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8月, 2026の投稿を表示しています

「AIと数学」Part 1 「2026年に起きたこと」資料集

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このページは、セミナー「AIと数学」Part 1 「2026年におきたこと」の資料をまとめたものです。画像をクリックすると資料のページが開きます。 これらの編集作業は、マルレクのコンテンツをよりアクセスしやすく、利用しやすいものにしようという 「 MaruLabo KnowledgeHub プロジェクト(MKHP) 」の一環として行われています。 2026年におきたこと 僕は、AI技術は、   AI-1 : 「 大規模言語モデル+α 」から  AI-2 : 「 大規模言語モデル+形式的証明システム+α 」へ と発展・進化していると考えています。この変化の中心舞台が、AIと数学の領域です。 AIと数学の領域の現状を知るうえで、先日OpenAIが公開した"Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science(「数学と理論計算機科学における10の進展」)" という論文は重要なものです。OpenAIは、10個の数学の問題すべてに対するlean上での「形式的証明」を、GitHubで公開したことに注目しています。 この論文の登場によって、AIと数学の領域では、AIはLLMベースの生成AIから、Neuro+Formal ベースのAIに急速に進化・発展していると考えることが出きると思います。この変化は、重要です。 Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science How the Ideas Came Together Theorem Proving in Lean 4 数学コミュニティからの「ライデン宣言」 「いかにしてAIが数学をだめにするのをふせぐか」(blog) 「 人工知能と数学に関するライデン宣言」 (blog)  「人工知能と数学に関するライデン宣言」日本語訳 (blog) 変化の理論的起源に遡る OpenAIは、すでに2022年にAIに形式的証明を実行させようとした"Theorem Prover" という取り組みを行っていました。ただ、この分野での急速な進化を、この4年間の発展で説明するのは、不十分だと僕は感じています。 こうした変化の背景を考えるうえでは、一見するとAIとは無関係に思えるか...

AIと数学 -- 2020年 vs 2026年 MIP*=RE定理とAIの未来

 【 AIと数学 -- 2020年 vs 2026年 MIP*=RE定理とAIの未来 】 【 21世紀の「不完全性定理」としての「MIP*=RE定理」 】 「MIP*=RE定理」というのは、MIP*という複雑性のクラスが、「決定不能」だということを述べている定理です。それは、ゲーデルの「不完全性定理」に端を発する、一連の「決定不能」型定理の一つと考えることが出来ます。 それは、新興数理科学としての「コンピュータ・サイエンス」の「決定不能」型定理として登場したのですが、その定理は、狭い意味での 「コンピュータ・サイエンス」の枠を超え、純粋数学や物学の基礎理論に、重要な応用を持ちました。 エンタングルしたnonlocalゲームの値の「決定不能」性は、量子力学の基礎の「ティレルソンの問題」に対する否定的な答えを導きました。また、この結果は、数学の作用素環論の長年の難問だった「コンヌの埋め込み予想」否定的に解決することになりました。 【 「全知・全能だが時には嘘をつく」という「高度な知能」論 】 「MIP*=RE定理」をわかりやすく紹介した、「コンピュータサイエンスの現在」というセミナーで、丸山は次のように述べました。 「第一に考えるべきことは、この定理の証明で中心的な役割をはたす、可能的には無限個のエンタングルメントを共有し、時には人間を欺く「不実」で、しかしながら「全能」の「証明者」たちは何者かということである。」 「第二に考えたいのは、もっと問題を身近なものに引き付けて、「宇宙」ではなく「機械」と人間の関係、人工知能論の課題としてこの定理の含意を考えることである。」 【 人工知能の未来論と「高度な知能」論 】 第一の論点と第二の論点はつながっています。今回のセッションは、主要に第二の論点について、すなわち、MIP*=RE定理とその一見すると特異な「高度な知能」論が、AIの未来展望とどうつながっているかを述べてみようと思います。 「超知能」や「シンギュラリティ」についての議論は活発です。ただ、「人間の知能を超える」ことだけが「高度な知能」の基準になるかは少し疑問です。人工知能の未来論には、「高度な知能」とは何かという議論が必要だと僕は考えています。 【 今回のセッションのコンテンツ 】 ひとつは、「コンピュータサイエンスの現在」セミナーの内容をAIが音声で要約...

