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AIの遠い未来 「12のシナリオ」by Tegmark

Tegmarkの"Life 3.0"をザッピングして、少し嫌になる。Huluで「パーソン・オブ・インタレスト」の残りを見た方がよかったかも。 今世紀中に、大きなAI技術の飛躍が起きるというところは、同意。また、自分は、"Digital Utopian"ではなく、著者と同じく、現時点では、"Beneficial AI Movement"の立場に立つことでも同意。 ただ、その先が良くない。 "CHAPTER 5 Aftermath: The Next 10,000 Years" 10個以上の、Next 10,000 yearsのシナリオが示されている。 そんな先まで、議論しようというのがおかしい。もちろん、何を想像するのも何を問題提起するのも自由なのだが。ただ、SF作家の想像力の方が、よほど魅力的かもしれない。 こんな未来像を煽っていたら、現実的には、4番の「人間Gatekeeper」版が、今のうちに必要だということに落ち着くだけだと思う。 最初の三つは、現在の社会・経済思想を、一万年後に投影したものでしかない。縄文人に、「オープンソース」や「ビット・コイン」を想像させるのは、難しい。 神についてのシナリオでは、歴史的には機械の「創造主」は人間に他ならないのだから、「機械の神に人間がなる」(きっと偶像は、ビル・ゲイツかスティーブ・ジョブスになるのかも)というシナリオがないのが残念。(Descendants の派生系だが) 個人的には、もちろん、想像の世界での話だが、8番のDescendants が好き。ただ、きわめて現実的には、12番のSelf-destruction が、一番ありそうなシナリオに思えるのが悲しい。 彼があげている、12のシナリオを訳して見た。 ------------------------ 1. Libertarian utopia (リバタリアンのユートピア) 人間、サイボーグ、アップロード、スーパー・インテリジェントAIは、財産権を保証することで平和的に共存する。 2. Benevolent dictator (情深い独裁者) AIが社会を運営する上で厳格なルールを強制することは誰もが知っている。ほとんどの人間はこれ

Tegmarkの"Life 3.0"

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Tegmarkの"Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence" AI関連のアメリカのベストセラー。 Life 3.0 というのは、生命の誕生が Life 1.0、文化の誕生が Life 2.0、テクノロジーの誕生が、Life 3.0 だというもの。(図2)Life 3.0 への変化を、AI技術の登場をフューチャーすることで説明するのが、この本の特徴だと思う。 Life 2.0のメルクマールは「言語能力の獲得」だと思った方がいいと思う。また、Life 3.0 を特徴付けるテクノロジーの世界の始まりは、AIの登場ではなく、産業革命だと僕は考えている。(図3 John Baezから。  http://math.ucr.edu/home/baez/week301.html  ) もちろん、現在の社会が永遠に続くわけではないだろう。重要な飛躍は、いつか必ず起きるのだとはおもう。僕は、AI技術に限れば、機械による言語能力と数学的・科学的能力の獲得が、大きな転換点になると考えているのだが。 書中に「オメガ」社という架空の会社が出て来るが、これは「アルファベット」のGoogleのことだろう。オメガ社は、「プロメテウス」というスーパー・マシンでAIを利用して、ビジネス的に大成功を収めるのだが、「パンドラの箱」というより強力なマシンを、秘蔵している。 彼によれば、Googleのラリー・ページは、"Digital Utopian" で、Teslaのイーロン・マスクは、"Beneficial AI Movement"の立場に立つとされる。 テグマークは、イーロン・マスクから一千万ドルの寄付を受け、"Future of Life"という財団を、奥さんと一緒に設立している。 https://futureoflife.org/ この本は、この財団設立の経緯と背景を述べたものでもある。ラリー・ページやイーロン・マスクらとの直接の会話がベースになっているのが面白い。 テグマークの"Our Mathematical Universe"を読んでいたら(Audibleだが)

年内最後のセミナー終わる

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昨日は、「紙と鉛筆」とは対照的な「スマート」なスタイルでハンズオン。 これで、年内最後のセミナー終わる。あと少しで冬休み。

「量子コンピュータとは何か?」 -- マルレク・ネットのビデオ公開

11月30日のマルレク「量子コンピュータとは何か?」の収録ビデオ公開しました。ご利用ください。 https://crash.academy/class/189 また、次回マルレク 1/15「ボイス・アシスタントから見るAIの未来」の告知ページ公開しました。 https://peatix.com/event/333453/ 先行受付開始は、1月2日 12:00からです。(正月真っ最中ですね。よろしくお願いします。) ---------- 関連資料 ---------- 11/30マルレク「量子コンピュータとは何か?」講演資料 https://goo.gl/muA5TU 12/9 「量子情報理論基礎演習 I」講演資料 https://goo.gl/8PWsWh 12/9 「量子情報理論基礎演習 I」解答編+「ketのレシピ」 https://goo.gl/Uib1PV

