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マルレク「マグニチュードとは何か」へのお誘い

【 マルレク「マグニチュードとは何か」へのお誘い 】 今週末の9/27開催のマルレクへのお誘いです。 セミナーの申し込みページ作成しました。お申し込みお待ちしています。 https://magnitude1.peatix.com/view 今月のマルレクは、「マグニチュードとは何か」というテーマで開催します。 「マグニチュード」  -- 地震の規模の大きさを示す尺度としては、日常的に使われている言葉です。今回は、地震には関係のない話です。ただ、「マグニチュード」が「大きさ」を表すという点では、話はつながっています。 今回のセミナーのテーマの「マグニチュード」論というのは、「大きさ」について考える新しい数学理論です。 【 「大きさ」を対象にした数学 】 私たちの周りには、「大きさ」を持つものが、たくさん存在しています。マグニチュード論が対象として考えようとしているのは、こうしたものの「大きさ」です。 身長・体重・子供の数・収入・コロナワクチンを打った回数の「大きさ」の意味は明確です。一方、「幸せ」や「美しさ」や「正しさ」の「大きさ」は、数字で表現することはできず、比喩的にしか語れません。 数学的な「大きさ」とは、まずは、「数えることや測ることで与えられる数字で表現される量」と考えていいと思います。 ただ、これだけでは数学の対象としては当たり前すぎて、あまり深みのある数学が生まれそうにはなさそうです。 【 5分で振り返る「大きさ」の数学史 】 ただ、それは量や空間を扱う数学が多様に発展している、現代の数学観を無意識のうち反映しているのかもしれません。 数学の歴史を振り返ってみると、その飛躍の節々で、「大きさ」についての意識が変化・発展してきていることがわかります。  ・数学的認識が人類に生まれた40,00年ほど前は、その主要な関心は、共同体の人口や耕地の面積など、具体的に数え測ることができる大きさを持つものでした。  ・紀元前3世紀のユークリッドは、幾何学的な点を「大きさを持たない」ものとして定義しました。  ・数としてのゼロの導入は、4世紀のインドだと言われています。だいぶ後のことです。  ・17世紀後半のニュートンやライプニッツの微積分学は、「無限に小さな大きさ」を考えることで可能になりました。  ・18世紀のオイラーは、形や大きさによらず「変わらない大きさ...

類似度行列とマグニチュード論

【 類似度行列とマグニチュード論 】 前回のセッションで、次のレンスターの生物多様性の定義の式を、その三つのパラメータ 確率分布pとq-パラメータと類似度行列Zに注目して読み始めました。 ただ、前回は pとq の話で終わっていました。前回は、基本的には、これまで提案されたさまざまな「多様性の指標」を、qを変化させることで、一つの式でカバーできるのことを見てきました。 レンスターが先の形での生物多様性の定義を初めて提案したのは、 “Measuring diversity: the importance of species similarity” というタイトルの論文ででした。 https://www.pure.ed.ac.uk/ws/portalfiles/portal/16566744/Measuring_diversity_the_importance_of_species_similarity.pd レンスターの生物多様性の定義のポイントは、種の類似度の重要性への注目です。それは、生物多様性の定義への類似度行列Zの導入として表現されています。 今回のセッションでは、まず、この類似度行列Zが、生物多様性の議論の中で、すなわち、生態学の文脈では、どのように定義できるのかを、具体的な例で見ていきたいと思います。 今回のセッションでは、レンスターの生物多様性の定義式が、類似度行列Zを用いてどのように導出されるのかを基本的な流れを紹介しようと思います。 また、今回のセッションでは、こうして導出されたレンスターの生物多様性の式が、どのような性質を持つのかを紹介していきます。 【 生物多様性の理論とマグニチュード論を結びつけるもの 】 重要なことは、レンスターの生物多様性の理論と彼のマグニチュード論を結びつけるものが、この生物多様性論への類似度行列Zの導入だと考えられることです。 レンスターのマグニチュード論の最初の論文は、2006年の ”The Euler characteristic of a category” https://arxiv.org/pdf/math/0610260  です。 今回のセミナーでも、オイラー標数の紹介をしてきました。そのすぐあとでレンスターのこの2006年の論文を紹介しても良かったのですが(そう予告もしていました)、少し回り道をしています...