AIと数学 -- 2020年 vs 2026年 MIP*=RE定理の意味

 【 AIと数学 -- 2020年 vs 2026年 MIP*=RE定理の意味 】 【 「2022年 vs 2026年」から「2013年 vs「2026年」へ 】 2022年の"Theorem Prover"と 2026年の到達点の比較から考察が始まったのですが、その比較の視点はAIエンジニアリングの枠の中にとどまっている限りでは、あまり見通しの良いものではありませんでした。前回、僕は次のように述べました。 「当初考えていた「2022年 vs 2026年」という対比だけでは、今年になって急速に拡大している「AIすごい。今では数学の問題も解けるんだ。」というAI観や数学観を増幅するだけだと思いなおしました。本当にすごいのは、AIではなく数学のほうだと僕は考えています。2022年に10年近く先立つ2013年の時点で、数学者のグループは、コンピュータを使って数学の問題を解くことについて、遥かに深い洞察に到達していました。それは、革命的で驚異的なものでした。」 前回のセッションの「2013年 vs 2026年」という比較は、Voevodskyによって牽引されたコンピュータを数学の証明に利用しようというアプローチの起源に遡ろうというものでした。前回、Google Drive 上での音声ファイルの公開だったので、あるいは、アクセスできなかった方がいたかもしれません。今回、音声概要を、「数学でのコンピュータの利用のビジョンとその背景」というタイトルで、キチンとサーバー上に配置したので、ご利用ください。 こうした視点は、 AIが 単なる「 大規模言語モデル+α 」から「 大規模言語モデル+形式的証明システム+α 」へ変化しつつある現在、数学者だけでなく多くのAIエンジニアによっても共有されていると思います。(ただし、そのためには数学の基礎そのものの見直しが必要なのだという認識をのぞいては。) 【 「2020年 vs 2026年」という視点 】 今回のセッションでは、「2013年 vs 2026年」に加えて、「2020年 vs 2026年」という視点の必要性を提案しています。2020年は、「MIP*=RE定理」が登場した年です。 「MIP*=RE定理」については、その概要を紹介した「コンピュータ・サイエンスの現在 — MIP*=RE定理とは何か?」と、その...

マルレク「コンピュータ、数学の問題を解き始める」資料集 (MKHP)

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  このページは、2022年3月26日に開催したマルレク「コンピュータ、数学の問題を解き始める」の資料とそれにむけたblogのエントリーをまとめたものです。このセミナーの基本的な情報は以下にまとめられています。画像をクリックすると資料のページが開きます。 ただ、これらの資料はいずれも大部なものです。もう少し簡単にセミナーの内容にアクセスするために短いblogのエントリーを再掲しました。タイトルを見て興味が持てそうなところから、読んでみてください。  これらの編集作業は、マルレクのコンテンツをよりアクセスしやすく、利用しやすいものにしようという 「 MaruLabo KnowledgeHub プロジェクト(MKHP) 」の一環として行われています。 ----------------------------- 2022/03/26「コンピュータ、数学の問題を解き始める」 まとめページ https://www.marulabo.net/docs/math-proof/ コンシェルジェαバージョン https://www.marulabo.net/20220326md/ 「コンピュータ、数学の問題を解き始める」 講演資料 pdf  https://drive.google.com/file/d/12726t4yD0ouUngmFXSy2UIzvQptSdP6g/view 「コンピュータ、数学の問題を解き始める」 講演ビデオの再生リスト https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcNz3RKzDYCANRvt7NciY86X セミナーに向けたショートムービーの再生リスト https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcPP8LOejaQQlYufAMEQbcdg ----------------------------- 「コンピュータ、数学の問題を解き始める」blog集 AIについての二つの見方 https://maruyama097.blogspot.com/2022/03/ai.html 誰が証明を行っているのか? https://maruyama097.blogspot.com/2022/03/blog-post_5.html Dee...

