角川連続講座 第三回「人工知能と量子コンピュータ」




あさって 11/19のセミナーですが、「はじめに」の部分できました。(遅い!)遅かったせいか、まだ、席に余裕があります。よろしかったら、聴きに来てください。https://lab-kadokawa71.peatix.com/
資料公開しました。ご利用ください。https://goo.gl/ymYfFY
---------
はじめに
---------
人工知能のもっとも基本的な問題の一つは、機械と人間にとっての「認識」の限界を正確に知ることであると僕は考えている。 量子コンピュータの登場が、こうした問題にどのような新しい地平を切り開くのかということは、人工知能論にとっては大事な問題である。
こうした観点から、量子コンピュータと量子複雑性理論については、これまでいくつかの機会で紹介してきたのだが、計算可能性理論や複雑性理論そのものについては、あまり語ってこれなかった。
今回は、第一部で、改めて複雑性理論の中核である「NP-完全」問題という不思議なコンセプトを説明しようと思う。「NP-完全」の発見なしには、複雑性理論は生まれなかったと言っていい。その理論的インパクトは、計算可能性理論の創出にゲーデルの不完全性定理が与えたインパクトと同じものだと思う。
「NP-完全」問題は、基本的に、力まかせの総当たりでやれば必ず解は見つかるはずというところが、どう頑張っても原理的に証明することが不可能な命題が存在することを主張する「不完全性定理」とは異なっている。
ただ、総当たりで問題を解くには、n個の条件が成り立つか否かというように問題を単純化しても、試すべき条件の組み合わせは、2のn乗個になる。nが小さいうちは(例えば、n=10なら、1024個の場合をチェックすればいい)なんとかなるのだが、nが大きくなるにつれ、問題は、文字通り指数関数的に難しくなる。それは、総当たり法では、現実的には、全く手に負えない問題となる。
量子コンピュータに対する期待の一つは、それがn-qubitの入力に対して、それに対応する2のn乗個の状態の演算を同時に実行することができるので、それをNP-完全問題の攻略に利用できるのではないかというものである。
量子コンピュータなら、NP-完全問題も解けると思っている人も少なくないのだが、それは誤解である。そんなにうまくはいかないのだ。その誤解を解くことが、「NP-完全」問題を、改めて取り上げた理由の一つである。
それでは、複雑な、現実的には手に負えない問題は、量子コンピュータでも手が出ないのかというと、もちろん、そうではない。Shorの素因数分解アルゴリズムのように、古典的(普通のという意味)コンピュータでは、現実的には解けない問題を量子コンピュータは解くことができる。
それだけではないのだ。量子コンピュータを用いた高速化の研究は、驚くべき広がりを持って様々な分野で進んでいる。第二部では、近年の活発な量子アルゴリズムの研究の現状を、Q2BカンファレンスでのPreskillの講演をベースに紹介する。これは以前のマルレクでAppendixに回していた内容である。
様々な応用とは独立に、個人的には、Shorのアルゴリズムの属するBQPという複雑性のクラスの一般化である「BQP-完全」というコンセプトに注目している。「BQP-完全」問題を解く量子デバイスを、我々はいつか手に入れると確信している。
その時、人間と機械の「認識」の限界についての我々の認識は、新しい段階に入ることになるだろう。
---------
Agenda  
---------
Part I  NP-完全問題とその含意
 ● 人間と機械の「認識可能性」の認識の拡大
 ● NP-完全問題 手におえない問題の存在
 ● Cook-Levin Theorem: SATはNP完全である
 ● Karp: 多項式時間で還元可能なNP完全問題
  ・Clique 問題
  ・Graph Coloring 問題
  ・Hamiltonian Path 問題
 ● 実際に実装されているNP-完全問題のプログラム
Part II  広がる量子アルゴリズムの世界
    -- BQP-完全問題とQRAM
 ● 量子組み合わせ最適化 QAOAとVQE
 ● 量子アニーリング
 ● 量子ディープラーニング
 ● QRAMと量子逆行列変換 HHLアルゴリズム
 ● QRAMとは何か?
 ● 半正定値プログラミング
 ● 量子リコメンデーション

コメント

このブログの人気の投稿

マルレク・ネット「エントロピーと情報理論」公開しました。

初めにことばありき

人間は、善と悪との重ね合わせというモデルの失敗について