レンスターの「多様性」の定義を読む

【 レンスターの「多様性」の定義を読む 】 このセッションでは、レンスターの「生物多様性」の定義の式を、少し詳しくみてみようと思います。 といっても、レンスターの次「多様性」の定義は複雑ですね。 どこから見ていけばいいのでしょう? 【 三つのパラメータ pとZとq 】 この式は、n 種の種が存在する環境の「生物多様性」を表すものです。この式には三つのパラメータ pとZとqが登場します。   pは、n 種の種が、個体数で見てどのような割合で存在しているかを表す「確率分布」です。 環境中の n 種の種を{1, . . . , 𝑛}と自然数で表すと、確率分布 p は次のように表せます。   p = ( p1, p2, ... , pn )    pi >= 0,    p1 + p2 + ... + pn =1 確率分布 pが与えられた時、Shannon エントロピー Hは、次の式で定義されます。(テキストでは、式がうまく表現できないことがあるので、pdf あるいは ビデオをご覧ください。)   H = Σ pi log(1/pi ) Shannonのエントロピーには、確率分布 p 以外の余分なパラメータはありません。どんな確率分布 pも、一意にShannonエントロピーを決定します。 【 Tsallis エントロピー 𝑆_𝑞 −− パラメータ qによるShannonエントロピーの拡大 】 Shannonエントロピーの定義中の log⁡ をq-対数 ln_𝑞⁡ (qを底にする自然対数)に置き換えたものを、 Tsallis エントロピー とよび、𝑺_𝒒と表します。   S_q = Σ pi ln_q (1/pi ) Tsallis エントロピーでは、確率分布 p に加えて、q が新しいパラメータとして追加されています。パラメータが一つ増えたことを除けば、両者の定義の形は、よく似ています。 【 q-パラメータの導入による エントロピー概念の拡大 】 レンスターは、このエントロピーはTsallisが発見者というより、いろんな分野で何度も繰り返し発見・再発見されているので、 ‘q-logarithmic entropy’ (q-対数エントロピー)と呼ぶのがいいのではという提案をしています。  レンスターの多様性の定義式の中に現...

「生物多様性」の「大きさ」を考える

【 「生物多様性」の「大きさ」を考える 】 これまで、集合の「大きさ」としてのカントールの基数 ( cardinality )や、図形の「変わらぬ大きさ」としてのオイラーの標数 ( Euler characteristic )を見てきました。  我々の認識の対象となるものには、何らかの形で「大きさ」の概念を持つものが、少なくありません。 このセッションでは、集合や図形とはちょっと異なる対象の「大きさ」を考えてみようと思います。 このセッションで扱うのは、「生物多様性」の「大きさ」についてです。 【 「生物多様性」の議論とマグニチュード論と Tom Leinster 】 前回のセッションで、 「次回のセッションから、こうしたアイデアを受け継いだ、Leinsterの「Magnitude論」の紹介に入りたいと思っています。」と書いたのですが、実は、マグニチュード論と「生物多様性」の議論とは、深い結びつきがあります。 マグニチュード論を始めたレンスターは、もちろん数学者ですが、「生物多様性」の問題への関心を強く持っていました。 そして、レンスターは、後で見るように、「生物多様性」の数学的理論の構築で画期的な成果を収めました。彼のマグニチュード論は、こうした彼の問題意識と研究成果の発展として捉えることができます。 今回のセッションでは、まず彼の「生物多様性」の「大きさ」の議論を振り返ってみようと思います。今回は途中までですが。 基本的に依拠したのは、2015年のTom LeinsterとMark W. Meckesの次の共著論文です。スライドは、基本的にこの論文からの引用で構成されています。生態学の論文として書かれているので、数学論文よりわかりやすいところがあると考えています。 Maximizing diversity in biology and beyond https://arxiv.org/pdf/1512.06314 【 「生物多様性」の「大きさ」を考える 】 次のような問題を考えてみてください。問題は、簡単で「どちらの環境の方が、「生物多様性が大きいと思いますか?」というものです。  ● 環境Aには、4種の鳥が住んでいます。環境Bには、3種の鳥しか住んでいません。ただし、環境Aでは一種類の鳥が個体数では圧倒的に多いのに対して、環境Bでは3種の鳥が...

