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コンピューター・サイエンスとカテゴリー論

1940年代、「純粋」数学の一分野として「カテゴリー論」が生まれた時、ある数学者はそれを "general abstract nonsense" 「ナンセンスな抽象化の一般化」と呼んだ。 数学は、もともと抽象的で現実離れしたところはあるのだが、そのなかでも馬鹿馬鹿しいくらい抽象化を進めて何の役にも立たないのが「カテゴリー論」だという意味だ。 その後、カテゴリー論の重要性の認識は、ローベールのトポスによる集合論の再構成の仕事や、グロタンディックの予見的な仕事(現在の膨大なStack Theoryの源流だ)を通じて、数学の中では、確固としたものになっていく。 カテゴリー論は、確かに「抽象的」だが、数学では「役に立つ」!  それどころか、カテゴリー論的アプローチは、「ナンセンス」なものではなく、現代数学の最も強力な武器だということが、多くの数学者に受け入れられて行く。 僕の院生時代は、そうした大きな転換の時代だったと思う。今では、カテゴリー論は、数学では普通のツールになったといって良いと思う。ただ、それは、まだ数学の中での話だ。 今また、面白い動きが出ている。それは、数学での応用に閉じない「応用カテゴリー理論」 Applied Category Theoryという新しい科学分野が急速に立ち上がろうとしていることだ。 「応用カテゴリー理論」がどのようなものであるかについては、ジョン・バエズの次のブログが、わかりやすい解説になっている。"What is Applied Category Theory?"  https://goo.gl/TYoW7G この中でも触れられているのだが、コンピュータ・サイエンスは、カテゴリー論との接点は、今までもなかったわけではない。ただ、それだけではないというのは、彼の次のような言葉を見ればわかる。 「私はプログラマではない。この点は弱点だと思っているので申し訳ないのだが、コンピュータ・サイエンスの中でのカテゴリーの扱いについては、かなりのことは知っていると思う。しかし、その知識はプログラミングのハンズオンでの経験からではなく、カテゴリー論の側から学んだものだ。例えば、私はHaskellの話を聴く前からモナドのことは理解していた。私の最初の反応は、「この人たちは、モナ

クラウド上の最新のディープラーニング開発環境を活用しよう!--- 簡単に人工知能アプリを作る為のAmazon SageMakerクラウド・ハンズオン

来たる5月12日、AWSさんの協力を得て、MaruLabo+角川のクラウド・ハンズオンを開催します。 https://lab-kadokawa50.peatix.com/ 本ハンズオンは、個人として、あるいは、企業の中でディープラーニングを新たに学ぼうとしている方に、クラウド上の最新のディープラーニング開発環境を活用すれば、初心者でも簡単に人工知能アプリを作成できることを体験してもらうことを目的にしています。同時に、すでにディープラーニングに取り組んでいる方にとっても、今回紹介する新しい開発環境の利用が、開発効率を大幅にアップすることを知ってもらういい機会になると考えています。 AI技術への関心の広まりの中で、ディープラーニングの開発環境も大きく変化しつつあります。その変化は、誰でも簡単にディープラーニング技術を利用した人工知能アプリを作成できるという「開発の容易さ Ease of Development」の方向に向かっています。去年発表されたAmazonのSageMaker、今年登場したGoogleのTensorFlow Hub, TensorFlow.js は、その代表的な例です。 ディープラーニングを学習しようとして、一年以上前に書かれたテキストのサンプル・コードを打ち込んでいませんか? 新しく学習を始めるのなら、一番新しい開発環境から始めるのが一番いいと、私たちは考えています。なぜなら、そのほうがずっと簡単に人工知能技術を利用したアプリを開発できるからです。本ハンズオンでは、こうした最新の、しかしながら簡単な、新しい開発環境を紹介します。 「開発の容易さ Ease of Development」に向かう開発環境の変化の特徴は次のようなものです。(クラウドでGPUを利用するのは、もはや「常識」です。) 第一に、ディープラーニングの基礎にあるニューラル・ネットワークのモデルを各人がゼロから組み立てるのではなく、すでに存在するモデルを再利用する可能性を、新しい開発環境は提供します。ディープラーニングの開発フレームワークはベンダー毎に複数存在するのですが、その基礎となるニューラル・ネットワークのモデルは、実は、同じものです。画像認識でも、テキストの分類でも、データの表現でも、優れた強力なモデルは、すでに存在していま

満員御礼と5/29「楽しい数学 -- MaruLabo 数理ナイト 第二夜」のお知らせ

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「MaruLabo数理ナイト 第一夜」チケット完売しました。ありがとうございます。 数理ナイト第二夜 「集合論入門」を、5月29日 19:00より、ミスルトさんで開催します。詳細は、後ほど公開します。 -------------------------------------- MaruLabo 数理ナイト 第二夜 – 集合論入門   -------------------------------------- 思考実験1:「無限に数え続けることは可能か考えてみよう」 思考実験2:「数えられないものがあるか考えてみよう」  ● 無限と連続:カントールが考えたこと  ● カントールが答えられなかったこと:「連続体仮説」  ● ラッセルが見つけた集合論の矛盾  ● ツェルメロ=フランケル:集合論の体系の整備  ● 非カントール的集合論の発見  ● 「理論」と「モデル」  ● 数学の基礎を基礎付ける試みの発展     ZFC, Topos Theory, Univalent Theory

