数学とAI -- コンヌの警句



先のリストには入っていないのですが、同じフィールド・メダリストで僕の好きな数学者の一人アラン・コンヌは、数学とAIについて、次のような警句を発しています。

---------------------------

数学の仕事には、常に精神的なイメージを頭に置く必要があります。人工知能の助けを得るとき、現在どこにでも存在する巨大な危険は、脳がこの精神的なイメージを作る時間を与えないことの危険です。

実際には、それは時間だけの問題でなく、努力の問題なのです。
つまり、努力なしに結果を得た場合、そして人工知能を信頼した場合、2つの危険があります。

最初の危険は、もちろん、人工知能が間違っている場合で、これは頻繁に起こります。

しかし、第二の危険はそれよりもはるかに深刻です。第二の危険とは、もはや頭の中のイメージに基づいて推論を行わなくなることです。その結果、人工知能が仕事をこなしてくれるのだから、努力する価値はないと脳が最終的に判断してしまうのです。

こうして非常に微妙な変化が起こり、脳は自らの統制機能を放棄し、人工知能によって認証されていない限り、もはや何事も信じなくなってしまうのです。

---------------------------

この間の数学とAIをめぐる大変動のきっかけの一つになった今年8月の OpenAI の 10-Proofs 論文の第4番目の問題「A Counterexample to Connes Rigidity」は、少し皮肉なことに、コンヌ予想のAIによる反証にあてられています。

もっとも、コンヌ予想が偽であることは、AIが初めて証明したわけではなく、2020年の Yuan たちの "MIP*=RE" 定理という革命的な発見の系として導かれていました。

Connnes予想が偽であるなら、MIP*=RE 定理でのTsirelson限界の利用のような量子情報論的な性質を使わずとも、純粋に代数的にその反例を構成できるはずだというのが、4番目の論文の基本的な動機になっています。

MIP*=RE 定理の証明の骨組みを構成しているのは、二人のentangleした万能の証明者との対話を通じて、我々は何を知りうるのかという「対話型証明 Interactive Proof 」の手法です。そして、6番目の論文 " Exponential Parallel Repetition for All Two-Player Entangled Games" は、この Interactive Proof 分野で Yuanが提起した問題を、彼の論文をベースに扱ったものです。

AIが数学の問題を解いたといっても、子細に観察すれば、その「証明」には、それまでの人間の数学者の取り組みがベースになっていることはいうまでもありません。そのことは、もっと評価・注目していいことだと思っています。

現在話題のNS方程式の証明で問題になっているのは、AIは先行した人間の数学者の公開していない仕事を、何らかの方法でひそかに利用したのではないかという疑惑です。

それ以上に重要だと僕が考えているのは、数学は「未解決の問題」に証明を与えることで前進してきたわけではないということです。数学の発展は、主要に新しい理論の創出によってドライブされてきました。

AIが優秀な「定理証明者」であることは、確かです。ただ、彼らのこの間の仕事には、彼らを新しい「理論構築者」と呼びうる仕事は一つも含まれていません。そうした論点については、おいおい触れていきたいと考えています。

ただ、僕は、いつの日にか、機械が Grothendicke や Lawvere や Veovodsky のような新しい革命的な理論の構築者になる日が来るだろうとも考えています。ただ、それは、いまではないのです。

コメント

このブログの人気の投稿

宇宙の終わりと黒色矮星

機械の言語能力の獲得から考える embeddingの共有・蓄積・検索の未来

1 + 196883 = 196884