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「生物多様性」の「大きさ」を考える

【 「生物多様性」の「大きさ」を考える 】 これまで、集合の「大きさ」としてのカントールの基数 ( cardinality )や、図形の「変わらぬ大きさ」としてのオイラーの標数 ( Euler characteristic )を見てきました。  我々の認識の対象となるものには、何らかの形で「大きさ」の概念を持つものが、少なくありません。 このセッションでは、集合や図形とはちょっと異なる対象の「大きさ」を考えてみようと思います。 このセッションで扱うのは、「生物多様性」の「大きさ」についてです。 【 「生物多様性」の議論とマグニチュード論と Tom Leinster 】 前回のセッションで、 「次回のセッションから、こうしたアイデアを受け継いだ、Leinsterの「Magnitude論」の紹介に入りたいと思っています。」と書いたのですが、実は、マグニチュード論と「生物多様性」の議論とは、深い結びつきがあります。 マグニチュード論を始めたレンスターは、もちろん数学者ですが、「生物多様性」の問題への関心を強く持っていました。 そして、レンスターは、後で見るように、「生物多様性」の数学的理論の構築で画期的な成果を収めました。彼のマグニチュード論は、こうした彼の問題意識と研究成果の発展として捉えることができます。 今回のセッションでは、まず彼の「生物多様性」の「大きさ」の議論を振り返ってみようと思います。今回は途中までですが。 基本的に依拠したのは、2015年のTom LeinsterとMark W. Meckesの次の共著論文です。スライドは、基本的にこの論文からの引用で構成されています。生態学の論文として書かれているので、数学論文よりわかりやすいところがあると考えています。 Maximizing diversity in biology and beyond https://arxiv.org/pdf/1512.06314 【 「生物多様性」の「大きさ」を考える 】 次のような問題を考えてみてください。問題は、簡単で「どちらの環境の方が、「生物多様性が大きいと思いますか?」というものです。  ● 環境Aには、4種の鳥が住んでいます。環境Bには、3種の鳥しか住んでいません。ただし、環境Aでは一種類の鳥が個体数では圧倒的に多いのに対して、環境Bでは3種の鳥が...

「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する

【 「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 】 このセッションでは、オイラー標数についてのシャニュエルの議論を直感的な図解で振り返ろうと思います。 直感的に理解するというのは、数学的な厳密さは欠けているところがあるにせよ、何らかの数学的真実を理解する上で、大事なことだと考えています。 ここでは、ある図形の「大きさ」として、オイラーの標数を捉えるという次のようなシャニュエルのアイデアが大きな役割を果たしています。   「位相との無関係性を強調し、多面体のオイラー特性を有限加法的測度として扱う」 いくつか新しい図を加えました。ドーナツ状の物体の「大きさ」が、ゼロになってしまうというのは、直感に反するかもしれませんが。 線分の両端の端点は点だけれども、無視できない「大きさ」を持つのだというシャニュエルの議論を、是非お楽しみください。 次回のセッションから、こうしたアイデアを受け継いだ、Leinsterの「Magnitude論」の紹介に入りたいと思っています。 −−−--−−−−−−−−−-------−−−−− blog 「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 」 https://maruyama097.blogspot.com/2025/09/blog-post_14.html スライド「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 」のpdf ファイル https://drive.google.com/file/d/1ZfXfBgZLFPiVI1Q06dXYdRQiwGlbz8Tv/view?usp=sharing セミナーのまとめページ https://www.marulabo.net/docs/magnitude/ セミナーに向けたショートムービーの再生リスト https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcPmPimhgAIUUh98fyLSM6iB ショートムービー「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する」 https://youtu.be/avp_4gtvOSg ?list=PLQIrJ0f9gMcPmPimhgAIUUh98fyLSM6iB