「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する

【 「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 】 このセッションでは、オイラー標数についてのシャニュエルの議論を直感的な図解で振り返ろうと思います。 直感的に理解するというのは、数学的な厳密さは欠けているところがあるにせよ、何らかの数学的真実を理解する上で、大事なことだと考えています。 ここでは、ある図形の「大きさ」として、オイラーの標数を捉えるという次のようなシャニュエルのアイデアが大きな役割を果たしています。   「位相との無関係性を強調し、多面体のオイラー特性を有限加法的測度として扱う」 いくつか新しい図を加えました。ドーナツ状の物体の「大きさ」が、ゼロになってしまうというのは、直感に反するかもしれませんが。 線分の両端の端点は点だけれども、無視できない「大きさ」を持つのだというシャニュエルの議論を、是非お楽しみください。 次回のセッションから、こうしたアイデアを受け継いだ、Leinsterの「Magnitude論」の紹介に入りたいと思っています。 −−−--−−−−−−−−−-------−−−−− blog 「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 」 https://maruyama097.blogspot.com/2025/09/blog-post_14.html スライド「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する 」のpdf ファイル https://drive.google.com/file/d/1ZfXfBgZLFPiVI1Q06dXYdRQiwGlbz8Tv/view?usp=sharing セミナーのまとめページ https://www.marulabo.net/docs/magnitude/ セミナーに向けたショートムービーの再生リスト https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcPmPimhgAIUUh98fyLSM6iB ショートムービー「「大きさ」と「オイラーの標数」を図解する」 https://youtu.be/avp_4gtvOSg ?list=PLQIrJ0f9gMcPmPimhgAIUUh98fyLSM6iB

オイラーの標数の「式の形」を考える

【 オイラーの標数の「式の形」を考える 】 このセッションでは、オイラーがオイラーの標数の式をどのように導いたかを考えてみようと思います。 もっとも、この件についてオイラーが考えたことの何か歴史的資料が残されているわけではなさそうです。(僕が知らないだけかもしれませんが) ここでは、残されたオイラーの標数の「式の形」から、オイラーが考えたことを考えていきたいと思います。 【 ふたたび、オイラーが数えたものについて 】 基本的には、オイラーが数えたものを考えてみましょう。 集合{X}の要素の数を数えた時、その数を#{X}で表すことにしましょう。   Aのオイラーの標数    = #{Aの頂点の集合} ー #{Aの辺の集合} + #{Aの面の集合} オイラーが示したことは、この三種類の数え上げの結果を組み合わせると(足し算と引き算が交互に登場するので、「交代和」と言います)「変わらない大きさ」が得られるということです。 何度見ても、素晴らしい発見ですね。 ただ、不思議な発見だと思います。 【 なぜ、「三つの集合」なのか? 】 今度は、なぜ、{Aの頂点の集合} と{Aの辺の集合} と{Aの面の集合}という三つの集合に注目したのかを考えてみましょう。 これには、答えることができるかもしれません。 オイラーが見ていたのは、3次元の多面体Aです。  {Aの頂点の集合} は、0次元の形を持つAの部分集合です。  {Aの辺の集合}   は、1次元の形を持つAの部分集合です。  {Aの面の集合}    は、2次元の形を持つAの部分集合です。 3次元の対象であるA自身を除いて、Aに属する任意の部分集合は、すべて0次元か、1次元か、2次元の次元を持ちます。 カントールなら、3次元の対象も基本的には0次元の点の集まりとして考えたかもしれません。そこが、カントールとオイラーのアプローチの違いです。そのことについては、後で振り返ります。 多面体を構成する部分集合の{頂点、辺、面}という三つの集合へのオイラーの分類は、多面体の三つの集合たちによる自然な「分割」を提供していることに注目してください。 ( 「「頂点」の集合は、「辺」の集合としても、「面」の集合としても、二重、三重にカウントされている」というツッコミは、ここでは忘れましょう。) 【 「同じ形」=「同じ次元」...

