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10月, 2017の投稿を表示しています

反省

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MSさんの社内勉強会で講演をしたので、  平野 さんから銀座でおごってもらいました。  佐藤 直生 さんも一緒です。 食事美味しかったし、二人とも、昔からの友人なのですが、講演料請求しなかったのは、よくなかったと反省しています。

Vladimir Voevodsky の死を悼む

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現代の数学者で、僕が一番注目していたVladimir Voevodsky が、動脈瘤で亡くなった。まだ、51歳だ。John Baezのblogで知った。 https://goo.gl/YhnkBK 幻覚・幻聴といった狂気に苦しんだ天才だ。 In 2006-2007 a lot of external and internal events happened to me, after which my point of view on the questions of the “supernatural” changed significantly. What happened to me during these years, perhaps, can be compared most closely to what happened to Karl Jung in 1913-14. Jung called it “confrontation with the unconscious”. I do not know what to call it,  but I can describe it in a few words. Remaining more or less normal, apart from the fact that I was trying to discuss what was happening to me with people whom I should not have discussed it with, I had in a few months acquired a very considerable experience of visions, voices, periods when parts of my body did not obey me, and a lot of incredible accidents. The most intense period was in mid-April 2007 when I spent 9 days (7 of them in the Mormon capital of Salt Lake City), never falling asleep for all the

訃報

大学時代親しくしていた友人のT君が、9月はじめに亡くなっていた。「行方不明」の僕を、大学時代の共通の友人S君がネットで探しだして教えてくれた。 懐かしいので会おうということになっったら、当時の友人をさそってくれて、4人で新宿で飲む。40年ぶりかな。昔話、楽しかった。 僕は、自分がいた大学の大学院に行かなかったし、その後、東京から遠く離れたところに行ったので、確かに「行方不明」と思われても仕方がないところもある。僕から見れば、皆が行方不明になったと言ってもいいのだが。 デービッド・ドイッチェの"The Beginning of Infinity"を読んでいた。彼のことは、彼が量子コンピュータで有名になる前から知っていた。我々が目の前に見る宇宙と並行して、それと少しだけ違う宇宙が無数に存在する多元宇宙論(Multiverse)を唱える、ちょっとマッドな科学者として。 でも、この本の彼の語り口は、奇矯なところはあまりなく、存外、優しいものだった。彼も、歳をとったのかもしれない。 帰りの車の中で、駅に向かうたくさんの人の群れを見て、それぞれの人の心の宇宙には、僕のいない宇宙があっても、何の不思議もないと感じた。多元宇宙論の、主観主義的な間違った解釈なのだが。 同時に、1930年代に吉野源三郎が書いた「コペル君」の話も思い出した。みんなバラバラに見えるが、みんな繋がっているという話だ。 宇宙の謎は深いのだが、僕らの心も、複雑なものだ。 T君の冥福を祈る。

Google DialogFlow

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おとついの10月10日(事実上は昨日だ)に、Google AssistantのAPIが名前ごと変わっていることに気づく。"Introducing Dialogflow, the new name for API.AI "  https://goo.gl/8QBMU3 なんと、IntentにEntityのパラメータをつけて飛ばすというAmazonのAlexaのAPIの構造を全面的に受け入れている! なんてこった。Alexaの影響が、Google Assistantにまで及ぶとは。 7月19日にでたばかりのGoogle Assistant SDK, The developer preview (0.0.3)  https://developers.google.com/assistant/sdk/  の悪口で終わっていた、明日のABCでの講演資料に、新しいDialogFlowの話を追加する。 あぶない、あぶない。気づいてよかった。 開発者にとっては、ボイス・アシスタントのプログラミング・モデルが、事実上、Intent/Entityモデルに統一されるのは、いいことだと思う。 Fulfillmentというのは、AlexaのSkillのことだと思っていい。(どうせなら、ここもSkillに変えてもらったほうがよかったのに。)<- 松岡さんのコメント正しいかも。