AIと数学 -- 22013年 vs 2026年

 【 AIと数学 -- 2013年 vs 2026年】 先の投稿の最後のリンクは、音声ファイルへのリンクになっています。 Google Drive 上において「共有」をかけたものなので、Google Drive を使っていない方はうまく開けるかわかりません。お試しください。開けなかったらごめんなさい。 音声ファイルの中身は、2024年に丸山が行った「コンピュータと数学」というセミナーを、AIで概要を作ってもらったものです。 前回紹介した「コンピュータ、数学の問題を解き始める」というセミナーは、AIの側の取り組みとしては当時は画期的だったOpenAIの"Theorem Prover" が登場した2022年3月の時点で、理論的には、はるかに先行していた数学の側からのコンピュータ利用の試みを振り返ったものです。 【 AIの未来についての三つのビジョン 】 今回音声概要を公開した「コンピュータと数学」は、それから一年たった 2024年8月に、論点を整理して、開催したものです。二つのセミナーの内容は重複している点も多いのですが、次のようなを示しているのが特徴です。 「第一。僕は、未来の(あるいは、近未来なのかも)AIの発展の課題の焦点の一つは、人間の二つの基本的能力である「言語能力」と「数学的=論理的能力」の「統合」の課題だと考えています。」 「第二。ただ、「大規模言語モデル」は人間の「言語能力」の理解に画期をもたらしたのですが、ただ、その方法の素朴な延長では、AIの数学=論理的能力の飛躍は望めないだろうと考えています。」 「第三。そもそも、コンピュータは、それ自身で「数学的=論理的能力」を持っているという考えかたがあるということです。 【 あらためて、「2013年 vs 2026年」を考える 】 今回の動画セッションのタイトルは、「AIと数学 -- 2013年 vs 2026年」に変わっています。 問題は、この間どのような変化があったのかを考えることにあります。その変化は、主要に、AIの側でおきた数学の問題へのアプローチの変化にあります。 特に、AIが10の数学の問題をどのように解いたかを詳述した""How the Ideas Came Together"はとても興味深いものです。セミナーの後半では、それを分析したいと思いま...

AIと数学 -- 2022年 vs 2026年 (2)

【 AIと数学 -- 2022年 vs 2026年 (2) 】 前回のセッションでも述べたように、僕は、AI技術は、  AI-1 : 「 大規模言語モデル+α 」から  AI-2 : 「 大規模言語モデル+形式的証明システム+α 」へ と発展・進化していると考えています。この変化の中心舞台が、AIと数学の領域です。 今回のセッションでは、こうした変化のさきがけとなった、2022年のOpenAIの "Theorem Prover" との対比で、今年2026年にAIと数学の領域でおきた様々な成果を紹介しようと思っていました。 高校生が一日で解く「数学オリンピック」の問題もうまく解けなかった2022年のOpenAIの "Theorem Prover" と比べて、2026年のOpenAIの "Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science" の達成は驚異的なものです。この分野のブレイクスルーが今年2026年に起きたという評価は妥当なものです。AIの進化は素晴らしい! 数学者のコミュニティから、「ライデン宣言」のような強い警戒が発せられたことも、今年がこの分野のターニングポイントであるそのことを示していると思います。 【 「ライデン宣言」の警告 】 僕は、「ライデン宣言」のAI観や数学観に賛成してはいません。ただ、「ライデン宣言」の次のような指摘には全面的に同意してます。(ただし、数学における評価プロセスの「定評ある」という評価を除いて) 「研究成果が、プレスリリースやブログ記事といった非公式なルートを通じて、多くの場合、科学的な評価に必要な研究論文やその他の情報開示を伴わずに発信される場合、適切な評価は危うくなる。」 「この慣行は、数学コミュニティにおける定評ある評価プロセスが行われる前に、市場のタイムラインに合わせて新しい成果を宣伝しようとするものである。多くの場合、これは報告内容の単純化につながり、例えば自動化ツールの重要性を過度に強調したり、それらのツールを可能にしたこれまでの人的貢献を過小評価したりすることになる。」 「このような過度な単純化は、世論に影響を与え、数学に対する認識を損なうだけでなく、特定の数学的課題を、商用製品の一般的...