「22世紀医療センター」

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この前、人間ドックに入りました。日帰りですけど。人生で3度目です。 病院のいつもは行かない一角を歩いていたら、病院内に面白い施設があることを見つけました。「22世紀医療センター」すごい名前です。だいぶ前、7~8年前からかあったみたいですが、気づかなかったです。 僕だけでなく、僕のFacebookの友達は、ほとんど全員、22世紀までは生きていないだろうと思うのですが、何を研究しているのか、すこし、気になりました。(図は、その概要です。詳しくは、 http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/22center.pdf   ) 8階の講座は、全て企業からの寄付講座なんですね。 面白そうなのは、「佐川急便「ホスピタル・ロジスティクス」講座」と「コカコーラ抗加齢医学講座」かな? 「ホスピタル・ロジスティクス」が病院内のロジスティクスを扱うのか(多分、そうだと思うのですが)、病院自体を患者の元に届ける構想なのかよくわかりませんが、後者だったら面白いと思います。その節は、是非、クロネコやアマゾンも仲間に入れてもらえれば嬉しいのですが。 コーラの愛飲者としては、僕のまわりの「コーラは体に良くない」とうるさく忠告する人たちに、コーラを飲めば長生きできるという研究成果を出してもらえればと思います。 「22世紀医療センター」という名前の割に、個々の講座の名前を見て、僕があまり「わくわく感」を感じなかったのは、なぜでしょうね? それは、100年先の医療技術を、現在の時点で想像することの難しさが、根底にはあるのだと思います。 ただ、ただでさえ難しい100年先の未来予想を、企業の寄付講座をベースに構想しようというのが、あまり良くないのだと思います。今時の大学の未来像は、こんなもんなのでしょうか? 僕は、寄付講座に反対している訳ではありません。寄付をした企業をけなすつもりもありません。また、大学が、背伸びしてでも100年先を展望しようという姿勢をもつことは悪いことではないと思っています。 ただ、それは、個別の企業ではなく、理想と志のある大学だけに可能なことなのかもしれません。

最近の丸山の活動について

量子情報理論のセミナーをやったり、数理哲学のセミナーを始めたり、最近の丸山の活動が、IT技術者の方からは、よくわからないと思われているような気がします。 少し、説明が必要かなと思って、昨日、過去のマルレクの参加者に、次のようなメールを出しました。 マルレクに参加したことない方も、読んでいただけますでしょうか? ----------------------------------------------- マルレク2018関連イベント「MaruLabo数理ナイト」へのお誘い ----------------------------------------------- 丸山です。 4月25日を第一回として、MaruLaboと丸山事務所との共催で、「楽しい数学 -- MaruLabo数理ナイト」という数学をテーマにしたイベントを開催します。ちょっといつもの、IT系のマルレクとは毛色が変わっていますが、それには少し理由があります。 マルレク2018のテーマは「Post Deep Learning 時代の人工知能技術を展望する」です。その問題意識は次のようなものです。 ディープ・ラーニング技術が大きな成果をあげた、人間と動物に共通する「感覚=運動能力」の機械による実現を超えて、人工知能技術が進むには、動物と人間を明確に分かつ人間固有の認知能力 --- 僕は、言語的認識能力と数学的認識能力の二つが重要と考えているのですが --- の機械による実現に向かう必要があります。 こうした時、人工知能研究をさらに推し進める重要な方法があると、僕は考えています。それは、言語的認識能力については言語学と、数学的認識能力については数学との研究の連携を進めることです。 言語学の分野でも数学の分野でも、実は、様々な取り組みが存在しています。こうした取り組みは、人間の認識能力についての深い洞察を可能にするものであると同時に、いずれもが、それをコンピュータ上で実現しようという明確な指向を持っているのが大きな特徴です。こうした動きが、将来的には、人工知能研究と合流していくのは確実だと、僕は考えています。 今回、数学のイベントをはじめたのは、こうした関心に基づいています。言語系の研究会も、いずれ立ち上げようと考えています。 今回の数学イベントでは、できるだ

よく似た写真

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彼女が「とてもよく似た写真見つけた」といって写真送ってきた。 違うだろ。まあ、いいか。はい、似たようなものです。

「楽しい数学 -- MaruLabo数理ナイト 第一夜」申し込みページ公開しました

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会場が、角川さんからミスルトさんに変更になりました。 「4回分オールナイト・チケット 5,000円」を追加しました。 ----------------------------------------- 第一夜:「数理哲学への招待」の開催概要 ----------------------------------------- 日時:2018年4月25日 19:00~21:00 場所:ミスルト セミナールーム      東京都港区北青山2丁目9−5    スタジアムプレイス青山 8F 定員:50名 参加費用:    マルレク個人協賛会員 1,500円    一 般        3,000円    4回分オールナイト・チケット 5,000円 申し込みページ: https://mathnight1.peatix.com/view 主催:MaruLabo+丸山事務所 ---------- 講演概要: ---------- 思考実験1:「正しい三角形はどこにあるか考えてみよう」 思考実験2:「どこまでも広がる水平面を考えてみよう」  ● 古代の数学:ピタゴラスの定理  ● ユークリッド:「幾何学原論」  ● 「幾何学を知らざる者、この門入るべからず」     プラトン:思惟の世界と実在の世界  ● 「平行線は交わらない?」     非ユークリッド幾何学の発見  ● ミンコフスキーとアインシュタイン  ● 曲がった時空とブラックホール ================================== 「楽しい数学 -- MaruLabo数理ナイト」の開催趣旨については、 Facebookへの投稿   https://goo.gl/cgJXdz   を参照ください。 また、本シリーズの今後の予定については、同じく、僕の投稿   https://goo.gl/YohGPz   をご覧ください。  シーズン1「数学の基礎を考える」   4月開催 第一夜 -- 数理哲学への招待   5月開催 第二夜 -- 集合論入門   6月開催 第三夜 -- 計算理論入門   7月開催 第四夜 -- 証明をする機械は可能か? それぞれの回のコンテンツは、すべて独立しています。同時に、このシリーズは、全体として