ABC 2017 Autumn 「はじめてのボイス・アシスタント」

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家電量販店の店頭に、Google Homeが平積みで売られているの見て、ちょっとびっくりしました。アメリカで大ヒットしたAmazon Echo/Alexa の年内日本発売も正式発表されましたね。 ボイス・アシスタントは、我々に最も近いところにあるAI技術になろうとしています。 あさっての10月14日土曜日、日本Android の会のイベントABC 2017 で、AIとボイス・アシスタントについて話します。興味のある方いらしてください。 http://abc.android-group.jp/2017a/ 11月14日には、角川さんでもボイス・アシスタントの話をすることになりました。9月12日にやったセミナーの再演です。そのうち、告知があると思います。こちらにもどうぞ。

次回マルレクは、11月30日、IBMさんで開催です

テーマは、「量子コンピュータとは何か?」です。 量子コンピュータをよく知らない初心者を対象とした概論です。ご期待ください。開催のAgendaは、後日に送ります。 可能であれば、「量子力学基礎ハンズオン -- 量子コンピュータを理解するのための量子力学入門6時間集中講座 --」というのも、マルレクとは別企画でやりたいと思っています。 こちらは、もう少し詳しく量子コンピュータのことを知りたい人向けの量子力学の基礎入門講座です。高校生でもわかるものにしたいと思っています。 丸山、量子コンピュータを持っていませんので、「ハンズオン」といっても、紙と鉛筆で手を動かしてもらおうと思っているんですが。あっ、頭も動かしてもらいます。 もっとも、「そんなんで、集客できるの?」という声もありますので、開催は確定ではないんです。

紙と鉛筆持ってきて。消しゴムもあればいいかも。

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物理学者のCarlo Rovelliの本が出ていた。 "Reality is Not What it Seems" 「現実は、そう見えるものではない」 そのまんまのタイトルだ。ミクロな量子やマクロな「時空」の世界には、我々の感覚やそれに基づいた直観は通用しない。 それが全くの別世界なら、その「ずれ」は気にしなくてもいいのだが。ただ、我々が目にする日常的現実は、最終的には、そうした「そう見えるものではない」原理にしたがって動いている。 「最終的にはそうだとしても、それは学問の世界の問題。日常的な我々の生活には、関係ないね。」 と言い切れたらいいのだが、そうではないことは、皆が持っているスマホを見ればわかる。 スマホの心臓部の半導体チップは、我々の直観に優しいニュートン力学にしたがって動作しているわけではない。それは、電子の量子論的振る舞いに基づいて設計・製造されている。 皆がよく使う地図アプリに利用されるGPSもそうだ。静止している時計と運動している時計では、時間の進み方が違うと言うアインシュタインの驚くべき発見は、GPSソフトでは当たり前の前提になっている。 IT技術は、我々の日常の生活とビジネスの世界を大きく変えた。それは、経済や社会的な関係性を、これからも大きく変えていくだろう。 ただ、IT技術を別の目で見ることもできる。 レーザー干渉計での重力波の検出も、cryo電子顕微鏡を使ったタンパク質の構造解析も、コンピュータなしでは実現できないことだ。紙と鉛筆で計算するしかなかったら、こうした「新しい感覚器官」のアイデアさえ生まれなかったろう。 IT技術は、我々に与えられた生物学的な感覚の延長では感ずることのできなかった自然の隠れた側面を、我々の感覚でも理解可能な形で露わにし、そればかりか、さらにそれを日常の生活に利用することを可能にしていくのだ。 直感に反するものを理解するには、数学の助けが必要だといってきたのだが、それはそうとして、現在の技術でうまく工夫すれば、量子論の不思議な世界を、わかりやすい目に見える形で示せるのかもしれない。 そう思っていたら、最近、面白いものを見つけた。これ欲しい。お金がないのを忘れて、一瞬、ポチりかけた。(個人で買うには、高いんだな。) 「量子消しゴム実習キット

黒電話

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昨日は、数学者の吉田輝義さんを訪ねて、湯河原に一泊。温泉宿で、懐かしい黒電話発見。

