投稿

各国・各研究グループの取り組み

【 量子情報通信 -- 各国・各研究グループの取り組み 】 はじめにの終わりに、小論では触れることのできなかった量子情報通信分野の近年(2020年-2022年)の取り組みについて、いくつかの論文のタイトルとリンクを紹介しようと思う。 次の三つの地域の研究グループの論文である。  ・中国  ・アメリカ  ・ヨーロッパ それぞれのグループが、どのような「ブレークスルー」の展望をもっているのか興味のある方は、参照されたい。  ● 中国 2021/01/06 Nature "An integrated space-to-ground quantum communication network over 4,600 kilometres"   https://www.nature.com/articles/s41586-020-03093-8 衛星と地上の光ファイバーをむすんだ、全長 4,600km, ノード数 109 の世界最大の量子情報ネットワーク。 ユーザー数 157で、ユーザー間で、708個の量子キー配布QKDのリンクを実現。さまざまなQKDの方式、さまざまなネットワーク・トポロジーに挑戦している。  ● アメリカ 2020/07/28 arXiv "Teleportation Systems Towards a Quantum Internet" https://arxiv.org/pdf/2007.11157.pdf アメリカの量子情報ネットワークの拠点は、FermilabのFermilab Quantum Network (FQNET)と、Caltech のCaltech Quantum Network (CQNET) の二箇所である。 CQNETが基礎的な研究・開発、プロトタイピングを行い、 FQNETが DAOやHEP等の支援を受けて、量子インターネットの実現に向けた情報ネットワークの実践的な拡大・長距離化に取り組んでいる。この実験では、最新の nanowire single photon detecter を用い、90%以上の高い信頼性で、22km隔てた光ファイバー二点間の teleportationに成功した。  ● ヨーロッパ 2022/02/08 arXiv “Satellite-based Quantum I

Q-net はじめに

【 4/30 セミナー「量子情報と通信技術」「はじめに」から 】 4/30 セミナー「量子情報と通信技術」の「はじめに」を作成しました。ご理想ください。  ------------------   はじめに  ------------------ 量子論・量子情報理論のIT技術への応用というと、多くの人は、「量子コンピュータ」のことを思い浮かべるだろう。ただ、量子論・量子情報理論のIT技術への応用は、「量子コンピュータ」だけではないことに留意する必要がある。 小論がテーマとして取り上げる「量子情報通信」は、そのもう一つの重要な応用分野である。僕は、「量子コンピュータ」より、 「量子情報通信」の世界の「実用化」が早いのではと考えている。 量子論・量子情報理論のIT技術への応用に対するIT技術者の関心は、数年前と比べると確実に広がっているように見える。それは歓迎すべきことだと思う。 同時に、いくつかの「誤解」も広がっているように、僕は感じている。一つ例をあげよう。  「量子コンピュータを理解するために、   量子力学を学ぶ必要がある」 それは、ほとんど誤解に近いものだと僕は思う。 「量子情報理論」と「量子力学」とは、別のものである。 それは、「情報理論」と「力学」が、別のものであるのと同じである。 もう少し具体的に述べれば、「力学」にとって、「位置」や「運動量」や「エネルギー」は、本質的に重要な概念である。しかし、「情報理論」にとって、 「位置」や「運動量」や「エネルギー」は、さしたる意味を持たない。「情報理論」で重要なのは、「エネルギー」ではなく「エントロピー」である。 確かに、「量子力学」と「量子情報理論」は、「量子論」という共通の土台の上に成り立っている。ただ、両者の違いは大きい。 そのことは、「量子力学」の世界で、エンタングルメントが発見されてから、「量子情報理論」の世界で基本的な役割を果たす、エンタングルメントを利用する「量子テレポーテーション」が発見されるまで、60年近い年月がかかったことに、はっきりとあらわれている。 「量子情報理論」は、「量子力学」とは区別して、「量子情報理論」として学ぶ必要がある。 小論 「量子情報と通信技術」は、いわゆる「量子情報通信 Quantum Information Communication 」の世界の基本的な技術を紹介した

