Quantum Simulator ; Monroe and Lukin

11月29日付のNature誌に量子コンピュータに関係する二つの論文が掲載されている。Natureこの記事は有料でしか読めないのだが、二つの論文のpreprintは、arXivで読める。
それぞれ、53-51 qubitのシステムを実現している!
Monroe et al . "Observation of a Many-Body Dynamical Phase Transition with a 53-Qubit Quantum Simulator" https://goo.gl/tYckTp
Lukin et al. "Probing many-body dynamics on a 51-atom quantum simulator" https://goo.gl/YdCSGi
Monroeは、Maryland大の人で、今は、IonQというベンチャーを立ち上げている。Lunkinらの論文は、Harvard/MIT/CalTechの共同研究。
Monroe/Lukin 両者ともに、qubitの実装にはイオン・トラップを使っている。GoogleやIBMといったIT業界の巨人達は、超電導を使って(D-Waveもそうだ)qubitの実装をしているのだが、アカデミー勢の動きは対照的だ。
「紙と鉛筆」では、もちろんqubitの実装はできないのだが、光格子を使ったトラッピングは、超電導回路を集積させるより、安価にできると思う。日本の大学の研究室でも、予算に恵まれれば可能な実験である。(「スーパー・コンピュータ」に対する文科省の支援より、一桁安くても可能だと思う。)
アカデミー系の両者のシステムが、同じ "Quantum Simulator" で、同じ「多体問題」のシミュレーションをしているのも、要注目だ。それは、「量子ゲート」型でも、「量子アニーリング」型のいずれでもない。
ただ、それは、量子コンピュータを展望した最初の論文、ファインマンの"Simulating physics with computers"のビジョンに、忠実に従ったものである。物理学者を含む多くの人が納得する形での「量子優越性」の証明は、「暗号解読」でも「ディープラーニング」でもなく、この分野、Quantum SimulationとQuantum Samplingから起きると思う。
現実世界やビジネスとの関係では地味な成果に見えるかもしれないが、重要なことは、これらの着実な前進が、新しい量子アルゴリズムの発見に繋がる可能性があるということだと思う。
巨大な資金の投入がなければ、量子コンピュータの研究は進まないということでは、必ずしもないのかもしれない。
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イオン・トラップ技術の、歴史は古い。最近では、2012年にワインランドとアロッシュが、「個々の量子系の計測と操作を可能にした画期的な手法の開発」でノーベル物理学賞を得ている。
図は、イオン・トラップの様子。黄色いボールが捕捉されたイオンだが、その下の卵のパッケージみたいのは、エネルギー準位を表す。
こうしたトラップをどう作るかは、次のビデオが参考になる。(トラップをどう作るかは、色々な方法があるのだが、ここでは、代表的な「光格子」の方法を説明している。)https://goo.gl/pKVFsN 1994年の古いものだが、わかりやすい。
まず、光の干渉縞を作る(エネルギーの高いところと低いところの縞模様だ)。ビデオでは、この縞に沿って、高分子の粒子が整列するところが写っている。今度は、この縞々と垂直な方向で、干渉縞を作ると、今度は、格子状の縞々ができる。(こういうのを、光格子(optical latticeという)) そうすると、格子状に分子が整列する。
この原理を使うと、三次元上にも、分子を捕捉できる。




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