「紙と鉛筆持ってきて」

先のポストでも述べたように、我々の直観に反する量子の世界の運動を理解するためには、数学的アプローチが欠かせないのだが、その数学 -- 例えば、場の量子論の数学は、結構難しい。 ただ、量子コンピュータの基礎を理解するためには、量子力学全体の理解が必要なわけではなく、量子力学の基礎の知識が必要なだけだ。その数学は結構易しい。これは、大事なポイントだ。それは、ベクトルと行列の数学を、「ちょっと」拡大したものだ。 基礎として学ぶべきことは、何十年も前に、フォン・ノイマンが定式化している。ディラックのBra-Ket記法は、量子力学の基礎の数学を見通しの良いものにする、素晴らしいアイデアである。Ket記法がわからないと、量子コンピュータは入り口でつまづいてしまう。 もちろん、僕は物理の専門家ではないので、難しいことは教えられないのだが、ここまでだったら、教えられそうなきがする。 で、今考えていることは、マルレクで、量子コンピュータのオーバービューをしたいとは思っているのだが、それとは別に、「量子コンピュータのための量子力学の基礎入門」みたいな講義ができればいいなと考えている。一日コースで。 「紙と鉛筆持ってきて」 イメージは、こうだ。 最初の時間、具体的な数値で、列ベクトルと行ベクトルの和やスカラー倍、そしてその内積、行列とベクトルの積の計算をしてもらう。(だから、行列の計算がわからない人も、受講しても大丈夫) それから、複素数の共役、行列の転置を導入して、また、計算。(ただし、具体的な数値で) 今度は、Ket記法を、具体的な、列ベクトル・行ベクトルの略記法として教えて、また計算してもらう。 まるで、「公文式」だ。 そうだ、僕らは、こういうの「ハンズオン」というんだ。 そのあとで、普通の量子力学の形式的な講義をする。 状態と観察量の区別。エルミート演算子としての観察量、観察される値はその固有値であること。またその確率はどう与えられるのか等々。 ただ、一日に詰め込むのは、このあたりまでが妥当かも。 一つの系ではなく、複数の系からなるシステムの話が必要になる。|u>とか|d>だけではなく、|uu>とか|dd>とか ( |ud> - |du> ) / √2 とかにKet記法も拡張される。量子コンピュー

認識能力の二つの飛躍

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我々が、重ね合わせやもつれ合い(エンタングルメント)といった、ミクロな量子の世界で起きる奇妙な振る舞いを「奇妙」と感じるのには、理由がある。 それは、我々人間を含む全ての動物の、感覚器官も脳も、その知覚と認識の能力も、目の前の、絶えず変化し運動している現実の認識の為に進化して来たからである。 チーターがジグザグに逃げるガゼルを追いかける時、鷹が上空から地上のウサギを狙って急降下する時、カメレオンが長い舌を伸ばしてハエを捕まえる時、もちろん、我々の祖先が弓矢で獲物を狙う時、我々は対象との距離・対象の移動の速度から、次の瞬間の対象の位置を予測する。 動物の知覚・運動のシステムは、こうした物理計算を瞬時に実行し、その計算結果で、自らの運動を自動的にコントロールするように進化して来た。この知覚・運動能力に組み込まれた、コンピュータが我々の外界・物理世界の認識の枠組みを決める。それは、古典的な力学の世界に、適応している。 いや、逆に、長い進化を経て、我々に組み込まれた、知覚・運動コンピュータが、自らが適応してきた、古典的な力学を「発見」したと考えた方がいいのかもしれない。 いずれにしても、我々に組み込まれた知覚・運動コンピュータにとって、ミクロな量子の世界は、想定外の対象なのである。 だから、人間の脳を、いくら精緻に分析し、シミュレートしたとしても、そのままでは、ミクロな量子力学的な世界の認識には至らないだろうと、僕は考えている。(同様に、超マクロな「宇宙」の認識も、我々の知覚・運動組み込みコンピュータの、そのままの能力の「外挿」では、うまくいかないはずだ。) それでは、超ミクロな量子の世界(あるいは、超マクロな時空)の認識には何が必要なのだろうか? 一つは、我々の「感覚能力」を拡大することだ。 今回のノーベル賞の対象となった「重力波の検出(レーザー干渉計)」も「cryo電子顕微鏡」も、こうした我々の感覚能力の拡大と考えることができる。CERNの加速器は、ミクロな世界への我々の「感覚器官」なのだ。 ただ、それだけでは足りないのだ。 新しい世界の認識には、数学の助けが不可欠だ。 (ニュートン力学の成立と微積分の成立は、同じものだ。アインシュタインの重力理論に先行したのは、リーマン幾何学だ。) 数学的な認識能力を、ある種の新しい

