コップの中の「宇宙」

11月の講演も一段落したので、今回は、もう少し基本的な話をしようと思う。

量子情報理論や複雑性理論が、現代の物理学の中心課題である量子論と相対論の統一に重要な役割を果たしているという話である。

以前にも、量子論と相対論の統一については、ここで、サスキンドとマルデセナによる「ER=EPR」理論を紹介してきた。

 ●「量子論と相対論の統一としての ER = EPR 」https://goo.gl/fah5bn
 ●「ER=EPRに先行したもの (超入門編)」https://goo.gl/FxTjR2

この分野で、この間、大きな進展がある。課題をスローガンにすることの好きなサスキンドは、もう「GR=QM」というスローガンを掲げている。GRはGeneral RelativityでQMはQuantum Mechanicsだから、「一般相対論=量子力学」ということだ。

「GR=QM」については、サスキンド自身による、次のビデオがわかりやすい。"QM=GR?" https://goo.gl/WKYNdD
(論文で言えば、"Dear Qubitzers, GR=QM." https://goo.gl/weJedZ )

この理論的進展に、決定的な役割を果たしているのが、量子情報理論での「量子テレポーテーション」を、もつれ合ったミクロな二つのブラックホールの間の「ワームホール」をqubitがくぐり抜けることとして捉え直そうというアイデアである。
(図は、"Teleportation Through the Wormhole" https://goo.gl/pX6d9P から)

「ワームホール」は、アインシュタインが1935年に予見した、二つのブラックホールを繋ぐ「橋」である。サスキンドやマルデセナら現代の物理学者は、このワームホールの存在が、二つのブラックホールがエンタングル(もつれあい)状態にあることと同じであると考えている。

ただ、アインシュタイン=ローゼンの「ワームホール」は、誰も通り抜けることはできないものだったのだが、これが通り抜けられることになれば、どうなるか? 彼らは、「量子テレポーテーション」がそれに当たるという。

こうしたブラックホールは、どこにでも存在していると彼らはいう。(理論的には、そうした主張は新しいものではない。ただ、それがどういう意味を持つかを、明らかにしたのは、とても斬新である。)しかも、それは、宇宙と同じ時空構造を備えている限りは、別の「宇宙」と考えてもいいという。

その辺りは、マルデセナの次のインタビュー記事が刺激的である。

"Black Holes, Quantum Information, and the Structure of Spacetime" https://goo.gl/8Jx6St

(実は、昨晩も、マルデセナによる、"Wormholes and Entanglement"という講演のビデオ中継があったばかりだ。https://goo.gl/EEYpuW )

とてもワクワクする展開である。

そして、量子コンピュータが、こうした理論を実証する舞台になろうとしているのである。



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