AIと数学 -- 2022年 vs 2026年 この4年間で何が起きたのか?

【 AIと数学 -- 2022年 vs 2026年 (1) 】 このセッションでは、AIと数学の領域での変化を振り返ってみようと思います。 僕は、これまでも述べてきたように、AI技術は、  AI-1 : 「 大規模言語モデル+α 」から  AI-2 : 「 大規模言語モデル+形式的証明システム+α 」へ と発展・進化していると考えています。この変化の中心舞台が、AIと数学の領域です。 【 2022年 OpenAI "Theorem Prover Project" 】 AI-1からAI-2 への移行はいつから始まったのでしょう。 そこには明確な画期があったと僕は考えています。それが、当時 OpenAIにいた Ilya Sutskever が主導した "OpenAI Theorem Prover Project" です。 【 2026年 ”Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science”  】 それでは、AI-1からAI-2 への移行の「始まり」ではなく、AI-1からAI-2 への移行そのものの画期となるのは、どのような動きでしょうか? それは、今年 2026年7月 OpenAIが公開した論文 ”Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science” だと僕は考えています。 【 AI-1からAI-2 への移行の意味を考えることの重要性 】 変化の激しいAIの世界で、2022年ー2026年の4年間というのは、いろんな事があったとても長い時間です。Ilya Sutskever 自身 OpenAI を去りました。このAI-1からAI-2 への移行は、AI技術の変化を振り返りその未来を展望するうえで、決定的な出来事だと僕は考えています。もちろん、この「移行」は、完成したわけではありません。ただ、AIにとって、大きな扉が開かれたと、僕は考えています。 今回のセッションでは、2022年のプロジェクトの振り返りを中心に行います。 【 2022年 Ilya Sutskever が考えたこと 】 ディープラーニングの到達点: 「ディープラーニングは、言語・ビジョン・画像生成を含む多くの分野で目覚ましい成功を謳...

AIと数学 -- 「数学と理論計算機科学における10の進展」

【 AIと数学 -- 「数学と理論計算機科学における10の進展」 】 AIと数学の領域の現状を知るうえで、先日OpenAIが公開した"Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science(「数学と理論計算機科学における10の進展」)" という論文(正確にはAIが解いたという10の問題についての10の個別論文を束ねてひとつにまとめたものです)は重要なものです。 Fable 5が登場したときに、彼との対話で彼は面白い表現で証明の二つのタイプを区別していました。一つは、自然言語の上で数学的証明を行う昔からある「手書きの証明」と、もうひとつは、leanやCoqといった形式的証明検証システムを用いた「形式的証明」の区別です。 この区別に従えば、先に上げた10本の論文は、いずれも、昔ながらの数学論文、「手書きの証明」にほかなりません。この10本の論文を読んでも、そこには、表現のレベルでは、さしたる「進展」はありません。 ただ、重要な「進展」があるのです。それは、OpenAIが10個の数学の問題すべてに対するlean上での「形式的証明」を、GitHubで公開したことです。AIと数学の領域では、AIはLLMベースの生成AIから、Neuro+Formal ベースのAIに進化・発展しているのです。この変化は重要です。 興味深いことは、OpenAIは先の文書の公開と同時に、"How the Ideas Came Together(「これらのアイデアがどのようにまとまったか」)" という文書を公開しています。この文書は、いわば、「手書きの証明」と「形式的証明」の「隙間」を埋めるために作られたものだと思います。 この文書を見て僕が感じたことは、AIが自律的に数学の問題の「形式的証明」を完成させたというよりも、数学者がAIを利用して、懸命に(ある意味では賢明に)、形式的証明を完成させたというイメージでした。僕は、それでいいと思います。みなさんは、何を感じましたか? ---------------------------- Ten Advances in Mathematics and Theoretical Computer Science https://cdn.openai.com/...