「20世紀の音楽を聴く会」の情報を探しています

1966-68年くらいに、渋谷の山手教会で、「20世紀の音楽を聴く会」(正確ではないかも)というのが定期的に開催されていました。入野義朗、柴田南雄、諸井誠らが主宰していたはずです。この期間、僕は、だいたい全ての会に出ています。一柳も出演していました。若いブーレーズも来ていました。 日本の現代音楽史では、画期的な取り組みだったと思うのですが、ネットで探しても、この取り組みの情報が見つかりません。なにか情報お持ちの方いらっしゃいましたら教えていただけませんか?

漏水だ!

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家で漏水があったらしい。 先月3,250円だった上下水道料金が、今月は、39,840円だという。初めての経験。

複雑性の理論の新展開 -- 量子マネー

先日のマルレクでは、エントロピーの歴史を中心に、ボルツマン、シャノンから量子情報理論の入口のところまでの話をし、科学の基礎理論のレベルで、100年に一度の大きな変化が起きているという話をした。 現実的な課題との接点では、凝縮系物性論に大きな変化が起きていて、それが、21世紀の新しい量子デバイスや高温超電導マテリアルの創出に結びついていくだろうと示唆した。 時間の関係で、マルレクでは、複雑性の理論については、資料は少し用意したのだが、あまり語ることができなかったので、少し補っておこうと思う。 ここでも大きな変化が進行中である。 基本的には、ゲーデルやチューリングの「計算可能性」(あるいは、「計算不可能性」)の理論として出発した複雑性の理論が、単なる形式的・数学的な理論として閉じているのではなく、物理の基礎理論と深いつながりがあることが発見されていくのである。 この分野で、もっとも目覚ましい理論的成果は、ブラックホールで情報が失われるか否かをめぐる長い論争の現代版であるAMPS Paradoxの、ハーローとハイデンによる「解決」である。それらの理論的オーバービューについては、別の機会に紹介したいと思う。 ここでは、こうした現代の複雑性理論の「現実的な課題との接点」について触れてみようと思う。それは、「量子マネー」である。 誰でも、それが真正の通貨であることを知ることができるが、発行者しか、それを生成しコピーすることができない「量子通貨」の研究が活発に行われている。 それは、現在の「暗号通貨」と基本的には、同じ考えに基づくものなのだが、依拠する暗号化のメカニズムが異なる。量子暗号化は、現代の暗号化技術の最大の脅威とみなされることのある量子コンピューターによっても解けない暗号化である。 こうした研究は、今までは、あまり現実的な意味を持たないと考えられていた。量子コンピュータだってちゃんと動いていないのだから。僕が知っている、Shorのアルゴリズムに基づく、量子コンピュータでの素因数分解の最大の成功例は、15を3 x 5 に分解することだった。 ただ、冒頭に述べた新しい量子デバイスの登場が、状況を大きく変える可能性はある。 何も、量子デバイスを、どこかのセンターに鎮座する量子コンピュータと考える必要はないのだ。みなが持ち運ぶデバ

ABCで講演します「はじめてのボイス・アシスタント」

10/14日開催の日本Android の会のイベントABC  http://abc.android-group.jp/2017a/  で講演します。 「はじめてのボイス・アシスタント --- Amazon Echo/AlexaとGoogle Assistant --- 」 先日の角川さんの講座で好評だった内容です。 もちろん、無料です。 是非、いらしてください。

