量子テレポーテーションは、テレポートしないというお話

【 量子テレポーテーションは、テレポートしないというお話 】

量子テレポーテーションは、エンタングルメントを利用した通信技術です。

アインシュタインがエンタングルメントを発見した時、彼は、もしエンタングルメントが事実なら、ある人が観測をした時、その観測した情報は、瞬時に宇宙の果てまでも伝わることになると考えました。

 「それは馬鹿げた遠隔作用だ!」

ちなみに、ニュートンは重力の作用は、どんなに離れていても瞬時に伝わると考えていました。ニュートンの重力理論とアインシュタインの重力理論の一番大きな違いは、アインシュタインがニュートンの重力の遠隔作用を否定して、重力も有限なスピード、光のスピードで伝播することを見出したことでした。

SFに出てくる「テレポート」というのは、人間や物体を「瞬間移動」することらしいのですが、科学がどんなに進んでも、それは実現しそうもありません。

量子のエンタングルメント状態を利用した「量子テレポーテーション」というと、なにやら怪しげなイメージが浮かびませんか? アリスがテレポーテーション装置に何かを放り込めば、それは即時にボブの側に瞬間移動するというイメージを持ちませんか?

でも、それは、実は、間違ったイメージなのです。

もっとも、発見者のベネットたちの茶目っ気たっぷりのネーミング(「スター・トレック」から借用したみたいです)が、こうした誤解を生み出していることも事実です。でも、いまからこの現象の名前を変えるのは難しいのかも。

実は、量子テレポーテーションでは、量子はテレポートしていないのです。

今回は、量子テレポーテーションでの状態の変化を計算で追いかけてみました。その計算だけ見ていると、大事な手順を見落とすことになるかもしれません。

アリスが量子テレポーテーション装置に何かを放り込むと、それで万事が終了するわけではありません。アリスには大事な仕事が残っています。それは、ボブと連絡を取ることです。

 「今、送ったよ。」

これだけですと、メールを送って電話で「今、メール送ったよ」と確認するような、無くてもいいマヌケなことのように見えるのですが。

アリスがボブに送る、次のような情報が、重要なのです。

 「メーター1は0で、メーター2は1だったよ。」

ボブは、この情報に基づいて受信装置を変更します。それによってボブはアリスの送った情報を正しく受け取れるようになるのです。

ポイントは、アリスの送ったものが自動的にボブのもとに瞬間移動するのでは無く、アリスからボブへのこうした追加の情報伝達が、必要だということです。それは電話でもいいし、Lineでもいいし、インターネットを使ってもいいのですが。ただ、それには時間がかかります。どんなに頑張っても、アリスとボブは、光のスピードを超えて情報伝達はできません。

アリスとボブの量子テレポーテーションのスピードの足を引っ張っているのは、この手順に必要な時間だということです。

量子テレポーテーションは、テレポートしないのです。

【「量子テレポーテーションを計算する」を公開しました】

https://youtu.be/14I5MXPzaRo?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM

動画のpdfは、こちらからアクセスできます。
https://drive.google.com/file/d/16qJT1XzSyhLptbnkz47B2gyMMQXUW9Y4/view?usp=sharing

このシリーズのまとめページはこちらです。
https://www.marulabo.net/docs/q-net/

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