Gibbsの方法とMAXENT

【  Gibbsの方法の不思議なパワー 】

Jaynesの「最大エントロピー原理」の提唱には、先行した理論的なモデルがあります。彼にインスピレーションをあたえたのは、統計力学で行われたある巧妙な計算の方法でした。この計算を行ったのは、Gibbsです。

「統計力学的エントロピー = 情報理論的エントロピー」という同一性に基づき、彼はGibbsの強力な統計力学的導出に情報理論的推論という解釈を与えたのです。

このセッションでは、Gibbsが行った計算の例を見てみようと思います。

彼が考えたのは、次のような問題です。

「観測によって、ある系の平均エネルギーがEであることを知っているとしよう。もし、我々が知っていることが、この E だけだとしたら、我々はこの系のエネルギーの分布について、なにか知ることができるだろうか?」

それは、ある人の支出の総計が与えられたとして、それだけから、その人の支出の構成を予測しなさいという問題に似ているかもしれません。

Gibbsの方法は、不思議なパワーを持っています。Gibbsは、一見すると不可能のように思える、与えられたエネルギーの観測値からそれが従う分布式を導くことができることを示したのです。(不思議と言っても秘密の方法ではなく、統計力学の教科書には大抵載っていると思います。)

まず、与えられている情報を整理してみましょう。

ある系の部分系のエネルギーを E_i とし、系のエネルギーの確率分布を𝑝_𝑖とします。この時、この系のエネルギーの平均値はEであるという条件は次の式で表すことができます。
  ∑ 𝑝_𝑖 𝐸_𝑖 = 𝐸

出発点で与えられているのは、この情報だけのように見えます。

ただ、もう一つ、我々が知っていることがあります。それは、𝑝_𝑖は確率なので、それらの和は1になるという、ある意味自明の関係です。
  ∑ 𝑝_𝑖 = 1

Gibbsは、このように、与えられた情報の不足を、利用できる他の情報で補おうとします。

次に彼は、系のエントロピーSに注目します。もっとも、エントロピーSの値をなんとかして観測しようというのではありません。エントロピーSの定義式の形に注目するのです。

Gibbsは、利用できる情報をまとめて一つの式をたてます。基本的には、S = S + α[...] + β[...] という形の式なのですが、α[...] , β[...]の項は、ゼロになるようになっています。 S = S + 0 + 0 という式をわざわざ作ったのには訳があります。

Gibbsが追加したもう一つの条件は、「系のエントロピーSは最大になる」というものでした。この条件を使うと、この系で先のα , β が満たすべき式を導くことができます。こうしたアプローチを「ラグランジェの未定乗数法」といいます。

重要なことは、「系のエントロピーSは最大になる」という条件を利用すると、系についての新しい形の情報が得られるということです。ここに、Gibbsの導出の最大の飛躍があります。Gibbsの方法の不思議なパワーの源は、「系のエントロピーSは最大になる」という条件の利用だったのです。

これらの情報を利用して、Gibbsは、与えられてエネルギーの値から、その確率分布の満たすべき式を導出することに成功します。

テキストで式や計算を説明するのは難しいので、可能であればぜひ、スライドまたはビデオをご覧ください。

Jaynesが行ったのは、次のような解釈を、Gibbsの方法に与えたことです。

ある系に対する現在の認識の状態を最もよく表現する確率分布は、もっともエントロピー の大きいもの、すなわち、もっともその系の情報が少ない確率分布だと言うことです。それが新しい情報を生み出します。それを彼は、「 最大エントロピー原理 = MAXENT」と呼びます。

ある系に対する認識が発展するのなら、その認識の発展は、現在の系が含んでいる最少の情報(それは最大のエントロピーを持ちます)からも得られるはずだと言うことです。

それは、「推論」の原理としても解釈できます。

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ショートムービー「 Gibbsの方法とMAXENT 」を公開しました。

https://youtu.be/VPqtFeg7pmg?list=PLQIrJ0f9gMcM1CSCpFfUuf25kD7b1JMM2

資料 pdf「 Gibbsの方法とMAXENT 」

https://drive.google.com/file/d/1-iIr0pRgGXHuFY-QbdF9Zib5__KHHruU/view?usp=sharing

blog:「 Gibbsの方法の不思議なパワー 」 
https://maruyama097.blogspot.com/2023/07/gibbsmaxent.html

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