9/28 マルレク懇親会

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9/28 マルレクの様子です

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マルレクの様子です。大きな、きれいな会場でした。富士ソフトさんに感謝。

9/28 マルレク講演資料公開しました

本日のマルレク「IT技術者のための情報理論入門」の講演資料です。ご利用ください。 https://drive.google.com/file/d/0B04ol8GVySUuc2xVZmtVYkVwMDg/view

9/28 マルレク 講演概要最終バージョン

明日のマルレクの講演資料の作成で、じたばたしています。そう、まだできてないんです。でも、ようやく全体の構成を固め、「はじめに」の文章書きはじめました。 ごめんなさい。予告したものとだいぶ変わっています。集客、まだ150に届いていません。でも、集客気にするより、言いたいこといって、スッキリしようとおもいます。 「はじめに」と「Agenda」ご覧ください。 --------- はじめに --------- 今回の講演は、時代とともに相貌を変える「エントロピー」という概念を、身近なものとして理解してもらうことを、一つの目的としている。 19世紀に、熱力学の中で定式化され統計力学を成立させた「エントロピー」は、20世紀、情報理論の中で、「情報量」として再定義され、21世紀、物理学の基礎理論の中で「エンタングルメントのエントロピー」として、再々定義される。 講演では、こうした大きな流れを、いくつかのトピックスやエピソードを中心に紹介したいと思う。限られた講演時間で、フォーカスを明確にするため、「複雑さについて」と「ディープ・ラーニングとエントロピー」の部分は、Appendixに回した。 講演のタイトルも、ミスリーディングだったかもしれない。情報の問題に関わるIT技術者にとって、今、必要なことは、何もシャノンの「情報理論」を、改めて学ぶことではないからだ。 重要なことは、「エントロピー=情報」をキーコンセプトとして、現在、科学の世界で急速に進行中の変化を知ることだと思う。なぜなら、この変化は技術の世界での大きなイノベーションを引き起こす、実践的に大きな意味を持っているからだ。変化は、おそらく、急速に進行するだろう。「量子情報」の世界は、すぐそこに来ている。 本講演を、「量子情報理論」の入門として、受け止めてもらえれば嬉しい。いつか、マルレクで「量子コンピュータ」の話をしたいと思う。 --------- Agenda --------- ・イノベーションと科学 ・エントロピーをイメージする ・19世紀 ボルツマン:統計力学とエントロピー ・20世紀 シャノン:情報理論とエントロピー ・21世紀 エンタングルメントとエントロピー ・なぜ、今、「情報理論」なのか ・Appendix  ・複雑さについて  ・ディープ・ラーニングとエントロ

ノシャップ岬の夕焼け

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僕の車は、430円だった

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20年以上乗っていた車を手放すことに。ディーラーから、「下取り価格、430円です」といわれる。 古い車の自動車税はどんどん高くなって、年間8万円以上払っていたのに、下取り430円ですか? ゼロ査定だけど、新車の頭金をキリのいいところで切ってくれたので、それを下取り価格にしたということらしい。 ゼロだと諦めもつくが、430円は、かえって悲しい。  まだ、ちゃんと走るのに。  馬力もスピードもあるのに。  乗り心地だっていいのに。 新しい車は、昔、電化されていない田舎の線路を走っていた「ディーゼル機関車」(若い人知らないかも)と同じで、エンジンで発電してモーターで走る。これを「電気自動車」と呼ぶなら、「ディーゼル機関車」も「電気機関車」だよな。 誰かをひき殺そうとしても、自分で壁に激突して自殺しようとしても、ちゃんと邪魔をする仕掛けがついているらしい。ありがたいことだ。 そのうえ、ペダルを踏めば加速し、ペダルを離すとブレーキがかかる。まるで、遊園地のゴーカートだ。きっと、僕でも運転できる。 でも、僕は運転免許を持っていないので、運転してはいけないらしい。(Googleの自動運転カーの試作車のあるものには、ハンドルがない。これは、もちろん、乗るのに、免許はいらない) 車を乗り換えるのは、何回か経験しているのだが、今回は、少し心が動く。車の写真など取ったことはなかったのだが、今回は、彼女に、「最後の写真」を取っといてほしいとお願いする。 理由は、はっきりしている。歳を取っていく自分と、廃車にされる車とを重ねているのだ。自分は、ポンコツ車ではないと思っているから。(けっこう、ガタがきているのだが) 「大きなエンジンは無駄」(小さなエンジンではできないこともある) 「燃費が悪いだろう」(講演料安すぎるから) 「安全装置もないだろう」(それがどうした!)  まだ、ちゃんと走るのに。  馬力もスピードもあるのに。  乗り心地だっていいのに。 ごめんね。430円で、売り飛ばして。

