無限の個数 – カントールの基数論

【 無限の個数 – カントールの基数論 】

カントールの集合論では、無限の系列が二種類登場します。一つは、「順序数」と呼ばれるもので、もう一つは、「基数」と呼ばれるものです。順序数は対象を「順番に数える」ことに対応し、基数は対象の「個数」に対応します。

ただ、この順序数と基数の区別は、カントールの集合論で初めて導入されたわけではありません。この区別は、英語等の印欧語では、ごく普通の日常的な区別です。

英文法の授業で、次のようなこと習いませんでしたか? first, second, third , ... といった順序を表す数詞を「序数」と呼び、one, two, three, ... といった数量を表す数詞を「基数」と呼び、両者は、異なる系列に属すると。 

英文法では、 順序を表す first, second, third , ...  といった序数詞の文法範疇を ordinal numeral といい、数量を表す one, two, three, ... といった基数詞の文法範疇を cardinal numeral と言います。文法用語なのでラテン語が入っているのですが、普通の英語に訳すと、それぞれ ordinal number, cardinal numberになります。

これは、カントールの「順序数 = ordinal number」、「基数 = cardinal number」という用語と全く同じものです。

カントールの順序数と基数の区別は、何も特別なものではなく。印欧語の世界では、ごく普通の日常的区別なのです。

【  日本語の場合 】

なぜそんなことを言うかというと、日本語の場合(多分、東アジア系の言語の場合)、序数詞と基数詞の区別は、それほど明確でないからです。

その代わり、以前にも紹介しましたが、日本語には「助数詞」という数詞の後ろについて数詞の表す数字の性質を説明する特別なことばがあります。

例えば、「3人」、「2枚」、「1本」の、「人」「枚」「本」は助数詞で、 「3人」の3は「人間」の数であること、「2枚」の2は「平たいもの」の数であること、「1本」の1は「まっすぐな、あるいは線状のもの」の数であることを表します。

日本語では、この助数詞の助けによって、「序数」と「基数」の区別以上の数の区別が行なわれているといっていいのかもしれません。

日本語では「序数」をどのように表現できるのでしょう?多分、nを数字として、「n番目」「n回目」「n巡目」のように表せます。「番」も「回」も「巡」も助数詞ですので、あるいは、n+助数詞+「目」が、序数化の中心的な役割を担っているのかもしれません。

ここでも、日本語の序数にあたるものは、英語の序数に比べて、数字についての豊かな質的情報を持ちうることがわかります。

もっとも、言語による数的表現の差異や優劣を論じるのが、今回のセミナーの目的ではありません。ただ、今回のセミナーのテーマである「マグニチュード論」は、対象に応じて様々な質を持つ「大きさ」 の共通の数学的構造と表現を探求するものです。これまでの議論のいくつかは、マグニチュード論に関係を持ちます。

少し、議論がわき道に逸れたのですが、今回のセッションでは、カントールの無限集合の基数の理論を紹介したいと思います。

【 カントールの基数論 】

・集合の要素の数をその集合の基数あるいは「濃度」と呼びます。集合Aの基数あるいは濃度を |A| で表します。

・集合Aの要素と,集合Bの要素の間に、「一対一」の対応が成り立つ時、|A| = |B| と定義します。

集合Aが有限個の要素を持つ場合

・前回見たように、順序数nはnより小さい全ての順序数の集合 n = {0, 1, 2, ... , n-1)として定義されます。 ある集合Aの要素と順序数 n = {0, 1, 2, ... , n-1)の要素と の間に「一対一」の対応が成り立つ時、|A| = n とします。

有限集合の場合、その順序数と基数は一致します。

【 無限集合の基数(濃度) 】

全ての自然数の集合をωとします。(これは順序数です)
  ω = {0, 1, 2, 3,... }

この可算無限集合ωの基数(濃度)をℵ_0(アレフゼロ)と呼びます。
  |ω| = ℵ_0

要素の数がℵ_0の集合の、全ての部分集合からなる集合の要素の数は、2^(ℵ_0 )になって
ℵ_0  < 2 ^(ℵ_0 ) になりますので、この操作を繰り返せば、いくらでも大きな基数を作ることができます。
 
無限集合の基数を ℵ_0から始めて大きさで順番に並べて、その系列を、ℵ_0, ℵ_1, ℵ_2, ℵ_3, …とします。この系列の中でℵ_1はℵ_0の次に大きな無限基数だということです。

カントールは、 ℵ_1 = 2^(ℵ_0 ) となるだろうと予想しました。これを「連続体仮説」と言います。

あらためて、順序数の系列と基数の系列をまとめると、次のようになります。

 順序数の系列:  0,1,2,3,…,ω,  𝜔_1, 𝜔_2, 𝜔_3,...  
 基数の系列  : 0,1,2,3,…,ℵ_0,ℵ_1, ℵ_2, ℵ_3,…

有限の場合のみ、順序数と基数は一致しますが、無限集合の場合、二つは一致しません。また前回のセッションで見た順序数は、すべて可算なものでしたが、非可算な順序数も存在します。

【 カントールが無限集合の濃度 について発見したこと 】

カントールは、無限集合の濃度について、さまざまの驚くべき発見を次々に行いました。代表的なものを挙げておきます。

 ● 自然数と有理数の濃度は等しい。
 ● 実数の濃度は、自然数の濃度より大きく非可算である
 ● 平面上の点の濃度は、直線上の点の濃度と等しい

しかし、カントールは、自身が提出した連続体の濃度についての予想「連続体仮説」を証明することはできませんでした。

詳細は、以下のセッションで。


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セミナーのまとめページ

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ショートムービー「無限の個数 – カントールの基数論 」
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