ブラックホールに、僕が落ちると

ブラックホールに、僕が落ちていくとしよう。どこまで落ちれば、僕はブラックホールに飲み込まれたと言えるのだろう?
ブラックホールの中心には、時空の構造が破綻している「特異点(Singularity)」があるのだが、この特異点に到達しないと、僕は、ブラックホールに飲み込まれたことにならないのだろうか?
そうではない。
ブラックホールにロケットで近づいていっても、ある程度離れていれば、逆噴射してブラックホールから離れることができる。ただ、ある一線を越えると、どうやってもブラックホールの重力から抜け出すことができなくなる。
この、ブラックホールの中心を取り囲んでいる、そこを越えれば絶対に帰ることのできない球状の境界を、ブラックホールの「地平(Horizon)」という。ブラックホールに落ちたといえるのは、この「地平」を超えた時である。
ただ、このブラックホールの「地平」は、なんの目印もない空間上の境界である。ブラックホールに近づいて、この境界を超えても、特に変わったことが起きるわけでもなく、僕は、そのことに気づかないだろう。
もっとも、ブラックホールに近づくと強い重力(重力そのものというより、その「潮汐力」)が、僕をバラバラにするだろうし、太陽程度の質量のブラックホールの地平の半径は、3,000メートル程度だから、境界を超えたと思ったらすぐにシングラリティに飲み込まれるのだが。
ただ、もしも、僕が重力に強い耐性をもっていて、銀河の中心にあるような超巨大なブラックホール(超巨大な半径の地平を持つということ)に落ち込んだとしたら、ブラックホール中心のシンギュラリティに激突するまで、6-70年くらいの時間がかかるとすれば、僕は、境界を超えたことにも気づかず、ブラックホールの内側で、Facebookをしたりカラオケに行ったり、楽しい人生を送ることができるかもしれない。
ただし、僕が、その「地平」を超えた時、僕は能天気に何も気づかないのだが、それをブラックホールの外側で見ていた人は、僕の姿がゆっくりと見えなくなるのをみるだろう。そして、それ以降、僕の情報は、だれにも届くことはない。

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