エンタングルメントのエントロピー

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先に、スープ内の情報は、「量子誤り訂正コード」のメカニズムで、缶に(内側から)送られているのかもしれないという話をした。 それでは、缶上の情報は、どのようにスープに伝わるのだろうか?  缶上の領域Aを底辺に持ち、スープ上に突き出した曲面XAが存在して、我々は、その表面を見ることができる。そこに、缶上の領域Aの情報が、エンコードされるのだという。(図は、高柳大先生の「重力理論と量子エンタングルメント」から、借用した。) この曲面XAは、スープの中で、最小の表面積を持つ曲面(極小曲面)で、その境界は缶上のAの境界と一致している。 ところで、この極小曲面γAこそ、二人の日本人物理学者 笠と高柳が発見した、エンタングルメントのエントロピーに対応するものだ。(ベッケンシュタインによる、ブラックホールのエントロピーの発見に比肩する、おおきな発見だ。)缶上の領域Aのエントロピーは、スープ内のγAの表面積(プランク長の二乗を面積の単位とした時)に等しい。 このことは、スープである重力理論の時空が、エンタングルメントの集まりからできていることを、示唆している。 先日示した、樹状のグラフ(これを、Tensor Network というのだが、それについては後日説明する。ディープ・ラーニングのTensor Flow Network とは、全く関係ない。ただし、英文wikipediaの"Tensor Network"の記事は、ディープラーニングの話になっている。まぎらわしいので、注意。)との関係を示したのが、最後の図。 缶上の領域Lに対応するスープ内の極小曲面が、太い線で示されている。

9/28 マルレク キャッチコピー

「難しい?」  難しくないです。大きな流れがわかります。 「わかって、どうする?」  きっと、楽しいです。 「楽しくても、役に立つの?」  役に立ちます。いつか。(10年後には確実に)

AdS/CFT対応と量子誤り訂正コード

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量子コンピュータが、従来のコンピュータでは実際の時間内では計算できないような、例えば、長いキーを持つ暗号を解くことができることは、よく知られている。 しかし、量子コンピュータが暗号を解いたという話は、聞いたことがない。それなのに、なぜ、量子コンピュータが複雑な暗号を解けるということがわかるのだろう? もちろん、それは、「理論的」に証明されただけだからということなのだが、実際には、もう少し、話は込み入っている。 実は、暗号解読の基礎になる、量子コンピュータによるShorの素因数分解のアルゴリズムを実装した、「量子ゲート」からなる「回路図」は、もう、ちゃんとできているのだ。図に、その一部を示す。 問題は、「回路図」は出来ているのだが、「回路」の実装ができないのだ。量子ゲートが、正しく機能するためには、コヒーレントな状態を長い時間維持しなければならないのだが、それが難しいのだ。 それも当然である。 量子の世界の、無数の状態の「重ね合わせ」とか「エンタングルメント」といった奇妙な性質が、現実の世界では、全く観察できないのは、現実の世界では、コヒーレントな状態を破壊するデコーヒレントな力が、圧倒的に強いからだ。これに抗するのは、容易ではない。 D-Wave等の、いわゆる「アニーリング型量子コンピュータ」は、いわば、ずっと「設計図はできているんだけど」といい続けているけど、実装「回路」を作れず足踏みしている「量子ゲート型量子コンピュータ」への、「もっと、別の攻め方も、あるんじゃないの」というアンチ・テーゼなのだ。 ただ、量子コンピュータの本命は、「量子ゲート型」である。 ここでも前進はある。 2012年度のノーベル物理学賞は、「量子世界での粒子のコントロール」への貢献で、イオン・トラップ、光子トラップのSerge Harocheと David J. Wineland に与えられた。 授賞理由は、次のようなものであった。「両氏は、独立に、以前には達成出来ないと考えられていたやりかたで、個々の粒子を量子力学的な性質を保存したまま、計測し操作する手法を発明し発展させた。」 もう一つの前進は、量子コンピュータ内、量子ゲート間の正確な信号の受け渡しを可能とする「量子誤り訂正コード」技術の研究が進んだことである。 両者ともに、

