意味の形式的理論 -- 空海の言語論 「声字実相義」

「声字実相義」は、今からちょうど1,200年前の819年頃に書かれた、空海による、「声」と「字」と「実相」の関係を論じた、言語論である。
「内外の風気わづかに発すれば必ず響くを名づけて声という。響きは必ず声による。声はすなわち響の本なり。声発して虚からず、必ず物の名を表するを号して字という。名は必ず体を招く。これを実相と名づく。」
それは、「口から出ることば(声)」と「物の名(字)」と「実体(実相)」の関係を論じたものだ。
こうした要約は、不正確かも知れない。空海は、「真言宗」の祖である。「真言」とは文字通り「正しい言語」のことで、彼の宗教の根幹には、言葉の力に対する深い確信がある。
この書を、「言語論」とくくるのも、どうかなと思う。それは生命論でもあり、人間論でもあり、環境論でもあり、宇宙論でもある。言語を中心に置いた、壮大な自然哲学でもある。
次の北尾克三郎氏の「現代語訳」が、ネットで利用できる。https://goo.gl/VXViKL
空海の言語論-『声字実相義』<現代語訳>
目 次
Ⅰ 理念<いのちと自然の声を聞くための「言語」>
Ⅱ 基礎理論<言語の構造>
  (イ)論題:「声」と「字」と「実相」との関係性とは
  (ロ)論題の梵語<複合語解釈法>による論証
  (ハ)言語論の典拠
Ⅲ 本論<物質といのちの"はたらき"と"すがた"を分析する言語>
  (イ)言語の定義
  (ロ)定義の展開
  第一の定義<物質のひびきとしての言語>
  第二の定義<住む世界と呼応する言語>
  第三の定義<形象を区別・編集する言語>
  (A)形象の定義
  (B)定義の展開
  1「物質と現象」のすがた
  2「いのちとその環境」のすがた
  3「共生の事象」のすがた
  4「心象」の本質
もちろん、空海の言語論が、現代にもそのまま妥当するわけではないのは明らかだ。ただ、1,200年前、こうした広い視野を持つ天才が日本に生まれたことは、特筆に値するとおもう。
北尾氏の訳は、いわゆる「超訳」に近いものだとおもう。ただ、空海の思想を現代的に捉え返そうという思いは、十分に伝わる。
もちろん、僕には、原文に当たって翻訳をチェックする能力はないのだが、読み下し文をザッピングしていると、気になるところはいくつか有る。
「これらの五種の言葉を梵語でマントラ(真理を語る無垢の言語)というが、このマントラの一言の中に、上記の五つの意味が含まれている。だから、インドの仏教哲学者ナーガールジュナはマントラを秘密語と名づけた。」(北尾訳)
「この五種の言、梵には曼陀羅という。この一言の中に五種の差別を具す。故に竜樹は秘密語と名づく。」
(長保寺 読み下し文)https://goo.gl/kBy6Ct
「真言」が、北尾訳では「マントラ」に、長保寺読み下しでは「曼陀羅」になっている。どっちなの?
原文の写真を見たら、https://goo.gl/kzyoy3 の10ページ目、僕には、「曼荼羅」のように読める。



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