time-bin encoding 回路

【 time-bin encoding 回路の形を見る 】 qubitの情報を光ファイバーにのせる、time-bin qubit encoding という手法を紹介しています。 ここで利用されるのは、Mach-Zehnder 干渉計だということを前回は見てきました。今回は、回路の形を整理して、time-bin encoder回路の形を見てみようと思います。 【「time-bin qubit encoding (2)  -- 回路の形」を公開しました 】 https://youtu.be/-3LTKpdbJD8?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM 動画のpdfは、こちらからアクセスできます。 https://drive.google.com/file/d/1C72Yb4i0Y-HhyFkdL9m51jxgPib8RTuj/view?usp=sharing このシリーズのまとめページはこちらです。 https://www.marulabo.net/docs/q-net/ 4/30セミナーへのお申し込みは、次のURLからお願いします。 https://www.marulabo.net/docs/q-net/

qubitの情報を光ファイバーにのせる方法

【 qubitの情報を光ファイバーにのせる方法 】 量子通信でも、基本的には光ファイバーを利用します。photon(光子)は、量子としての性質を持っているからです。ただ、現在の光ファイバー通信は、信号を光の強弱に変換します。そこでは、photonの量子としての性質は無視されています。現在の光ファイバー通信の枠組みを、そのままの形では、量子通信に転用できるわけではありません。 量子の情報を光ファイバーにのせる方法を考えなければなりません。もっと具体的には、量子としてのphoton の持つ情報を信号としてファイバー上で伝える方法を考える必要があります。 いくつかの方法が提案されています。 一つは、photonの偏光をqubitの情報の担い手として利用することです。これを "Polarization Encoding" といいます。二つの偏光状態の重ね合わせとしてのphotonは、そのままファイバーの中を移動できます。また、この方式は、わかりやすいし、古くから研究されてきたものです。 ただ、この方式には弱点もあって、先にファイバー上でそのまま通せると言ったのですが、その状態は、ファイバーの距離が長くなると急速に失われます。現在では、ファイバーを通さない、フリースペースでの、例えば衛星との量子通信などに利用されています。(電波を使った通信も、Photon を使っているわけです。) もう一つの方法は、今回から紹介する time-bin qubit encoding です。 現在の量子通信の実験のほとんどは、time-bin qubit encoding を利用しています。 簡単にいうと、Polarization Encodingのように、偏光の重ね合わせを同時に送るのではなく、photonの量子状態を、短い時間で隔てられた二つの独立なパルスのペアとして送ろうとするものです。 今回は、このtime-bin を生成するのに利用されている Mach-Zehnder  干渉計の働きを紹介しようと思います。 【「time-bin qubit encoding (1) qubitの情報を光ファイバーにのせる -- Mach-Zehnder干渉計の利用」を公開しました 】 https://youtu.be/uVMO2tHQFaY?list=PLQIrJ0f9gMcMOZ

エンタングルメントを操作する

【 エンタングルメントを操作する 】 量子テレポーテーションは、量子の情報をそのままノードAからノードBに伝えることができる、量子通信の最も基本的な手段です。ただ、量子テレポーテーションを実行するためには、その前提として、ノードAとノードBがエンタングルメント状態にある必要があります。 量子テレポーテーションを使って、長い距離の量子通信を実行しようとするなら、その前に、長い距離を隔てたノード間のエンタングルメント状態を準備しなければならないということです。 それでは、長い距離のエンタングル状態を、どうやって作ることができるのでしょう? 今回は、この問題を考えてみようと思います。 実は、この問題を、先に見た「エンタングルメント・スワッピング」という奇妙な現象を使って解くことができるのです。 エンタングルメント・スワッピングというのは、次のような現象です。  「AとBがエンタングルしていて、   BとCがエンタングルしていれば、   AとCはエンタングルにできる。」 それは、二つのエンタングルメント ABとBCから、新しい一つのエンタングルメントACをつくることができるということです。 我々は、エンタングルメントを操作して、新しいエンタングルメントをつくることができるのです。 この時、エンタングルメントの距離を考えてみましょう。 もしも、ノードBがノードA とノードCを結んだ直線の中間にあるなら、エンタングルメントACの距離は、エンタングルメントABの距離にエンタングルメントBCの距離を合わせたものに等しくなります。 AC = AB + BC です。 ポイントは、新しくできたエンタングルメントACの距離は、元の二つのエンタングルメントAB, AC の距離より、大きくなったということです。 エンタングルメント・スワッピングによって、我々は、新しいエンタングルメントを作ることができただけでなく、元のものより長い距離のエンタングルメントを実現したのです。 もし、ネットワークの経路上の全てのノードが、少なくともっとも近いノードとはエンタングルメントしているなら、この操作を繰り返せば、経路上のどんな長さのエンタングルメントも実現できます。 すばらしい! 【 「Entanglement Swapping で Entanglementの距離を拡大する」を公開しました 】 https:

