ことばの力
【 ことばの力 】
今回のセッションのテーマは「ことばの力」です。
「ことば」は不思議な力を持っています。
それは、日々の日常の仕事や生活の中でのコミュニケーションの手段であるとともに、我々の考えや感情や意志を表現する上で不可欠の手段です。文字の形を獲得したことばは、歴史的に形成・蓄積された我々の世界や民族や信仰についての認識をしっかりと次の世代に伝える記憶装置としての役割を果たしてきました。
ことばは、また、論理的な思考の母胎でもあります。「黒い猫」と言うフレーズは、「黒い猫は猫である」ことを含意します。ことばの力が内包する論理性と文字の発明がなかったら、数学は生まれてこなかったでしょう。ことばとのアナロジーなしでは、「自然は数学ということばで書かれている」というガリレオの認識も生まれてこなかったはずです。
我々人間が、社会的な集団を形成し、宗教や芸術を作りあげ、科学・技術を発展させてきた営為の基礎に、人間に与えられたことばの力があることは明確です。「賢い人=ホモサピエンス」にとって、ことばは彼が持つ最強かつ万能の道具なののです。
道具という比喩は適切ではないかもしれません。なぜなら、こうした人間がもつことばの力=言語能力は、外在的なものではなく人間に生まれつき備わった内在的な能力で、人間という動物を他の動物から区別する、いわば生物学的特徴だからです。我々は、意識的に学習することなく、誰でも言語能力を持つのです。
チョムスキーは、人間の言語能力の獲得を、ある個人に起きた遺伝子の突然変異から始まったと考えます。(以下 "The Science of Language" から)
「ある人の上に、その子孫にずっと伝えられる何かが起きた。あきらかに非常に短い間に、その遺伝子の変化はそのグループ内で優勢になった。それは、淘汰上の何らかの有利さがあったに違いない。ただ、それは非常に短い時間に、血縁上の小さなグループで起きた。」
その変異とはなんだったのか? 彼はそれは心の中のオブジェクトを Merge する能力の獲得だったと言います。
「我々に起きたこととは、我々は すでに構成された心の中のオブジェクトをとって、それから、さらに大きな心の中のオブジェクトを構成することを可能にする操作を獲得したのだ。それがMergeだ。それを獲得するやいなや、人は、利用可能な表現や思考の階層的構造の無限の多様性をもつことになる。」
この時、我々は、動物としてすでに感覚・運動システムを持っていて、また、物事をなんらかのしかたで心に思い描くといったような原始的な思考のシステムを持っていたと言います。
「ひとたび、人がこれらと構成の技術Mergeを使って、階層的に構造化された表現の無限の多様性を獲得すると、人は、突然、それまで誰もできなかったやり方で、考え、計画し、解釈することができるようになった。...そして、この多様な思考を、なんとかして外部化しようという考えが生まれる。 ... そうしたものとして、言語の進化を捉えることができる。」
こうした言語の進化のイメージは、とても刺激的なものでした。
なぜなら、ことばを話す我々はみな、遡れば、言語能力を獲得した少数のミュータントの子孫だということになるからです。
昨年ノーベル賞を受賞したスヴァンテ・ペーボは、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、交配していたといいます。言語能力が高くはなかったとみなされているネアンデルタール人から見れば、仲間と意思を通ずることのできる人類は、テレパシーの能力を持っているように見えたかもしれません。
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ショートムービー「 ことばの力 」を公開しました。
https://youtu.be/OhtuKULZaQ8?list=PLQIrJ0f9gMcMZkwx9VXm46JJ57pNpix1b
資料 pdf「ことばの力 」https://drive.google.com/file/d/1lxhq1GuB2ffveRPsEs45Lo8zl1InlFFZ/view?usp=sharing
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