名前と番号

  「先生、肉牛と乳牛の違いわかりますか?」

昔、稚内に引っ越した頃、知り合いになった酪農家に聞かれたことがある。

 「食肉になる牛と、ミルクをだす牛の違いでしょ。(まんまだ)」
 「あ、乳牛はメスだけで、肉牛は、どっちもあり。(あたりまえだ)」

そんなことではなかった。

 「肉牛には名前がないけど、乳牛には名前があるんです。」

彼が言うには、肉牛は名前を持たず番号で管理されるが、乳牛は「メリー」とか「ベス」と名前をつけられて、酪農家に大事に育てられるのだという。

そうなんだ。知らなかった。

先日、近所のスーパーで「ホルスタイン」(これは乳牛)の肉が売っていた。珍しい。ローストビーフにして食べたが、新鮮で、ほとんどレアでもとても美味しかった。

宗谷では、人間より牛の数が多い。「宗谷黒牛」というブランドで肉牛も育てているが、それは宗谷岬一帯だけで、ほとんどは乳牛・ホルスタインだ。

大事に育てられていても、乳牛だって、僕ら人間と一緒で、いつか斃れる。ペットの葬式は普通にあるが、牛の葬式は見たことない。というかそんなこと、考えたこともなかったが。

美味しくいただいたお肉には、「個体識別番号」が明記されていた。乳牛にも番号あるじゃないか。

もしも、僕が誰かに食べられるなら、マイナンバーや戒名じゃなく、名前を使って欲しいな。




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