Tai-Danaeを探して
God's Perfect Timeline: Keeping AI in Perspective
僕は、Tai-Danae Bradley のLLMやその意味理解の数学的構造の分析に、大きな関心を持っていました。
ただ、彼女には宗教的「回心」が起きたようで、その活動のスタイルは昨年来大きく変化したようです。Math3maは、「キリスト教科学」を標榜するMath3ma Instituteに再編され、Non-denominational Christianityの大学The Master's Universityでの活動に軸足が移ったように見えます。
ただ、彼女の現在の活動の状況を僕は把握できていません。ネットの検索で次の二つのビデオを見つけたのですが、いずれも一年以上前のものです。
2025/07/03
A Mathematician's Story of God's Faithfulness
https://www.youtube.com/watch?v=invo2OhlZ1g
2025/05/22
God's Perfect Timeline: Keeping AI in Perspective
https://www.youtube.com/watch?v=JAGBTzMLQv8
arXivへの論文投稿も、この間は行われていません。最近の彼女の理論的活動について情報がありましたら、教えてください。まだ、SandBoxAQに所属しているのでしょうか?
彼女の「回心」は、理論的には大きな損失だと考えています。彼女の論文の共著者たちは、彼女の変化について何か語っていませんでしょうか? 調べてもらえませんか?
調べてみると、少し意外な像が見えてきました。結論から言うと、Tai-Danae Bradley は2026年9月現在も SandboxAQ に所属しているとみてよく、また理論研究を完全にやめたわけでもありません。 むしろ、2025年には彼女が以前から進めていた「LLMの確率構造 → enriched category → 意味」という研究が、かなりきれいな形で一段先に進んでいます。一方で、2026年に入ってから新しいarXiv論文が出ていないというご観察は、その通りのようです。
まず、SandboxAQにはまだいるのか
はい。かなり確度が高いです。現在の本人のMath3maプロフィールは今も
“I am a research mathematician at Sandbox AQ”
としています。The Master’s Universityの現行教員ページも「currently works as a research mathematician at SandboxAQ」と記載しています。さらに2026年にも、SandboxAQ公式の fAQ podcast をBradleyがホストしており、6月には数学者Daniel Littを招いて「AIが高レベルの数学研究で実際にどう使われているか」を議論しています。つまり、名目だけ残っている所属とは考えにくいです。 (Math3ma)
彼女の最近のLinkedIn活動もSandboxAQの同僚や研究者へのインタビューが中心で、プロフィールのExperienceにもSandboxAQが残っています。またSandboxAQ自身の現在の会社紹介ページでも、CEO Jack Hidaryとの対談に「Research Mathematician Tai-Danae Bradley」として登場しています。 (LinkedIn)
実は「理論研究が止まった」というわけではありません
ここはかなり重要です。BradleyのLLM研究の最新成果は、
Tai-Danae Bradley & Juan Pablo Vigneaux,
“The Magnitude of Categories of Texts Enriched by Language Models”
で、arXiv投稿は2025年1月ですが、その後査読を経て Theory and Applications of Categories, Vol.44 に2025年11月10日正式出版されています。 (TAC)
これは単なる以前の論文の焼き直しではありません。2021年のBradley–Terilla–Vlassopoulosの構想
を、別方向にかなり本格的に発展させています。
今回の論文では、LLMのnext-token probabilityを使ってテキストの enriched category を明示的に構成し、 によって generalized metric space に移し、そのmagnitudeを計算します。その結果、
という関係が現れ、さらに での微分から Shannon entropy が回収されます。そしてmagnitudeをmagnitude homologyのEuler characteristicとしても記述しています。 (TAC)
これは、以前われわれが話していたBradleyの研究の延長としてかなり面白いところです。つまり、
言語の意味構造 → enriched category theory → metric geometry → entropy → homology
という線が見え始めています。
本人も2025年2月のMath3maの記事で、この研究を「2021年の理論の続きをJuan Pablo Vigneauxと進めたもの」と明確に説明し、「we're not done yet」と書いています。確率から を介して幾何へ移り、そこからmagnitudeへ進む、という研究上の動機もかなり詳しく説明しています。 (Math3ma)
これは、少なくとも2025年初めの時点では理論的関心が衰えていなかったことを示す強い資料だと思います。