1/15マルレク「ボイス・アシスタントから見るAIの未来」

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告知ページ: https://peatix.com/event/333453/ 講演概要: 2018年は、コンシューマの世界で、Amazon Echo, Google Home 等の「ボイス・アシスタント」の本格的でグローバルな普及が始まった年として、歴史に残る年になると思います。 丸山は、コンシューマ向けの初めてのAIアプライアンスとしてのボイス・アシスタントの普及は、AIの未来を展望する上で、とても重要なステップになるだろうと考えています。 そのことは、現在のボイス・アシスタント技術が完成したAI技術であることを、少しも意味しません。現状は、むしろ、その逆です。 ただ、コンシューマ市場での激しい競争が、現在の技術のいくつかの問題の解決に向けた進化の、大きな淘汰圧として作用するだろうことを期待しています。 講演では、前半で、Amazon Echo, Google Homeの特徴を、そのAPIを通じて概観します。 後半では、ポスト・ディープラーニングのAI技術の主要な課題である、「知識表現とその利用」「言語の意味理解」の二つにフォーカスして、現状と課題を考えます。 AI技術は、2012年から始まったディープ・ラーニング中心の時期を超えて、新しい発展段階に突入しようとしています。この変化の中心的な担い手が、ボイス・アシスタントです。ボイス・アシスタント技術は、AIが向かう未来のパーソナル・アシスタンス・システムの先駆として、これからも、AI技術の中核として発展していくと考えています。   ------------------------ 1/15 マルレク開催概要 ------------------------ 日時:2018年1月15日 19:00-21:00 場所:日本マイクロソフト本社(品川) テーマ:「ボイス・アシスタントから見るAIの未来」 年末・年始の休日をはさんでおりますので、申し込みの期間設定、いつもと異なります。後日、詳細をお伝えします。

女性ハッカーは存在するか?

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第二次大戦中、イギリスではチューリングが、アメリカではファインマンが、暗号解読の仕事をしていたことはよく知られている。多分、当時最強のハッカーの双璧だったと思う。 話は変わるが、ドラマの世界では、「パーソン・オブ・インタレスト」のルートや、「エージェント・オブ・シールド」のスカイや、「アロー」のフェリシィ といった、美人の女性ハッカーが大活躍する。 「本当に、すご腕の女性ハッカーというのは存在するのか?」 という疑問が、僕のこの間の「知りたいこと」リストのかなり上位にランクインしていたのだが、なんか、その答えがわかったような気がする。 答えは、イエスで、しかも、沢山存在していたのだ! Liza Mundyの"Code Girl"   https://goo.gl/pxZUMF   は、第二次大戦中に、アメリカは、ワシントン郊外に数千人の優秀な女性を集めて、暗号解読の仕事に従事させていたことを、初めて明らかにした。(Kindle版、ポチった。) この本の副題、「The Untold Story of the American Women Code Breakers of World War II 」にあるように、この事実は、今まで、アメリカでも知られてなかったようだ。 兄弟や恋人が戦場で武器を取って戦っている時に、彼女たちは、暗号解読を通じて、戦争の勝利に貢献したということ。その中には、人並み外れて、優れた才能を発揮した女性もいた。 冒頭、日本軍の真珠湾攻撃の状況を知らせる手紙が引用されている。彼女らの仕事が、日本の暗号解読にも向けられていたことを知り、少し、複雑な気持ちになる。チューリングがナチスのEnigmaを破った話には、喝采したのにね。

Quantum Simulator ; Monroe and Lukin

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11月29日付のNature誌に量子コンピュータに関係する二つの論文が掲載されている。Natureこの記事は有料でしか読めないのだが、二つの論文のpreprintは、arXivで読める。 それぞれ、53-51 qubitのシステムを実現している! Monroe et al . "Observation of a Many-Body Dynamical Phase Transition with a 53-Qubit Quantum Simulator"  https://goo.gl/tYckTp Lukin et al. "Probing many-body dynamics on a 51-atom quantum simulator"  https://goo.gl/YdCSGi Monroeは、Maryland大の人で、今は、IonQというベンチャーを立ち上げている。Lunkinらの論文は、Harvard/MIT/CalTechの共同研究。 Monroe/Lukin 両者ともに、qubitの実装にはイオン・トラップを使っている。GoogleやIBMといったIT業界の巨人達は、超電導を使って(D-Waveもそうだ)qubitの実装をしているのだが、アカデミー勢の動きは対照的だ。 「紙と鉛筆」では、もちろんqubitの実装はできないのだが、光格子を使ったトラッピングは、超電導回路を集積させるより、安価にできると思う。日本の大学の研究室でも、予算に恵まれれば可能な実験である。(「スーパー・コンピュータ」に対する文科省の支援より、一桁安くても可能だと思う。) アカデミー系の両者のシステムが、同じ "Quantum Simulator" で、同じ「多体問題」のシミュレーションをしているのも、要注目だ。それは、「量子ゲート」型でも、「量子アニーリング」型のいずれでもない。 ただ、それは、量子コンピュータを展望した最初の論文、ファインマンの"Simulating physics with computers"のビジョンに、忠実に従ったものである。物理学者を含む多くの人が納得する形での「量子優越性」の証明は、「暗号解読」でも「ディープラーニング」でもなく、