お盆休みにどうぞ

【 お盆休みにどうぞ 】

最近、「いちばんやさしい〇〇」というタイトルを持つ本が炎上したのですが、その理由は「いちばんやさしい」からではなく、内容がひどかったからだと思います。

「いちばんやさしい」というタイトルが人の眼をひくのでしょうね。ただ、僕は、そこが少し気になっています。「やさしい」ことは、いいことなのでしょうか? だって、世の中には難しい問題が沢山あります。なんでも、やさしく理解できるとは限りません。

「Shorのアルゴリズム」も、そうした理解が難しいものの一つだと思います。

意外に思われる人もいると思いますが、数学や科学の世界の「複雑で難しい概念」は、必ず、「単純でやさしい概念」に分解されるものです。ただ、単純なものから複雑なものを、やさしいものから難しいものを構成してゆくステップは、きちんと順序だって組織されています。その推論の連鎖は、長く長く伸びることがあるのですが、一歩一歩のステップは、本当は「やさしい」ものです。

ですので、難しいものを理解するには時間がかかるのです。わからなくなったら、そこで立ち止まって、また考えればいいのです。ここでも、時間が必要です。理解のスピードに個人差はあっても、理解に必要なステップの数は、皆、同じです。必要なステップを省略して飛び越えることは、誰にもできないのです。

ですから、教育者が、ある数学的概念をその概念を学ぼうとする初学者に説明しようとするとき、大事なことは、理解に必要なステップを「ていねいに」説明することです。

今回のセッションでは、「Shorのアルゴリズム」を実現するのに必要な量子回路の話をしています。

量子コンピューターの世界では、「アルゴリズム」は「量子回路」によって表現されます。もっと強く言えば、「量子アルゴリズム」は「量子回路」を構成して見せることによってしか表現されません。

これは、私たちが普通に見るコンピュータでの「アルゴリズム」とハードウェア「回路」の関係とは大きく異なるものです。以前のセミナーで、僕は、「アルゴリズムとプログラムは違う」という話をしました。普通のコンピューターの世界でのことですが。

このことは、量子コンピューターが、システムとしては、まだまだプリミティブな段階にあることを意味しています。

Shorのアルゴリズムは、概念的には、次のような量子回路から段階的に構成されています。(正確なたとえではありません。)

 ● 任意のf(x)を計算する量子回路  ● 可能なすべての基底の等しい重ね合わせを作る回路  ● Quantum Parallelism 回路  ● Simonの問題を解く回路  ● 量子フーリエ変換 QFT 回路  ● 周期を求める Phase Estimator回路

先に挙げた回路の方が単純で、後に挙げた回路の方が複雑になっています。最初に挙げた「任意のf(x)を計算する量子回路」の構成が理解できないと、残りの回路の働きも理解できないでしょう。最後のPhase Estimator が、 普通のコンピューターから量子コンピューターに下請けに出された「ある数の周期をもとめる」という課題を実行する回路です。

今回のセッションは、Shorのアルゴリズムで必要とされる回路を列挙したものです。残念ながら、決して「ていねい」な説明ではありません。もちろん、セッションの20分でShorのアルゴリズムで必要とされる回路をすべて説明するのは無理なのですが。

もう少し弁解させてください。

以前、「Shorのアルゴリズム入門」というセミナーを開催しました。https://www.marulabo.net/docs/shor/

このセミナーのコンテンツは、上に挙げたShorのアルゴリズムで必要とされる回路を、一つづつ「ていねい」に説明したものです。Shorのアルゴリズムに関して言えば、日本語ではもっとも「ていねい」な説明の一つだと考えています。

お盆休みにでも、Shorのアルゴリズム、ぜひ学んでください。
(念の為。Shorは、存命しています。)


動画 「Shorのアルゴリズムの発見 −− 量子回路で「周期」を発見する」を公開しました。 

https://youtu.be/7ge7fY4OWO0?list=PLQIrJ0f9gMcMOiLc6py4lKrk3xAG_g0FH



この動画のスライドのpdf

https://drive.google.com/file/d/11s779t7en091AO7CTgQb1Lm1DeffHtHE/view?usp=sharing

関連blog 「お盆休みにどうぞ」  https://maruyama097.blogspot.com/2022/08/blog-post_14.htm

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このセミナー「ポスト量子暗号技術の現在」のまとめページ

https://www.marulabo.net/docs/cipher2/ このセミナーへのお申し込みはこちらから

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MaruLabo 関連ページ

「Shorのアルゴリズム入門」 https://www.marulabo.net/docs/shor/ 

「量子アルゴリズム入門 -- 量子フーリエ変換を学ぶ」 https://www.marulabo.net/docs/20181102-marulec04/

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