オイラーの標数の「式の形」を考える

【 オイラーの標数の「式の形」を考える 】 このセッションでは、オイラーがオイラーの標数の式をどのように導いたかを考えてみようと思います。 もっとも、この件についてオイラーが考えたことの何か歴史的資料が残されているわけではなさそうです。(僕が知らないだけかもしれませんが) ここでは、残されたオイラーの標数の「式の形」から、オイラーが考えたことを考えていきたいと思います。 【 ふたたび、オイラーが数えたものについて 】 基本的には、オイラーが数えたものを考えてみましょう。 集合{X}の要素の数を数えた時、その数を#{X}で表すことにしましょう。   Aのオイラーの標数    = #{Aの頂点の集合} ー #{Aの辺の集合} + #{Aの面の集合} オイラーが示したことは、この三種類の数え上げの結果を組み合わせると(足し算と引き算が交互に登場するので、「交代和」と言います)「変わらない大きさ」が得られるということです。 何度見ても、素晴らしい発見ですね。 ただ、不思議な発見だと思います。 【 なぜ、「三つの集合」なのか? 】 今度は、なぜ、{Aの頂点の集合} と{Aの辺の集合} と{Aの面の集合}という三つの集合に注目したのかを考えてみましょう。 これには、答えることができるかもしれません。 オイラーが見ていたのは、3次元の多面体Aです。  {Aの頂点の集合} は、0次元の形を持つAの部分集合です。  {Aの辺の集合}   は、1次元の形を持つAの部分集合です。  {Aの面の集合}    は、2次元の形を持つAの部分集合です。 3次元の対象であるA自身を除いて、Aに属する任意の部分集合は、すべて0次元か、1次元か、2次元の次元を持ちます。 カントールなら、3次元の対象も基本的には0次元の点の集まりとして考えたかもしれません。そこが、カントールとオイラーのアプローチの違いです。そのことについては、後で振り返ります。 多面体を構成する部分集合の{頂点、辺、面}という三つの集合へのオイラーの分類は、多面体の三つの集合たちによる自然な「分割」を提供していることに注目してください。 ( 「「頂点」の集合は、「辺」の集合としても、「面」の集合としても、二重、三重にカウントされている」というツッコミは、ここでは忘れましょう。) 【 「同じ形」=「同じ次元」...

「形」を数える – オイラーの「標数」

【 「形」を数える – オイラーの「標数」 】 このセッションでは、図形の「大きさ」に関係した量として、「オイラーの標数(Euler characteristic)」を紹介しようと思います。 【 3次元の多面体の頂点と辺と面の数 】 オイラーは、3次元の空間上の図形を構成する基本的な要素として、「点」と「線」と「面」に注目します。 彼は、点(頂点)と線(辺)と面から構成される3次元の(凸な)多面体について、頂点の数を v 、辺の数を e 、面の数を f とすると、 次の関係が成り立つことに気づきました。   𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 この 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 を(凸)多面体の「オイラー標数」と言います。 スライドでは、「プラトンの正多面体」について、この関係が成り立つこと確かめています。ご自身でも、確認ください。 【 凸集合(convex set) 】 物体が凸(とつ、英: convex)であるとは、その物体に含まれる任意の二点に対し、それら二点を結ぶ線分上の任意の点がまたその物体に含まれることを言います。 先に見た、𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 を満たす多面体は、全て、凸集合です。 【 convex hull (凸包) 】 convex hull は、与えられた集合を含む最小の凸集合です。 X がユークリッド平面内の有界な点集合のとき、そのconvex hullは直観的には X を輪ゴムで囲んだときに輪ゴムが作る図形と考えていいです。 【 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 とサッカーボール 】 サッカーボールの表面は、5角形と6角形で構成されています。5角形の数をP、6角形の数をHとすると、次の式が成り立ちます。   𝑓 = 𝑃 + 𝐻   𝑒 = ( 5𝑃 + 6𝐻 )/2   𝑣 = ( 5𝑃 + 6𝐻 )/3 この式を、オイラーの式 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2  に代入すると、Pの項が消えて、H = 12 がわかります。 どんなサッカーボールにも、6角形は必ず、12個あります。 【 オイラーの標数 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 は変わらない「大きさ」 】 オイラーの標数 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 は、どんな「大きさ」なのかを考えてみましょう。確かにそれはある自然数ですので「大きさ」を持ちます。 ただ、...

無限の個数 – カントールの基数論

【 無限の個数 – カントールの基数論 】 カントールの集合論では、無限の系列が二種類登場します。一つは、「順序数」と呼ばれるもので、もう一つは、「基数」と呼ばれるものです。順序数は対象を「順番に数える」ことに対応し、基数は対象の「個数」に対応します。 ただ、この順序数と基数の区別は、カントールの集合論で初めて導入されたわけではありません。この区別は、英語等の印欧語では、ごく普通の日常的な区別です。 英文法の授業で、次のようなこと習いませんでしたか? first, second, third , ... といった順序を表す数詞を「序数」と呼び、one, two, three, ... といった数量を表す数詞を「基数」と呼び、両者は、異なる系列に属すると。  英文法では、 順序を表す first, second, third , ...  といった序数詞の文法範疇を ordinal numeral といい、数量を表す one, two, three, ... といった基数詞の文法範疇を cardinal numeral と言います。文法用語なのでラテン語が入っているのですが、普通の英語に訳すと、それぞれ ordinal number, cardinal numberになります。 これは、カントールの「順序数 = ordinal number」、「基数 = cardinal number」という用語と全く同じものです。 カントールの順序数と基数の区別は、何も特別なものではなく。印欧語の世界では、ごく普通の日常的区別なのです。 【   日本語の場合 】 なぜそんなことを言うかというと、日本語の場合(多分、東アジア系の言語の場合)、序数詞と基数詞の区別は、それほど明確でないからです。 その代わり、以前にも紹介しましたが、日本語には「助数詞」という数詞の後ろについて数詞の表す数字の性質を説明する特別なことばがあります。 例えば、「3人」、「2枚」、「1本」の、「人」「枚」「本」は助数詞で、 「3人」の3は「人間」の数であること、「2枚」の2は「平たいもの」の数であること、「1本」の1は「まっすぐな、あるいは線状のもの」の数であることを表します。 日本語では、この助数詞の助けによって、「序数」と「基数」の区別以上の数の区別が行なわれていると...

