なぜ、歴史を振り返るのか?

【 なぜ、歴史を振り返るのか? 】

このセミナーでは、一方では、ダイクストラらが登場し活躍した、ほぼ60年ぐらい昔の話を紹介しています。同時に、ランポートのTuring賞受賞記念講演をベースに、21世紀の視点から、並列アルゴリズムの "Early Days" を振り返ろうとしています。

なぜ、過去を振り返るのでしょう?
それには、意味があるのでしょうか?
 
少なくともコンピュータのハードウェアに関しては、その過去を振り返ることは、技術史的興味や懐古趣味を別にすれば、あまり意味のあることのようには思えません。多分、60年前のコンピュータのハードウェアから、学べることは少ないと思います。

ただ、ハードウェアの進化・発展のまばゆい後光の奥には暗闇があります。
そこに目を凝らせば、別の様相が見えてきます。

一つには、並列・分散の「古典的」アルゴリズムは、この数十年大きな変化はないまま、多くの人に受け入れているように見えます。ただ、重要なことは、そのことは、こうしたアルゴリズムが「正しい」ものとしてしっかりと基礎付けられていることを意味しません。

もう一つには、もちろん、並列・分散のアルゴリズムを基礎づけようとする着実な試みが、存在することです。残念ながら、こうした取り組みの成果は、多くの人には届いていないように見えます。

こうした認識は「アカデミック」で「実践的」ではないと感じる人も多いでしょう。
でも、それは違うと僕は考えています。

何よりも、現代のコンピュータ・サイエンスを支えてきた最大のバックボーンである現実の世界でのコンピュータ技術の爆発的発展・普及が、新しい理論的枠組みを要求していると考えているからです。

高速化・高密度化するハードウェアのもとで、光の信号でさえ、ワン・クロックでも基板上数十センチしか進みません。こういう時、我々は「同期」の基礎である「同時性」をどのように考えればいいのでしょう?

量子コンピュータのもとでの情報の「不確実性」だけではなく、量子エンタングルメントでの一見すると時空にとらわれない「因果関係」の登場、こうした問題は、情報処理技術の未来に深く結びついています。

あまり、顧みられていない探求の歴史から、学ぶことは多いと考えています。 

-------------------------------------------

セッションの動画のURL
https://youtu.be/wKFThnsIFVQ?list=PLQIrJ0f9gMcOeqlB09PdBddfXLv2QjG-F

スライドのpdf
https://drive.google.com/file/d/14Dk9X3HNCiClnpQ3t683uOrE68eJmDzg/view?usp=sharing

関連blog 「なぜ、歴史を振り返るのか?」https://maruyama097.blogspot.com/2022/07/blog-post_49.html

参考資料

Lamport, L.  The Computer Science of Concurrency: The Early Years
https://cacm.acm.org/magazines/2015/6/187316-turing-lecture-the-computer-science-of-concurrency/fulltext#R9

Lamport, L. The PlusCal algorithm language..
https://lamport.azurewebsites.net/pubs/pluscal.pdf

Leslie Lamport. The pluscal algorithm language. https://research.microsoft.com/users/lamport/tla/pluscal.html

セミナーのまとめページ
https://www.marulabo.net/docs/concurrent/

セミナー告知・申込ページ
https://concurrent.peatix.com/view

-------------------------------------------

コメント

このブログの人気の投稿

マルレク・ネット「エントロピーと情報理論」公開しました。

初めにことばありき

宇宙の終わりと黒色矮星