エンタングルメントは飛ぶんです

【 エンタングルメントは飛ぶんです 】 今回もエンタングルメントの話です。それも奇妙な。 今、AとBがエンタングルメント状態にあったとします。また、BはCともエンタングルメント状態にあったとします。 要は、Bは二箇所、AともCともエンタングルメント状態にあるということです。 この時、Bがある操作をすると、AとB、BとCのエンタングル状態は消え去り、AとCがエンタングルメント状態に入ります。AとB、BとCのエンタングル状態がAとCのエンタングルメント状態に置き換わったということで、この現象を Entanglement Swapping と呼びます。 先に「奇妙だ」と言ったのは、もともとは、AとCはエンタングルメント状態にはなかったのに、 AもCも知らないうちに、ある日突然、エンタングルメント状態に入るということです。 エンタングルメントは飛ぶんです! AとB、BとCのエンタングル状態は、AとCのエンタングル状態に飛んでいきます。 その引き金を引いたのは、第三者のBです。 僕らも知らないうちに、知らない誰かと、突然、エンタングルすることになったら面白いですね。 このEntanglement Swapping現象が、量子通信で非常に大事な役割を果たしうることを、次回は見ていきたいと思います。 【「Entanglement Swapping」公開しました 】 https://youtu.be/UuC54Os-p9I?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM 動画のpdfは、こちらからアクセスできます。 https://drive.google.com/file/d/1A5-kzWrhIcz5l3GhMq2HJ1htS8Yzc8qw/view?usp=sharing このシリーズのまとめページはこちらです。 https://www.marulabo.net/docs/q-net/ 4/30セミナーへのお申し込みは、次のURLからお願いします。 https://www.marulabo.net/docs/q-net/

量子通信の基礎 -- 量子リピーターの話

【 量子通信の基礎 -- 量子リピーターの話 】 次回から、トピックスが変わります。量子通信の本丸と言っていい「量子リピーター」の話を始めようと思っています。 実験室の中の短い距離ではなく、どれだけ長い距離で正確な通信ができるかに、量子通信の実用化の成否がかかっています。通信距離拡大と信頼性向上の鍵を握っているのが、「量子リピーター」です。 「量子リピーター」は、その役割から見れば、光ファイバー通信での「光ファイバー増幅器」に対応するものですが、異なるところがあります。光増幅器は、入力の信号を検知し(これは「観測」です)、それを増幅し出力します。これは、情報の「コピー」に他なりません。観測で状態が変わり、丸ごとの情報のコピーが不可能な量子情報の世界では、それはうまく機能しません。 量子通信の基本は、「量子テレポーテーション」です。そのためには、通信する双方のノードがエンタングル状態にあることが必要です、今回は、通信ノードの双方をエンタングル状態にする役割を「量子リピーター」が担っていることを中心にお話ししたいと思います。 ここでも、BBコンビのベネットたちが先駆的な仕事をしています。 次のような内容を考えています。  ● エンタングルメントと量子リピーター   ● Entanglement Swapping   ● 密度行列でみるエンタングルメント   ● エンタングルメントの純化・精製 -- BBPSW プロトコル  ● 量子エラー訂正と量子リピーター 今回の動画は、「量子テレポーテーション回路」を、Bell State Gate (BSG) とBell Measure Gate (BMG) をそれぞれ一つのブロックとして書き換えたものです。こうした簡略化は、次に見る Entanglement Swapping の理解に役立つと思います。 【「Bell State Gate とBell Measure Gateで量子テレポーテーション回路を記述する」を公開しました】 https://youtu.be/3TW_3Rn3fS4?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM 動画のpdfは、こちらからアクセスできます。 https://drive.google.com/file/d/1800ZvBzIznv7SU9ulzCRroD3sX