ER=EPR

アインシュタインは、先のEPR(Einstein, Podolsky, Rosen)論文を5月に公開してすぐに、ローゼンと一緒に、次の論文を公開する。1935年7月のことだ。この論文をER論文と呼ぶことがある。

"The Particle Problem in the General Theory of Relativity" 「相対性の一般理論における粒子の問題」 https://goo.gl/KG4mjp

一般には、二つのブラックホールを結ぶ「橋」が存在しうることを発見した論文だと言われている。この「橋」は、"Einstein-Rosen Bridge" と呼ばれる。別名「ワームホール」とも呼ばれる。(ただ、"wormhole" でWeb をググっても、あまりスジのいい情報は引っかからない。)


1935年に、アインシュタインは、「エンタングルメント」(ただし、パラドックスとして)と「ワームホール」を発見しているのである。ほぼ同時期に行われた、この二つの発見に何か関連があるのだろうか? 

80年前になされるべきこうした問いかけを、現代に蘇らせたのは、マルダセナ(Maldacena、AdS/CFT 対応の発見者)とサスキンド(Susskind)だった。2013年の論文 "Cool horizons for entangled black holes"  https://goo.gl/wU1pKK で、二人は、大胆な仮説を提示する。

「二つのブラックホールの間のアインシュタイン・ローゼン・ブリッジは、二つのブラックホールのミクロな状態のEPR状の相関関係(エンタングルメント)によって生成される。 ...  我々は、これを ER = EPR 相関関係と呼ぶ。別の言葉で言えば、ERブリッジは、その中では、量子システムに関連するEPRが、アインシュタインの重力の記述に弱く結合している特殊なタイプのEPR相関関係なのである。」

要するに、1935年にアインシュタインが発見した「エンタングルメント」と二つのブラックホールを結ぶ「アインシュタイン・ローゼン・ブリッジ」は、スケールが全く違うのだが同じものだというのである。これを、「ER = EPR仮説」と呼ぶ。


この図を掲載している、Natureの2015年11月の記事 "The quantum source of space-time" https://goo.gl/x0HqA2 は、ER=EPR 理論の概説として、よくまとまっている。

連休中に、EPR/ER論文読んでみた。両論文でのアインシュタインの問題意識は明確である。「物理的実在の完全な記述」をあくことなく追求している。もっとも、ER論文の課題は、アインシュタインの重力理論とマクスウェルの電磁理論の統一である。弱い力も強い核力も彼の目には入っていない。しかも、それを量子論に頼らずに行おうとしているのだから、うまくは行かない。

ただ、ER論文をワームホールの論文だと思っていた僕には、驚きだったのだが、彼は、二つの(同一な)世界面をつなぐこのブリッジを、粒子と同一視しようという構想の元にこの論文を書いていることだ。 (D-Braneも真っ青の想像力だ。うまくいかなかったのだが)

きっと、マルダセナもサスキンドも、アインシュタインが大好きなのだと思う。

1935年に、アインシュタインがどういう仕事をしていたかについては、Galina Weinsteinが詳細な後追いをしている。80年後のことだが。

"Two-Body Problem in General Relativity: A Heuristic Guide in Einstein’s Work on the Einstein-Rosen Bridge and EPR Paradox"  https://goo.gl/1QcvI5

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