「形」を数える – オイラーの「標数」

【 「形」を数える – オイラーの「標数」 】 このセッションでは、図形の「大きさ」に関係した量として、「オイラーの標数(Euler characteristic)」を紹介しようと思います。 【 3次元の多面体の頂点と辺と面の数 】 オイラーは、3次元の空間上の図形を構成する基本的な要素として、「点」と「線」と「面」に注目します。 彼は、点(頂点)と線(辺)と面から構成される3次元の(凸な)多面体について、頂点の数を v 、辺の数を e 、面の数を f とすると、 次の関係が成り立つことに気づきました。   𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 この 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 を(凸)多面体の「オイラー標数」と言います。 スライドでは、「プラトンの正多面体」について、この関係が成り立つこと確かめています。ご自身でも、確認ください。 【 凸集合(convex set) 】 物体が凸(とつ、英: convex)であるとは、その物体に含まれる任意の二点に対し、それら二点を結ぶ線分上の任意の点がまたその物体に含まれることを言います。 先に見た、𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 を満たす多面体は、全て、凸集合です。 【 convex hull (凸包) 】 convex hull は、与えられた集合を含む最小の凸集合です。 X がユークリッド平面内の有界な点集合のとき、そのconvex hullは直観的には X を輪ゴムで囲んだときに輪ゴムが作る図形と考えていいです。 【 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2 とサッカーボール 】 サッカーボールの表面は、5角形と6角形で構成されています。5角形の数をP、6角形の数をHとすると、次の式が成り立ちます。   𝑓 = 𝑃 + 𝐻   𝑒 = ( 5𝑃 + 6𝐻 )/2   𝑣 = ( 5𝑃 + 6𝐻 )/3 この式を、オイラーの式 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 = 2  に代入すると、Pの項が消えて、H = 12 がわかります。 どんなサッカーボールにも、6角形は必ず、12個あります。 【 オイラーの標数 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 は変わらない「大きさ」 】 オイラーの標数 𝑣 − 𝑒 + 𝑓 は、どんな「大きさ」なのかを考えてみましょう。確かにそれはある自然数ですので「大きさ」を持ちます。 ただ、...

無限の個数 – カントールの基数論

【 無限の個数 – カントールの基数論 】 カントールの集合論では、無限の系列が二種類登場します。一つは、「順序数」と呼ばれるもので、もう一つは、「基数」と呼ばれるものです。順序数は対象を「順番に数える」ことに対応し、基数は対象の「個数」に対応します。 ただ、この順序数と基数の区別は、カントールの集合論で初めて導入されたわけではありません。この区別は、英語等の印欧語では、ごく普通の日常的な区別です。 英文法の授業で、次のようなこと習いませんでしたか? first, second, third , ... といった順序を表す数詞を「序数」と呼び、one, two, three, ... といった数量を表す数詞を「基数」と呼び、両者は、異なる系列に属すると。  英文法では、 順序を表す first, second, third , ...  といった序数詞の文法範疇を ordinal numeral といい、数量を表す one, two, three, ... といった基数詞の文法範疇を cardinal numeral と言います。文法用語なのでラテン語が入っているのですが、普通の英語に訳すと、それぞれ ordinal number, cardinal numberになります。 これは、カントールの「順序数 = ordinal number」、「基数 = cardinal number」という用語と全く同じものです。 カントールの順序数と基数の区別は、何も特別なものではなく。印欧語の世界では、ごく普通の日常的区別なのです。 【   日本語の場合 】 なぜそんなことを言うかというと、日本語の場合(多分、東アジア系の言語の場合)、序数詞と基数詞の区別は、それほど明確でないからです。 その代わり、以前にも紹介しましたが、日本語には「助数詞」という数詞の後ろについて数詞の表す数字の性質を説明する特別なことばがあります。 例えば、「3人」、「2枚」、「1本」の、「人」「枚」「本」は助数詞で、 「3人」の3は「人間」の数であること、「2枚」の2は「平たいもの」の数であること、「1本」の1は「まっすぐな、あるいは線状のもの」の数であることを表します。 日本語では、この助数詞の助けによって、「序数」と「基数」の区別以上の数の区別が行なわれていると...