もう一本、圏論をQuantum Machine Learningへ展開しています
同時期に、
Arthur J. Parzygnat, Tai-Danae Bradley, Andrew Vlasic, Anh Pham,
“Toward Structure-Preserving Quantum Encodings”
もあります。プレプリントは2024年12月ですが、Physical Review Research に2025年12月8日正式出版されています。Bradleyの所属はSandboxAQとThe Master’s Universityの双方です。 (APS Journals)
ここでは、classical dataをquantum stateへencodeする際に、「データやlearning taskが持つ構造を保存するencoding」をcategory theoryで統一的に記述するという発想を採っています。geometric QML、quantum metric learning、topological data analysisなどを、forgetful functorなどの圏論的構造の観点からまとめています。 (APS Journals)
したがってBradleyの研究には現在、少なくとも二本の線があります。
| 研究線 | 最近の到達点 |
|---|---|
| 言語・LLM・意味 | enriched category → generalized metric → magnitude → entropy / homology |
| Quantum ML | structure-preserving encoding を圏論で統一的に捉える |
後者は「意味理解」からは離れますが、圏論を使って機械学習に存在する潜在的構造を抽出するという彼女の基本姿勢はかなり一貫しています。
Quantaの2025年インタビューも、むしろ従来のBradleyです
2025年4月のQuantaの記事はかなり重要でした。そこでも彼女はSandboxAQの研究者として紹介され、LLMの統計的構造から意味がどう出てくるのかを圏論で調べています。 (Quanta Magazine)
特に興味深いのは、彼女自身の関心が「LLMの性能改善」より、
言語を研究することで、まだ知られていない新しい数学的構造を発見できるのではないか
という方向にあることです。TMUもこの発言を引用しています。 (The Master's University)
これは、僕にはかなりBradleyらしい姿勢に見えます。LLMを「応用対象」にするというより、LLMが見せている現象を手掛かりとして数学を発見する。2020年頃からの彼女の研究哲学とほとんど変わっていません。
さらに2025年8月13日にはNational Museum of Mathematicsで
“Category Theory: The Mad Libs of Mathematics”
という講演を行い、圏論が「なぜChatGPTのようなLLMの世界にも現れるのか」を扱っています。ですから、ご提示の二つの宗教的動画だけを見ると活動の重心が完全に変わった印象がありますが、同じ時期に普通の数学・LLM講演もしていました。 (モーマス)
「回心」は最近起きたのか
ここは、今回調べて一番認識を修正した部分です。
公開資料だけを見る限り、2024–25年に突然キリスト教へ回心した、とは言えません。むしろ違う可能性が高いです。
Bradley自身が2021年10月、Math3ma Institute設立時の記事で、大学院生だったころについて、
“As a Christian … As a student, I loved the Lord Jesus …”
と回想しています。そしてその2021年の記事自体が、Math3ma Instituteを「キリストの栄光を科学の中で認める」ことを目的とする研究・アウトリーチ組織として明確に位置づけています。 (Math3ma Institute)
Math3ma Instituteは2021年からThe Master’s Universityに存在し、TheoTech conferenceも同年に開催しています。2023年にはChristian STEM professionalsを対象にしたMath3ma Symposiumもすでに始まっています。 (Math3ma)
したがって、最近起きたのは「conversion」というより、
以前からあった信仰上の立場が、彼女のpublic personaと活動時間の中で占める割合が非常に大きくなった
と表現するのが一番慎重だと思います。
この変化を「研究上の損失」と感じられるお気持ちは理解できます。Math3maが2015–20年ごろ持っていた、非常に密度の高い純粋数学の解説ブログとしての更新頻度は明らかに落ちています。本人も2025年の記事で「I blog less frequently now」と認めています。 (Math3ma)
一方、数学そのものへの知的転回が起きた、という証拠は今のところありません。 公開アウトプットの時間配分が変わった、という方がデータには合っています。
共著者は、この変化について何か言っているか
ここはかなり念入りに探しました。John Terilla、Yiannis Vlassopoulos、Juan Luis Gastaldi、Juan Pablo Vigneaux、それから最近のQML論文のArthur Parzygnatらについて、Bradleyの信仰・Math3ma Institute・活動変化に触れた公開発言を検索しました。