MaruLabo KnowledgeHub バージョンアップについて

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  MaruLabo KnowledgeHub がバージョンアップされました。 https://marulabo-knowledge-hub.vercel.app/ 改めて、このバージョンアップの概要を紹介したいと思います。2週間前のFaceBookでの告知は簡単なものでした。詳細は、リンク・画像付きの丸山のblog投稿を参照ください。 https://maruyama097.blogspot.com/2026/08/marulabo-knowledgehub-facebook.html 今回のバージョンアップの中心は、検索Boxの機能強化です。図の赤い枠で囲った部分です。赤枠の下に簡単な説明が表示されています。 【 マルレクのコンテンツに対する質問に答えられます】 特に、検索Boxの質問にAIが応答する機能は、大幅に強化されています。   「エントロピーについて教えてください」   「LLMの意味の理論について教えてください」   「AIの数学的証明述べ能力について教えてください」 といった質問を入力すると、きちんとこたえてくれます。 例えば、「エントロピーについて教えてください」と入力した場合の回答例です。 ----------------------------------- Q. エントロピーについて教えてください。 ----------------------------------- かしこまりました。「エントロピー」について、講演資料とセミナーの情報をもとにご説明いたします。 エントロピーという概念は、時代とともにその姿を変えながら、私たちの理解を深めてきました。元々は19世紀に熱力学の分野で定式化され、統計力学の基礎となりました。この頃のエントロピーは、物質の「乱雑さ」の尺度として捉えられていました。例えば、同じ「水」でも、分子が規則正しく並んだ「氷」のエントロピーは低く、分子が自由に動き回る「水蒸気」のエントロピーは高くなります [計算科学とエントロピ… p.3] 。 20世紀に入ると、エントロピーは情報理論の世界で「情報量」として再定義されました。これは、ビット列のような情報においても、規則的な並び(例えば100個の"0"が続く場合)はエントロピーが低く、ランダムな並びはエントロピーが高いと考えることができる、という考え方です...

AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか (3)

 【 AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか (3) 】 僕が何度かセミナーで取り上げながら、そのことを忘れていた問題がもう一つありました。それが、7番目の問題 いうです。それは、n次元のLattice空間で格子点に一番近いベクトルを求める問題です。このトピックについては、2022年9月のセミナー「ラティス暗号入門」で詳しく取り上げています。 このセッションでは、まず、AIがどのような問題を解いたのかを知ってもらうために、この "Closest Vector Problem" がどのような問題であるのかを、これまでのマルレクのセミナー「ラティス暗号入門」の資料を通じて紹介しようと思います。といっても、改めて過去の資料を読んでほしいということなのですが。 このセミナー「ラティス暗号入門」では、"Closest Vector Problem" を解くことの難しさを利用した量子耐性を持つ(量子コンピュータでも破れないという意味)新しい暗号技術「ラティス暗号」技術の紹介がメインテーマです。そこでは、ラティス暗号」技術の中核である Oded Regevが開発した、"LWE (Learning with Errors)" という手法と"Closest Vector Problem"の関係が論じられています。 ただし今回、OpenAIが公開した"Closest Vector Problem (CVP)" についての論文は、それとは違ったアプローチを取っています。そこでは、代表的な「NP完全問題」である 「3SAT問題」からの決定論的多対一の多項式時間還元によって GapCVP がNP困難であることを直接証明しています ---------------------------- 2022/09/30「ラティス暗号入門」 まとめページ https://www.marulabo.net/docs/cipher3/ コンシェルジェαバージョン https://www.marulabo.net/20220933md/ 「ラティス暗号入門」 講演資料 pdf  https://drive.google.com/file/d/1F7ShzeRuDl0mLCe69kX32fgD...

AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか (2)

 【 AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか (2) 】 前回のセッションから、「AIはどのような問題をどのように解いたのか」というトピックを取り上げています。まずは「AIはどのような問題を解いたのか」の紹介から始めたいと思います。 前回のセッションでは、「今回発表された10の数学的問題の多くは、僕は全く知らないものでした。ただ、そのうちの一つ、第4番目の問題「A Counterexample to Connes Rigidity (コンヌ剛性に対する反例)」は、よく知っている問題でした。」と書いたのですが、恥ずかしいことにその僕の認識は、間違っていました。 ボケている証拠です。6番目の問題 "Quantum parallel repetition." も、7番目の問題 "Closest vector problem." も、それに関連した話題をマルレクで取り上げていました。ボケの弁解は後回しにして、このセッションでは、6番目の問題に関連したマルレクの資料を紹介しようと思います。 実は、この6番目の問題は、僕が「この問題は知っている」といった4番目の問題と深い関係があります。前回のセッションで述べたように、Connnes予想が偽であるという証明は、量子情報理論の画期的な大定理 MIP*=RE 定理の系として導かれたものです。 Connnes予想が偽であるなら、MIP*=RE 定理でのTsirelson限界の利用のような量子情報論的な性質を使わずとも、純粋に代数的にその反例を構成できるはずだというのが、4番目の論文の基本的な動機になっています。そしてそれに成功したのです。 一方、MIP*=RE 定理の証明の骨組みを構成しているのは、二人のentangleした万能の証明者との対話を通じて、我々は何を知りうるのかという「対話型証明 Interactive Proof 」の手法です。そして、6番目の論文 " Exponential Parallel Repetition for All Two-Player Entangled Games" は、この Interactive Proof 分野での未解決の問題を扱ったものです。 マルレクでは、セミナー「MIP*=RE 入門 — Interacti...

AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか?

 【 AIと数学 -- AIはどのような問題をどのように解いたのか (1) 】 今回のセッションから、AIはどのような問題をどのように解いたのかを、少し詳しく見ていこうと思います。 今回発表された10の数学的問題の多くは、僕は全く知らないものでした。 ただ、そのうちの一つ、第4番目の問題「A Counterexample to Connes Rigidity (コンヌ剛性に対する反例)」は、よく知っている問題でした。 コンヌ予想が誤りであることが、5人の若いコンピュータ科学者によって意想外の斬新なアプローチで鮮やかに証明されたのは、2020年の1月のことでした。僕は、この証明とそのスタイルにショックを受けました。 2020年の11月27日に、この証明をテーマにしたセミナー「コンピュータ・サイエンスの現在 — MIP*=RE定理とは何か?」を開催しました。そのセミナーの呼びかけを再掲します。 「コンピュータ・サイエンスは、今、大きな転換点を迎えています。 その変化は、一言で言えば、コンピュータ・サイエンスは、単に「コンピュータ=計算機についての理論」ではなく、情報理論や物理学や数学などの数学的手法を用いる幅広い数理科学の中心的な理論として登場しつつあると言うことです。 こうしたコンピュータ・サイエンスの進化を象徴的に示すのが、2020年の1月に証明された “MIP* = RE定理”(「ミップ・スター・イコール・アールイー定理」と読みます)です。この定理は、数十年間未解決であった純粋数学の問題を解決し、また、同じく未解決であった量子力学の基本的な問題を解決しました。こうした問題の解決が、数学者や理論物理学者によってではなく、「コンピュータ・サイエンティスト」によって行われたことは、ある意味驚くべきことです。 数理科学の世界だけでなく、”MIP* = RE定理” は、ITの世界で、セキュリティの向上や新しい暗号化技術、さらには、最適化問題の近似的な解決法、新しいデバッキング手法の開拓などに幅広い応用を持つことが期待されています。 セミナーでは、できるだけ分かりやすく、”MIP* = RE定理” の概要を説明できたらと考えています。多くの皆様の聴講を期待しています。」 なかなか骨太の理解が難しい定理なのですが、お盆休みにでも、ゆっくりその概要を眺めてもらえ...