相対論と量子論の統一

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20世紀の物理学の大きな問題は、宇宙の巨大な時空を記述するのに成功した相対論と、極微の素粒子の世界の記述に成功した量子論をどう統一するのかということだった。 二つの理論の統一を目指す理論を、「量子重力理論」というのだが、大雑把に言って二つの立場があった。一つは、量子論の枠組みに相対論を取り込もうというアプローチだ。もう一つは、相対論の枠組みに量子論を取り込もうというアプローチだ。 ただ、両者とも、自分のホームグランドに、相手を引き込もうと、いろいろやったのだが、どうもうまくいかない。 そこに登場したのが、アルゼンチンの物理学者マルデセーナだ。彼の理論は、両陣営の対立(といっても、どちらも成功していなかったのだが)の、いわば、「斜め上」をいくものだった。 マルデセーナは、時空の理論と量子論的場の理論が、住む世界が違うことを発見する。キャンベルの缶スープに喩えれば、時空の理論が棲んでいるのはスープの部分で、量子論が棲んでいるのは、缶の部分だという。 (彼の発見は、100年近く経っても、二つの理論の統一ができなかったことを、別の見方から、説明するものになっているのは、面白いことだ。スープは缶ではないし、缶はスープにはなれない。) 重要なことは、彼が、二つの理論を、「全く別世界に棲むもの」として切り離したのではなく、両者の対応関係を発見したことだ。スープの「境界」が、缶であることが、本質的に重要だった。 (ブラックホールのエントロピーを担う、その「地平」も、ブラックホールの内部と外部を隔てる「境界」だ。) 両陣営とも、マルデセーナの主張を受け入れることになる。相対論と量子論の統一は、新しい段階に突入する。 その中では、時空を結びつけているのは、エンタングルメントのエントロピーだとする主張が登場する。これは、時空を結びつけているのは「情報」であるという、驚くべき主張だ。 この辺りは、以前に blogにまとめたことがある。興味のある読者は、次を読んでいただければと思う。「ER=EPRに先行したもの (超入門編)」 https://maruyama097.blogspot.com/2017/06/erepr.html

