Smellsophy

A. S. Barwich の "Smellosophy" をザッピング。

https://www.amazon.com/Smellosophy-What-Nose-Tells-Mind/dp/0674983696

タイトルは奇妙な造語だが「臭い哲学」とでも訳せばいいのか。副題は「鼻が心に語るもの」。それだけだと、あまり面白そうな本には思えないのだが、とても面白かった。

月末のセミナーに向けて「感覚と情報」というセクションを準備していて、手始めに「五感」(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)のそれぞれの解説をwikiで読み始め、いろいろ調べ始めたのだが、そこで出会った本だ。(ちなみに、「五感」の日本語wikiは「昭和の臭い」がする。)

視覚については、昔はディープラーニングに興味があったので、ちょっと調べたことがある。他の「感覚」についても、それの延長だろうと軽く考えていたのだが、少し、違っていた。まあ、感覚器官の働きを、外界についての情報を生成・エンコードするものと考える点では、一致しているのだが。

冒頭、ほとんどの哲学者たちが、感覚の中で臭覚にはほとんど重きを置いていないことが指摘される。

コンディアック:「すべての感覚のうちで、人間の精神の認識にとって、もっとも貢献していないもの。」

カント:「もっとも不快で、かつ、もっとも無くてもいいように思える感覚器官はどれか? 嗅覚である。」

確かに、知覚と身体性を考察したメルロ=ポンティだって、臭覚については触れていない(と思う。記憶にないというのが正確かな。) 「まなざし」から対自・対他を分析したサルトルだって、「視覚」の抽象化・幻想化だ。それらは「20世紀哲学の臭い」がする。

プルーストの「スワンの家の方に」に、マドレーヌの匂いで記憶が呼び起こされるという一節がある。それについては別に述べる。嗅覚の中枢と記憶の中枢はとなりあっている。それとて、嗅覚と記憶の起源は、同じように古いということを意味しているだけなのかもしれない。

彼女が注目しているのは、匂いのセンサーである 「臭い受容体 olfactory receptors (ORs)」は、より広い「Gタンパク質共役受容体  G-protein-coupled receptors (GPCRs)」の一部であることが同定されたことである。

それによって、嗅覚の研究は、より広いレンジの細胞の信号メカニズムの神経生物学的研究に結びつく。そればかりでなく、膨大な数の化学的刺激に反応する「臭いの受容体 OR」の多様性は、対象と結合して対象を認識するその他の「Gタンパク質共役受容体 (GPCRs)」の働きのより良い理解へと導くだろうという。

物質が物質を認識する最もプリミティブなレベルに、匂いの認識があるのである。これは、正しい認識だと思う。もうすこし、調べてみようと思う。

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