従属型理論の登場

【 「証明支援システム」-- 人間と機械の「協働」の始まり 】

Dependent Type Theory 「従属型理論」の基本が出来上がるのは、1980年代です。その中心人物は、マーティン・レフです。

彼の理論が与えた影響を、二つほど見ておきたいと思います。

第一に、この理論は、21世紀になって急速に実装が進んだ Coq, Agda, Lean 等の「証明支援システム」に理論的基礎を提供しました。

「証明支援システム」というのは、“Proof as Program” という、証明をコンピュータのプログラムとして実行するというアイデアを、現実に実行可能にしたシステムのことです。

「証明支援システム」は、コンピュータが自動的に数学の問題の証明を与える「自動証明システム」ではないことに注意してください。それは、あくまでも人間が行う数学の証明を、コンピュータが支援するというシステムです。

ただ、「証明支援システム」で、証明を行なっていると、奇妙な感覚にとらわれることがあります。

 「僕は、コンピュータで証明を行なっている。
  証明をしているのは僕だ。
  コンピュータが、それを助けてくれている。」

 「でも、待てよ ... 」

 「本当は、証明をしているのはコンピュータで、
  それを支援しているのが、僕なんじゃないか?」

以前は、「証明支援システム」を利用して「証明」を行う人は少数だったもので、こうした「主客逆転」の「感覚」を伝えることは、少し難しかったのですが、今年に入って状況は大きく変わったと思います。

その変化とは、いうまでもなく、GitHub Copilot が登場して、それを圧倒的に多くのプログラマが使い始めて、機械とのペア・プログラミングの経験が急速に拡大していることです。

まだ、「ChatGPTが、プログラムを全部書いてくれるので、人間のプログラマはいらなくなる」という議論も時々見かけるのですが、実際に使ってみた人は、プログラマの仕事は楽になるけど、形は変わってもやっぱり人間が必要なんだということに、いつか気づくと思います。GitHub Copilot は、基本的に、人間主導の「機械と人間の協働」なのです。

それは「大規模言語モデル」ベースの「プログラム開発支援システム」の限界だと思います。人間の役割が必要だということは、人間にとって悪いことではありません。

ただ、「証明支援システム」での、「機械と人間との協働」経験は、もう少し、ラディカルなもののように僕には思えます。なぜなら、人間がいなくてもいい世界を、それは潜在的には志向しているからです。まあ、かなり、空想的な考えかもしれませんが。それに、そうした数学的問題を自力で解く機械の知能の構成は、なかなか難しそうです。

最近の僕の最大の驚きは、ChatGPTの登場ではなく、自宅のこたつの上のMacが「連続体仮説」を解いてみせたことです。興味がある人は、次のショートムービーとblogをご覧ください。

 ショートムービー:「連続体仮説をコンピュータで解く」
 https://youtu.be/Vq3wTUrbL5c?list=PLQIrJ0f9gMcPP8LOejaQQlYufAMEQbcdg
 blog:「感慨 -- 思えば遠くに来たもんだ」

脇道にそれて、マーティン・レフの理論が与えた影響を書くのを忘れていました。

第二に、マーティン・レフのDependent Type Theory は、現代の新しい型の理論である VoevodskyのHomotopy Type theory の直接の先行者として、その登場を準備しました。

Homotopy Type theoryについては、今回のセミナーでは触れることはできませんが(僕の「経験則」では、40年後のITの世界に期待しています)、Voevodskyの数学の世界でのコンピュータ利用の促進の提案については、ぜひ、紹介しようと思っています。

-------------------------------------

「 従属型理論の登場 」を公開しました。
https://youtu.be/b6ElnDrtW1U?list=PLQIrJ0f9gMcMMwP2zBgMe3LbaDnKGG_zw

資料pdf
https://drive.google.com/file/d/121Voq70keBe5ugpxIts6aOHGfGmsPh_v/view?usp=sharing

blog:「「証明支援システム」-- 人間と機械の「協働」の始まり 」
https://maruyama097.blogspot.com/2023/03/blog-post_22.html

まとめページ
https://www.marulabo.net/docs/aimath/

セミナーの申し込み
https://ai-math.peatix.com/

コメント

このブログの人気の投稿

マルレク・ネット「エントロピーと情報理論」公開しました。

初めにことばありき

人間は、善と悪との重ね合わせというモデルの失敗について