複雑性と重力

先に、量子情報理論での「量子テレポーテーション」を、エンタングル状態にある二つのミクロなブラックホールが形成する「ワームホール」をqubitが通り抜ける過程として解釈しようとする理論を紹介した。
今回は、現在進行中の量子論と相対論の統一を目指す動きの中で中心的な役割を果たしているのは、「複雑性」というコンセプトであることを紹介したい。
まず、ここでの「複雑性」の定義から。
サスキンドは、状態|A>と状態|B>との間の相対的な複雑性 C(A, B)を次のように定義する。
  C(A, B)= 状態|A>から状態|B>を得る為に必要な最小の量子ゲートの数
すなわち、C(A, B)は、|B> = gggg....|A> となるような最小の量子ゲートgの数である。
この時、C(A, B) =  C(B, A), C(A, B) = 0 iff A=B と、C(A, B) ≦ C(A, D ) + C(D, B ) (三角不等式)が成り立つ。こうして、相対的な複雑性 C(A, C)は、正規化された状態空間の計量(距離)になる。さらに、ある状態の絶対的な複雑性 C(A)を、単純な状態、すなわちエンタングルしていない状態への最小の距離として定義する。
こうして、量子の状態の空間に、この複雑性を計量とした複雑性の幾何学を構成できる。この幾何学上に、一般相対論の基本的命題との対応物を構築していく。「測地線」とか「最小作用の法則」が働く「作用」の量子複雑性幾何学バージョンが存在するのだ。
この対応づけが、驚くような対応関係を明らかにしつつ、面白いように進むのだ。
例えば、この量子複雑性は古典的なエントロピーに対応する。ただし、N個のqubitからなるシステムの複雑性の最大値は、2のN乗になるのだが、古典的な統計力学では、N個の状態からなるエントロピーの最大値はNである。
このことは、N個のqubitからなるシステムの量子複雑性が、2のN乗個の自由度を持ったシステムの古典的エントロピーのように振舞うことを示している。
それらの対応関係は、次の論文「量子複雑性の第二法則」に展開されている。先の紹介は、この論文の第一章を要約したものだ。もちろん、この論文のタイトルは、「熱力学の第二法則」との対応を強調したものだ。
"The Second Law of Quantum Complexity"
Adam R. Brown, Leonard Susskind
2017/01/04
https://goo.gl/vLJRUQ
論文の章立てだけでも紹介しておこう。複雑性がキーコンセプトであることはわかると思う。いつか、この理論をきちんと紹介したいと思う。
 1章 量子複雑性と古典的エントロピー
 2章 量子システム Q
 3章 古典システム A
 4章 複雑性の幾何学
 5章 複雑性の幾何学上の粒子
 6章 複雑性の統計力学
 7章 第二法則
 8章 リソースとしての非複雑性
 9章 時空としての非複雑性
 10章 まとめ
 11章 いくつかの疑問
サスキンドは、この理論に基づいた論文を多数発表するとともに、精力的に講演活動を展開している。今年に入ってからの主な講演は、Youtubeで視聴できる。
at Kavli Institute for Theoretical Physics
"Quantum Complexity"
2018/06/03 https://goo.gl/kDFyJM
at Princeton, Prospects in Theoretical Physics: From Qubits to Spacetime
"Complexity and Gravity I, II, III "
 I : 2018/07/25 https://goo.gl/dFV7zc
 II : 2018/07/27 https://goo.gl/ozrgjY
 III : 2018/07/30 https://goo.gl/v6RiXL



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