ディドロのオウム
【 ディドロのオウム −− 昔の話をしよう (3) 】
#DreamerV3
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「もし、すべてに答えるオウムがいたなら、私は迷わず、それは思考する存在だと言うだろう…」
"s'il se trouvait un perroquet qui répondît à tout, je prononcerais sans balancer que c'est un être pensant ..."
この文章は、ドゥニ・ディドロの最初の個人著作であり、1746年に匿名で出版された『哲学思想』(Pensées philosophiques) に含まれています。この文章は『哲学思想』の「Pensée XX」(第20思想)に登場します。
【 この引用の文脈 】
『哲学思想』の第20思想において、この引用はディドロと無神論者との間の対話の中で、無神論者の発言として登場します。
無神論者は、思考する存在であることの確信を論じる中で、思考は表面的な行動や音(デカルトが思考能力を否定した動物もこれらを生成する)によって判断されるのではなく、「観念の連鎖、命題間の論理的帰結、そして推論の結合」によって判断されると主張します。
この文脈で、無神論者は「あらゆる質問に答えるオウム」という仮説的な例を挙げ、真の思考が論理的かつ首尾一貫した推論によって証明されることを強調しています。
【 外部からの観察可能性と内部の論理的整合性の関係 】
この引用が提示する文脈は、単なる知性の定義を超え、思考の本質、特に外部からの観察可能性と内部の論理的整合性の関係という、哲学における根源的な問題を提起しています。
これは、現代の人工知能(AI)における「ブラックボックス問題」(内部プロセスを理解することと外部の振る舞いを評価することの対比)の中心的な議論に先行するものであり、単なる計算能力と真の知性の区別という微妙ながらも重要なニュアンスを含んでいます。
ディドロは、この対話を通じて、外部から観察可能な行動(応答能力)が、知性や思考の存在を判断するための主要な基準となりうることを示唆しました。
【 知性を「パフォーマンス」として捉える】
このディドロの引用は、知性を、単に知識を保持する能力としてではなく、質問に対して適切かつ論理的に応答する「パフォーマンス」として捉える視点を示しています。
この思考実験は、外部から観察可能な行動が、知性や思考の存在を判断するための主要な基準となりうるという考えを提示しており、これはアラン・チューリングが1950年に提唱した「模倣ゲーム」(チューリングテスト)の概念に驚くほど類似しています。
どちらも、機械が人間のような知性を持つかどうかを判断する基準として、言語的応答能力を重視する点で共通しています。
【 ディドロの思想の射程】
この時代に、このような思考実験が行われたことは、18世紀の啓蒙思想家たちが人間の知性の本質を深く探求し、その限界と可能性を問い直していたことを示しています。
先のオウムの例えの「第20思想」だけでなくディドロの『哲学思想』には、現代の我々にとっても、刺激的な問題提起がたくさん含まれています。
そのいくつかを見ておきましょう。
【 ディドロの言語観】
ディドロは、言語を人間の意識の進化と洗練にとって不可欠な要素であると見なしました。彼の見解では、言語能力の発展と思考の洗練の間には密接な関連性があり、言語が観念を組織化し、過去の感覚を想起させ、反省的思考の始まりを告げる上で決定的な役割を果たすと信じられていました。
ディドロはまた、ジョン・ロックと同様に、単純な観念でさえ個々の話し手によって表現方法が極めて多様であるという「表現の個別性」を重視しました。これは、話し手の現実に対する特定の把握が、彼自身の心の自由な活動によって修正される結果であると考えられました。この考え方は、言語が単一の客観的現実を反映するだけでなく、主観的な経験と創造性によって形作られるという、より複雑な理解を示唆しています。
【 『聾唖者に関する手紙』】
彼の主要な著作である『聾唖者に関する手紙』(Lettre sur les sourds et muets, 1751) において、ディドロは芸術的言語の問題を探求し、聾唖者のコミュニケーション方法を研究することで言語の起源に光を当てようとしました。
この作品では、原始言語が感情的かつ音楽的であ り、その後効率性のために慣習的に規制された言語へと進化したという、ルソーと類似した見解が示唆されています。さらに、『百科全書』(Encyclopédie) の編集者として、彼は知識の正確な伝達のために言語の精密さを追求し、その正確性が最も重要であると考えました。
【 言葉の力 】
ディドロの言語観は、単なる記述に留まらず、言語が人間の精神活動(思考、意識、感情)を形成し、文明化のプロセスを推進する動的な力であるという、啓蒙思想の核心的な信念を反映しています。
言語が観念を組織化し、反省的思考を可能にすることは、人間の認知構造そのものに不可欠な要素であることを示します。
【 人間の発展と社会の進歩における言語の役割】
また、「表現の個別性」への注目は、言語が固定された普遍的なコードではなく、各話者の独自の現実把握によって形成されることを示唆 し、個人の心と表現の間の動的な相互作用を強調します。言語を「文明化のプロセス」の推進力と位置づけることは、ディドロが人間の発展と社会の進歩における言語の役割を深く理解していたことを示します。
感情的な言語から合理的な言語への進化という彼の見解は、人類がより原始的な状態からより高度な知的洗練へと移行するという、より広範な哲学的物語と一致します。『百科全書』における「言語の精密さ」への懸念は、知識を正確に伝達し、ひいては「思考の一般的な様式を変える」という言語の力を強調しています。
【 Performance と Competence −− 昔の話をしよう (4) 】へと続きます。
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マルレク「AI とマインクラフトの世界」まとめページ
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マルレク「AI とマインクラフトの世界」のショートムービーの再生リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcNT-iHwnkWJ5379ztVAbatX
ショートムービー「 ディドロのオウム 」のpdf
https://drive.google.com/file/d/1LwbeHGDLB2-rRPlDT-RThe2fhz3u7Qn7/view?usp=sharing
ショートムービー「 ディドロのオウム」
https://youtu.be/XOTkcAShT_g?list=PLQIrJ0f9gMcNT-iHwnkWJ5379ztVAbatX
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