AIと数学 -- 「人工知能と数学に関するライデン宣言」

 【 AIと数学 -- 「人工知能と数学に関するライデン宣言」 】 昨日紹介した Nature誌に掲載された「いかにしてAIが数学をだめにするのを防ぐか」というブログ記事のもとになっているのは、あの記事でも触れられていますが、「人工知能と数学に関するライデン宣言」という文書です。 現在 3,000人の数学者がこの宣言に同意し署名しているといいます。この文書は、少なくない数学者が、現在の人工知能技術に対してどのような懸念を抱いているかを知るうえで役立つもだと思います。 できるだけ多くの人がこの文書の内容にアクセスしやすくするために、この文書の翻訳を行いました。文末(コメント欄)に、URLを上げておりますので、是非、お読みください。 AI と数学に関する僕の基本的立場は、以前のマルレク「コンピュータと数学 -- TuringからVeovodskyまで」にまとめてあります。 二年前のこのセミナーでは、あえて「AIと数学」というタイトルを採用せず、「コンピュータと数学」というタイトルにこだわっています。こうした論点については、「コンピュータと数学 -- TuringからVeovodskyまで」(コンシェルジェαバージョン)の「全体概要」のセクションをご覧ください。 重要なことは、二年前にはLLMベースの「AIは数学の問題も解ける」という根拠のない楽観論に対してむしろ必要だった「AIと数学」論と「コンピュータと数学」論の区別が、この間のAI技術の急速な進化によって、もはや古いものになりつつあるということです。 現在のAIは、LLMの驚異的な言語能力の上に、コンピュータが本来持っていた強力な「数学的=論理的」能力を統合した、Neuro-Formal システムへと急速に進化しつつあります。AIの発展段階論では本質的な意味をもつこの変化に、残念ながら、多くの人は気づいていません。「ライデン宣言」も、その例外ではないと僕は考えています。 --------------------------- Leiden Declaration on Artificial Intelligence and Mathematics https://leidendeclaration.ai/  「人工知能と数学に関するライデン宣言」日本語訳 https://maruyama097.bl...

人工知能と数学に関するライデン宣言

  人工知能と数学に関するライデン宣言 署名 署名者一覧 ニュース フィードバック 概要 お問い合わせ 報告 人工知能と数学に関するライデン宣言 本宣言は、数学研究における人工知能の利用がもたらす課題に対処するための行動を呼びかけるものである。これは学術コミュニティによるイニシアチブの結果であり、国際数学連合(IMU)によって 支持 されている。 この宣言に署名する 宣言文を読む 宣言文をダウンロード 支持表明 署名者一覧を表示 宣言を共有する 宣言文 人工知能と数学に関するライデン宣言 2026年6月2日 · DOI: 10.5281/zenodo.20302944 前文 技術の発展は、数学の実践を繰り返し変革してきた。数学の生成や形式化のための記号的手法やニューラルネットワーク手法を含む最近の人工知能技術は、この長い歴史においてすでに重要な一章を切り開いたかもしれない。研究者たちの間では、人工知能に対して、新たな発見をもたらす可能性への熱意、発展のスピードへの不安、こうした急速な変化への無関心、そして数学およびより広い社会への影響に対する懸念など、幅広い反応が見られる。 数学者は、研究の遂行において人工知能を採用するかどうか、またどのように採用するかについて選択の余地がある。また、数学という学問分野が今後も繁栄し続けることを確保する責任も負っている。本宣言は、数学者に対しこの責任を果たすよう呼びかけるとともに、個人、機関、政府、産業界に向けた提言を示すものである。 我々は数学研究の視点を採用しているが、ここに記す内容の多くは、数学の他の側面にも同様に当てはまる。これには、広義の数学科学、教育、指導、出版、資金調達、科学政策、そしてより広い世界における数学の活用などが含まれる。 本宣言は、学界の内外を問わず、同様の課題に直面している他の研究活動や創造的職業との連帯の精神に基づいて策定されたものである。本宣言は、 『ウプサラ科学者倫理規範』 、 『研究評価に関するサンフランシスコ宣言』 、 『ユネスコ・オープンサイエンスに関する勧告』 、および 『英国科学者向け普遍的倫理規範』 といった他の行動要請を補完するものである。 国際数学連合出版委員会 、 産業・応用数学学会 、および 米国数学会 も、関連資料を公表している。 私たちの価値観について 私たちの提言...