「人工知能と複雑性理論」:はじめに



9/27 角川さんで開催の「人工知能と複雑性理論」の「はじめに」の部分できました。ご利用ください。
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小論は、人口知能研究の今後の発展の方向を、数学的・物理学的認識可能性の理論でもある「複雑性理論」の成立・発展を中軸にして考察したものである。
なぜ、数学的・物理学的認識が問題になるのか? もちろん、人工知能研究の基本的な問題は、「機械は考えることができるか?」という、チューリング以来の問題である。
「機械が考えること」の中に、感覚=運動的な認識能力だけでなく、言語的な認識や数学的認識を含めると問題は急に難しくなる。ただ、こうした問題を避けるわけにはいかないと、筆者は考えている。また、人工知能は、理論的な構成物としてではなく、物理的なものとして実装されねばならない。
人間と機械の数学的・物理的認識の限界を(筆者は、両者は同じ限界を持つと考えている)、知ることは、すなわち、人工知能の認識の限界を知ることに他ならない。
人工知能研究の現状からいうと、問題をかえって難しくしているだけと感じる人もいるかもしれない。ただ、「複雑性理論」を視野に入れると、未来についての見通しは、むしろ良くなると筆者は感じている。
「複雑性理論」の第一世代は、1950年代に定式化される「計算可能性理論」である。それは、数学的・形式的な抽象的なものでしかなかった。
「複雑性理論」の第二世代は、1970年代に始まる「計算複雑性理論」である。それは、コンピュータの爆発的普及に刺激を受け、コンピュータの能力を意識したものであったが、数学的・形式的なものであった。(もっとも、その基本問題である P=NP? 問題は、そうした性質を持ち続けている)
「複雑性理論」の第三世代は、1980年代の「理論的可能性」としての「量子コンピュータ」の登場とともに始まる。
この第三世代は、「複雑性理論」の発展としては、「量子複雑性理論」の成立として特徴付けられるのだが、その過程は、 「情報過程=物理過程」という認識によって支えられていた。
同時に、それは、「物理過程=情報過程」という認識の成熟でもあった。ブラックホールやエンタングルメントのエントロピーの発見、ブラックホールでの「情報消失」問題からホログラフィック原理の提唱、AdS/CFT 対応の発見等々の現代物理学の発展の中心に「量子情報理論」と「複雑性理論」がある。
こうした知見は、我々人間の(そして恐らくは機械の、それゆえ「人工知能」の)認識の限界が、どのようなものであるかを知らせている。
「複雑性理論」は、我々人間が、この宇宙の中で知りうることについての「限界」の具体的で精緻な「境界付け」を与えてくれるのである。
我々の認識の「限界」が、こうして、ますます身近で具体的なものとして与えられていく反面、それでも、大きな謎は残っている。
我々を拘束する、こうした「有限性」や「多項式時間」という「制限」の中で、我々は、なぜ自由に思考し、無限について数学的に考えることが出来るのであろうか?
「謎」があることと、科学は矛盾しはしないのだ。
スライドは、少し長く、一部は難しい表現も含まれているかもしれない。ただ、この問題領域での興味ふかいエピソードを沢山盛り込んだ。わからないところは飛ばして、面白そうなところだけ読んでもらっても、この世界の広がりは伝わると考えている。

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