「数える」と「個数」

【 「数える」と「個数」 】 「宇宙を埋め尽くす砂の数は?」という問いを立てて、実際にそれを計算した人がいます。 古代ギリシャの数学の天才アルキメデスが、その人です。 彼は、宇宙を埋め尽くす砂の数は、10^51より少ないことを導きました。 その計算は、wiki ページ https://ja.wikipedia.org/wiki/砂粒を数えるもの  に紹介されています。 あるエリアの野鳥の数を数える方法も、いろいろ考えられています。「日本屋長の会」などが行う方法を、紹介しておきました。 【 「数える」には、いくつかの前提・特徴があります 】  ・前提:数える範囲が明確(例えば「箱」の中にある)で、かつ、その数が、数える間に変化しないこと。  ・数えられる「もの」の具体的な形状・性質は、数えることには影響を与えない。数えるときに、それらは捨象される。  ・どれを先に数えるか、同じことだが、数える順番は、数えることには影響を与えない。  ・ただ、すでに数えたものと、まだ数えていないものとの区別は必要である。数えるというのは、対象をすでに数えたものとまだ数えていないものに二分することなしには実行できない。  ・最初に数えたとき1と数え、次に2と数え、順次、それを続ける。数えることは、自然数の順番に対応している。 【 「個数」について考える 】 数えることと「個数」とは、もともとは結びついていたのですが、そのうちに、数えることとは独立にでも、「個数」は存在するという考え方が、一般的になります。 先のアルキメデスの宇宙を埋める砂の数や、日本野鳥の会のカウンティングは、実際には、数えていません。数えなくても、あるいは、数えられなくても、「個数」は存在すると思われています。 【 「数える」とは独立な「個数」の定義 】 数学的には、「数える」という具体的な操作とは独立な「個数」の定義が必要になります。 二つの集合の要素の個数については、次のような定義が基本的です。    二つの集合の要素が、「一対一対応」がつく時、    二つの集合の要素の個数は、等しいとする。     【 抽象的な話になる前に 】 話が抽象的になる前に、一つのことを確認しておきたいと思います。 それは、先に、「数える」ことの特徴として挙げた次のことに関係しています。  ・数えられる「もの」の具体的な形状・性質は、数...

5/31 マルレク「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」資料公開

【 5/31 マルレク「「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」講演ビデオと講演資料のURLです 】 丸山です。 5月に開催した、マルレク「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」の講演ビデオと講演資料のリンクを公開しました。  今回のセミナー「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」のまとめページはこちらです。 https://www.marulabo.net/docs/sdlc/ 次のようなコンテンツで構成されています。 ● Part 1  ソフトウェア開発でのAI利用の動向  ・AI利用の急速な拡大    ザッカーバーグの予測    AIベンダーの動向  ・広がる危機感    攻撃者としてのAI / 防御者としてのAI    RSAC 2025 レポート AIとNHIによる脅威の拡大 ●  Part 2 ソフトウェア開発とAI Agent   ・ソフトウェア開発へのAI Agent導入の動向   ・Multi AI Agent プログラミング   ・A2A: Travel Agent サンプル   ・ADK: コード開発パイプライン・サンプル ●  Part 3 ソフトウェア開発の課題と未来   ・人間はAIに何を伝えるのか?   ・LLMと形式手法の統合   ・人間と機械の関係を考える セミナーは、YouTubeでの配信ですので、いつでも都合の良い時間に見ることができます。 セミナーは3つのパートに分かれています。個別にも全体を通してもアクセスできます。 -------------------------- 全体を通して見る --------------------------  ●  「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」セミナーの講演ビデオ全体の再生リストのURLです。全体を通して再生することができます。 https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcMwN5EQg1hMr145esshE2Fn  ●  資料全体を一つのpdfファイルにまとめたものはこちらです。    「ソフトウェア開発サイクルの変革と AI Agent の動向」資料 https://drive.google.c...