9/28 マルレク講演概要

9/28 マルレク「IT技術者の為の情報理論入門」の一般のお申し込みは、今週中に、次のサイトから可能になります。 http://peatix.com/event/297295/ 講演概要です。 ------ 概要 ------ 講演では、次の4つの話をします。   1.  ボルツマンのエントロピー     2.  シャノンの情報量   3.  ディープ・ラーニングとエントロピー   4.  エネルギーと情報 -- 21世紀の科学の展望 2時間の講演ですので、情報という概念が、21世紀の科学で中心的な役割を果たそうとしている大きな流れを、エピソードを中心に、わかりやすく説明できればと思っています。 以下、それぞれの内容です。 1.  ボルツマンのエントロピー 19世紀、ボルツマンは、産業革命を牽引した蒸気機関の効率化を目指す中で経験的に発見された「エントロピー」という量に、原子論の立場から、明確な理論的な説明を与えました。彼がマックスウェルと共に、その成立に大きく貢献した統計力学の手法は、現代の技術の基礎である、20世紀の物理学に大きな影響を与えることになります。 2.  シャノンの情報量 20世紀、シャノンは、ボルツマンと全く異なる情報の分野で、全く異なるアプローチをとりながら、ボルツマンらと同じ定式を満たす量を発見します。その量もエントロピーと呼ばれることになります。シャノンの理論は、20世紀の情報・通信の世界の発展に、中心的な役割を果たすことになります。 3.  ディープ・ラーニングとエントロピー 21世紀初めにAI技術の一部として普及したディープラーニング技術では、エントロピーに起源を持つコンセプトが利用されています。Cost関数として使われるcross entropy関数や、分類器として利用されるSoftMax関数がその例です。それらの背景と意味を理解することは、ディープ・ラーニング技術を深く理解する上で、重要なことです。 4.  エネルギーと情報 -- 21世紀の科学の展望 21世紀の物理学の変化を変化を牽引している主役の一人は、情報理論です。ブラックホールやエンタングルメントといった奇妙な物理現象の謎を解き明かすのに、量子情報理論と複雑さの理論は、欠かせない武器の一つになりつつあります。ここでは

「マルレク+MaruLabo」フォロアー 3,000人超える

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「マルレク + MaruLabo」コミュニティ・ページのフォロアーが、今日、3,000人を超えたようです。皆様の、ご支援に感謝です。今後とも、よろしくお願いします。 https://www.facebook.com/marulec2014/ Facebookで「友達」になっている人の 1/3ほどしか、「マルレク + MaruLabo」ページに「いいね」していないことに気づきました。なんでかな?

ブラックホールに、一個のフォトンが落ちると ...

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今、ブラックホールに、フォトン(光の粒子)が一個落ち込んだとする。このフォトンは、1bitの情報を持っているとする。 (本当は、フォトン一個は、無数の情報を持ちうるのだが。フォトンの波長を、ブラックホールの地平の半径と同じ程度に広いものにすれば、フォトンの輪郭はぼやけ、それが持つ情報を小さなものにできる) この時、ブラックホールのエネルギーは、どれほど増えるだろうか? それは、ブラックホールに落ち込んだ、1bitの情報を運ぶフォトンのエネルギーだけ増える。その量は計算できる。 エネルギーは質量に等しいので、この時、ブラックホールの質量が、どれだけ増えるかがわかる。 ブラックホールの地平の半径Rは、ブラックホールの質量Mで決まる。半径がわかれば、その地平の面積の変化を計算できる。 物理学者のサスキンドが、太陽程度の質量を持つブラックホールで、この計算をしている。 1bitの情報を持つフォトン一個が、ブラックホールに落ち込むと、ブラックホールの質量は、10^{-45}キログラム増えるという。小数点のゼロの下にゼロが45個並ぶ数だから、普通なら、無視しても構わない変化だ。 この時、地平の半径は、10^{-72}メーター伸びるという。さっきの変化より、もっともっと小さい。普通なら、無視しても構わない変化だ。 この時、地平の面積は、10^{-70}メーター広くなる。これも、無視して構わない変化だ。 まてよ。 サスキンドは、ここであることに気づく。10^{-70}というのは、プランクの長さ h= 10^{-35}の二乗じゃないか? そこで、ブラックホールの質量を、いろいろ変えて計算すると、驚くべきことに、どんな質量のブラックホールでも、1bitの情報を持つフォトンが飛び込むと、その地平の面積は h^2 プランク長の二乗分だけ広がるのである! (一部、脚色あり。) イメージとしては、こういうこと。 ブラックホールの地平が、h x h のマス目で、びっしり埋められているとする。ここに、1bitの情報をもったフォトンが、飛び込むと、新しいマス目が、他を押しのけて一つ増えるということ。なんか、格好いい発見である。 落ち込んだフォトンの情報は、地平の平面にへばりつくのだ。 これは、「ブラックホールのエントロピーは、