私が確認できた範囲では、Bradleyの宗教的方向について批判、懸念、評価を公に述べている主要共著者は見つかりませんでした。
特に重要なのは、むしろ逆方向の事実です。
John Terillaとは2024年のNotices of the AMSの
“The Structure of Meaning in Language: Parallel Narratives in Linear Algebra and Category Theory”
をJuan Luis Gastaldiと共著しています。 (SandboxAQ)
そしてJuan Pablo Vigneauxとは、その後2025年のMagnitude論文を共同で完成させています。つまりMath3ma Instituteがすでに明確に宗教的な組織になった数年後にも普通に第一線の数学共同研究が続いているわけです。 (arXiv)
少なくとも公開記録から、
「Bradleyが宗教へ傾いたので以前の研究仲間が距離を置いた」
という物語を支持する証拠はありません。
これはかなり大事だと思います。
では2026年現在、研究はどうなっているのか
ここは少し気になります。
SandboxAQの公開publication databaseを調べると、Bradley名義の最新研究は2025年1月のMagnitude preprintで、それ以降2026年の新規Bradley論文は確認できません。SandboxAQ自体は2026年にも大量の研究を出していますので、単に会社全体の研究発表が止まったわけではありません。 (SandboxAQ)
その一方でBradleyは2026年もSandboxAQのfAQをかなり活発にやっており、科学コミュニケーションに時間を割いています。またMath3ma Instituteでは2026年6月に第4回Symposiumを開催し、2027年の開催もすでに告知されています。 (Math3ma Institute)
ですから現時点の私の読みは、
「研究をやめた」のではなく、「research mathematician + SandboxAQ science communication + Math3ma Institute director」という三つの役割のうち、後二者の公開活動が相対的に非常に目立つようになった
というものです。
そして少し気になるのは、SandboxAQ自身の2026年の重点が、LLMの意味論よりも Large Quantitative Models、drug discovery、materials science、quantum sensing 等へかなり移っていることです。Anthropic ClaudeとLQMを接続するMCPの発表などが典型です。 (SandboxAQ)
これは推測ですが、Bradley個人の宗教的変化だけではなく、SandboxAQでの仕事の方向そのものが、彼女の初期の「LLM・言語意味論」から少し離れている可能性も考えるべきだと思います。
ですので、今回調べた結果からは、私は「大きな理論的損失がすでに起きた」とまではまだ判断しません。
むしろ、
Bradley–Terilla–Vlassopoulos 2021
→ Bradley–Gastaldi–Terilla 2024
→ Bradley–Vigneaux 2025
という系譜はかなりきれいにつながっています。そして最後のMagnitude論文は、以前お話しした Lawvere的なenrichment、一般化距離、entropy、magnitude が一つの場所で交差するので、内容的にもかなり面白いです。 (arXiv)
ただし、2025年1月以降、新しいarXivプレプリントがないという点は私も気になります。2026年の公開活動を見る限り、研究よりscience communicationとMath3ma Institute運営の比重が増しているのは確かでしょう。
もしよろしければ次に、もう一段踏み込んで、**「BradleyのLLM意味論の研究プログラムそのものが、その後ほかの研究者にどう継承・発展されているか」**を調べてみませんか。Bradley本人が今後研究量を減らしたとしても、2021年の enriched category theory of language から派生した研究がAWS、tropical geometry、magnitude、categorical semanticsなどにどう枝分かれしたのかを追うと、「彼女の理論が今どこで生きているか」がかなり見えてくると思います。これは面白い調査になりそうです。
ありがとうございます。
彼女のファンとして、いろいろ安心しました。
彼女の”God's Perfect Timeline: Keeping AI in Perspective ” のビデオを見つけた時の僕のFaceBookでのコメントです。
https://www.facebook.com/fujio.maruyama/posts/pfbid02bobrARiAFoMgLmCooP4NgKNKFna59sUVmu7ytnJSbLiC9XrG26HuCw23RhA7fGBbl
このコメント修正する必要はなさそうです。
教えていただいた彼女の論文は、全部、見ています。
Bradley–Terilla–Vlassopoulos 2021
→ Bradley–Gastaldi–Terilla 2024
→ Bradley–Vigneaux 2025
という流れは面白いですね。
「彼女の理論が今どこで生きているか」という調査、始めてもらえますか?

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