全体は、Gを始点として、時間の中で枝分かれを繰り返す、巨大なツリー構造を形成します。 といった話をするとまるでSFのようですが、このSF的「可能世界」のイメージを、キチンとした数学の理論に落とし込んだのが、Kripkeです。 あろ可能的世界Gとある可能的世界Hが、「Gの可能的世界がHである」という関係で結ばれている時、その関係をG R H と表現しましょう。 Kripkeは、この関係 Rの性質によって、ある図形で表現される複数の世界のあいだの「可能的世界」という関係が変化することに気付きます。 Kripkeは、関係Rの性質に注目することによって、複数の「様相論理」の体系の関係を、見事に整理しました。その時、彼は高校生でした。残念ながら、彼のこの仕事を、今回は紹介できません。 次回は、こうしたKripkeの可能的世界論での「論理的なもの」のモデルの構成法を紹介しようと思います。 ====================== 11/26 マルゼミへのお申し込みは、次のページからお願いします。 https://philosophy02.peatix.com 11/26 マルゼミのまとめページは、こちらです。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ ====================

YouTubeで学ぶ量子論の基礎

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【YouTubeで学ぶ量子論の基礎】 Lesson 1 内積と正規直交基底 ( slide )   Lesson 2 線形演算子と行列 ( slide  ) Lesson 3 観測と射影演算子 ( slide ) Lesson 4 エルミート演算子とユニタリ演算子 ( slide )   Lesson 5 スペクトル分解定理  ( slide ) Lesson 6 観測演算子の一般化 POVM (slide) Lesson 0 量子の状態をベクトルで表現する  ( slide  )

Grzegorczykの「科学の探究」モデル 3 -- Forcing Method --

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Grzegorczykの 「科学の探究」モデル 2 -- 情報の順序関係 --

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【 Grzegorczykの 「科学の探究」モデル 2 -- 情報の順序関係 -- 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/GTxay6owcx4?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1GIL63NkdusDhxDUAGQJFtGMeX_bn7rqB/view?usp=sharing  からアクセスできます。 Grzegorczykは、科学的に得られた情報と科学的な論理との関係を次のように考えます。   ある情報がある論理式の成立を「強制」する こうした考えは、実は、「連続体仮説の独立性」を証明した J.P.Cohenが導入した独創的な「強制法」  Forcing Methodによるものです。 Grzegorczykは、CohenのForcing Method を「科学の探求の論理」として、解釈できることを示そうとしました。 そのためには、少し準備が必要です。 まず、科学の探究𝑅上の情報 𝛼, 𝛽,… に順序 ≻ を定義して(今回はここまでを扱います)、その上で、情報と論理式の「強制関係」を定義します。 科学の探究𝑅上の情報 𝛼, 𝛽,… は、探究が進むにつれ、ツリー上に枝分かれするかもしれません。探究𝑅上の任意の情報 𝛼, 𝛽について、𝛼 ≻ 𝛽 あるいは𝛽 ≻ 𝛼 のどちらかが成り立つとは限りません。こうした順序関係を「半順序」といいます。ただし、ある情報 𝛼 から出発した探究の枝の上の情報 𝛽 は、 𝛽 ≻ 𝛼 で、 𝛼の情報を全て含んでいます。 ====================== 11/26 マルゼミへのお申し込みは、次のページからお願いします。 https://philosophy02.peatix.com 11/26 マルゼミのまとめページは、こちらです。 https://www.marulabo.net/docs/philosophy02/ ======================

Grzegorczykの 「科学の探究」モデル 1

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【 Grzegorczykの 「科学の探究」モデル 公開しました 】 11/26 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」の第二部「認識の発展のモデル」のショートムービーです。ご利用ください。 https://youtu.be/x15hZSj9cgk?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX スライドは、 https://drive.google.com/file/d/1FhU_auiV-x8TpTf3WUAAiwpfT78eR5Zo/view?usp=sharing   からアクセスできます。 Grzegorczykは、「科学的探究」を次のようなものとしてとらえます。 「科学的探求(たとえば,実験的研究)とは,我々の探求の方法によって得られた,新たに確立された諸事実によって,データの集合を継続的に豊富化することに存する。」 我々が得たデータの集合は、我々が持っている「科学的知識」「科学的情報」と考えて構いません。 現時点で我々が持つ科学的情報をαで表すことにします。そのαから予測できるかもしれない複数の仮説を、β1, β2, ... , βnとします。彼は、このβの全体をP(α)で表します。彼は、科学的実験・検証を、P(α)に属するβ達から一つのβを取り出すことだと考えます。 こんな言い方をしています。 「我々は,自然に、可能な解答の集合を提供する。」 情報αの段階での「可能な解答の集合」がP(α)です。その要素β1, β2,, …の中から、 「自然はひとつを選ぶ。」 と。 大事なことは、P(α)に属するβ達は全て、αに含まれている情報を含んでいるということ。要するに、一度、科学的情報として得られた情報は,「科学的探究」のプロセスで、その情報がいかに拡大されても,元の情報はなくなることはないということです。これは、科学情報の「累積性」と言われる性質です。 もっとも、これだけですと、数学的アプローチというより、科学の探究の素朴な記述と大して変わりありません。科学的知識や科学的情報を、命題の集まりとするのも、ナイーブなものです。 彼のアプローチの真価は、拡大する情報の集まりと、数学的・論理的な証明可能性との間に、興味深い関係があることを見出したことにあります。それについては、次回述べることにします。 =======

11/26 マルゼミへのお誘い

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【 11/26 マルゼミへのお誘い 】 11月26日開催 マルゼミ「認識について考える 2 -- 認識の認識 –」へのお誘いです。 https://philosophy02.peatix.com https://youtu.be/VNN6NOzLVXc?list=PLQIrJ0f9gMcPmqWCIYjND28DLB9SwQ_eX 今回のマルゼミは、前回のマルレク「認識について考える」の続編です。 前回は、主要に、自然認識とそれを可能とする条件の変化の歴史を振り返ったのですが、今回は、「認識の認識」という構造に注目しようと思います。認識の対象となるのは、自然ではなく、認識そのものです。 具体的な自然認識を対象とした前回からは、少し飛躍があるのですが、今回のセミナーでは、「認識の認識」を、「認識の形式的・数学的認識」として捉えるというアプローチを取ってみようと思います。認識のいくつかの特徴を、形式的・数学的に把握することが可能であるという立場をとります。 第一に、人間の認識は、変化・発展するのですが、「認識の発展」の数学的モデルが存在します。セミナーでは、そのいくつかを紹介しようと思います。 第二に、「認識の認識」は、「認識の認識の認識の ....」と無限退行するように見えますが、その各ステップで、認識するものと認識されるものの二項が現れます。こうした「認識の二項性」にも、形式的・数学的なモデルが存在します。数学的には、「理論」と「モデル」の関係がそれに当たると僕は考えています。セミナーでは、「モデル論」の初等的な解説をしようと思います。 第三に、認識の二項は、お互いに無関係ではなく、ある種の「同一性」をもっています。セミナーでは、数学的に、「同一性」がどのように扱われるのかを見ていきます。 次のような内容を予定しています。  第一部:認識の形式的理論  第二部:認識の発展のモデル   ・Grzegorczykの「科学の探究」モデル   ・Kripke の「可能的世界」モデル   ・Bayesian inferenceと相対エントロピー  第三部:二項性 -- 理論とモデル   ・Gödelの完全性定理   ・Löwenheim–Skolem の定理   ・Lawvere のFunctor Semantics  第四部:同一性   ・Martin-Löf の Depe