カテゴリー論の応用 -- Monoidal Category

【 みんな大好き String Diagram 】

このセッションでは、DisCoCatが利用しているカテゴリー論の基礎を振り返ります。

DisCoCatのもっとも重要なアイデアは、「文の意味は、個々の語の意味と、語から文を構成する文法規則によって構成的に決定される」という「文の意味の構成性」を、文法のカテゴリーから意味のカテゴリーへのFunctorとして捉えることができるという着想です。

Functorが、文のSyntaxを文のSemantics に変えてくれるということです。素晴らしい!

ただ、ここには一つ大事な条件があります。それは、Functorがそうした働きをするためには、SyntaxのカテゴリーとSemanticsのカテゴリーが、同じカテゴリーに属さないといけないという条件です。

ちょっと考えると、文の文法の世界と文の意味の世界は、違う世界のように思えます。確かにそうです。でも、それでいいんです。最初は別々の二つのカテゴリーを、あらためて抽象度を上げて捉え返すのです。

「猫の世界」と「人間の世界」は、違ったものです。でも、「哺乳類の世界」で考えれば、共通の構造が見えてきます。Monoidai カテゴリーは、「文法=Syntax」のカテゴリーと「文の意味=Semantics」のカテゴリーとは異なる第三のカテゴリーです。ただ、このカテゴリーが、両者の共通の構造を捉えるものになるのです。

両者が、この第三のカテゴリーであるMonoidai カテゴリーに属することが明らかになれば、晴れて、意味の把握にFunctorを利用することができるようになります。

実際にDisCoCatで利用されているカテゴリーは、Monoidal カテゴリーの下位のカテゴリーで、Compact Closed カテゴリーと呼ばれるものです。それは、全てのオブジェクトに、その「双対=dual」が存在するようなMonoidal カテゴリーです。

有限ベクトル空間 FVectは、その要素 | v>に対して、双対 <v |を持つので(ケットとブラです)、compact closedカテゴリーです。直感的に言えば、compact closed カテゴリーは、テンソル積と内積が定義されたベクトル空間の一般化と考えていいと思います。

Monoidalカテゴリーには、もう一つ、面白い特徴があります。それは、カテゴリー論を図形で表現するString Diagramという流儀があるのですが、その中心舞台だということです。特に、compact closed カテゴリーでは、その記述にString Diagramが大活躍します。

String Diagramは、ペンローズが使い始め、ジョン・バエズが「ロゼッタ・ストーン」論文で広め、現代では、Coeckeの「量子過程を図解する」が代表的な本になっています。僕は、この流れの研究者(うまく「カテゴリー化」できませんが)が好きなようです。

「ロゼッタ・ストーン」論文以来、僕も String Diagramに興味を持っていたのですが、一番新鮮な刺激を受けたのは、数年前 Tai-Danaeのblogだか論文を読んでいて、「みんな大好きString Diagram」という一節を見つけた時です。

 「そうか、アメリカじゃ若い奴はみなString Diagramが大好きなんだ!」

本当にそうなのかは、わかりませんが。

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「 カテゴリー論の応用 -- Monoidal Category 」を公開しました。
https://youtu.be/vIFx5yLsu1A?list=PLQIrJ0f9gMcMpryyqVYL-T8Z4zQ-ejvpF

資料pdf
https://drive.google.com/file/d/1KnWrN3dudKNTm3M2k5G4WQzBscUWRqyF/view?usp=sharing

blog:「みんな大好き String Diagram 」
https://maruyama097.blogspot.com/2023/04/monoidal-category.html

「ことばと意味の数学的構造」まとめページ
https://www.marulabo.net/docs/math-structure/

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