投稿

4月, 2021の投稿を表示しています

正しいコードを正しく書くこと

【正しいコードを正しく書くこと】 接触確認アプリ「COCOA」の不具合についての 調査報告書 を読んだ。少し、暗い気持ちになる。 不具合についての経過はこうだ。主に、二つの段階があった。 第一。「1.1.3 バージョン以前」 陽性者と「単なる接触」があっただけで通知が出てしまう不具合があった。 この不具合は、昨年8月ごろには、すぐに気づかれていた。なぜなら「市役所や企業で大量通知が発生して、保健所検査負担が増加する一方、ほとんど陽性者は出ないということで、大きな問題という認識」は生まれていた。 第二。「1.1.4 バージョンアップ」 主要に、先の問題に対処しようとして行われた、「1.1.4 バージョンアップ」で、Android端末上のCOCOAで大きな問題が発生する。Androidでは、濃厚接触に該当するケースでも、 必要な通知・表示まで、一切、出なくなってしまったのだ。 Android では、4つのパラメーターで算出されるリスク値の設定のミスで、濃厚接触を示す値が論理的に生じ得ない状況となっていたからである。悪いことに、その不具合に、4ヶ月もの間、誰も気づかなかった。(GitHub上では、指摘があったにもかかわらず) 二つの不具合を振り返ってみれば、「接触確認アプリ」の中核的な機能である「濃厚接触の有無のチェック」に重大なバグがあったことがわかる。 大量通知を乱発したは、1.1.3 バージョン以前のアプリは、「接触確認」についていえば、10年前にAndroid界隈ではやったすれ違い通信「すれちがったー」レベルのものだし、二つ目の1.1.4 バージョンのどんなに濃厚接触しても濃厚接触なしと答えるのは、「接触確認アプリ」としては最悪である。 こうしたバグは、テストをしないと見つからないものなのだろうか? 僕は、そうは思わない。もちろん、テストすることに反対しているわけではないのだが、今回のミスは、ちゃんと情報を集めて、ちゃんと考えれば気づくことのできた誤りだと思う。 実際に手を動かして当該部分のコードを書いた人には、きつい言い方になるかもしれないが、プログラマーは、どんな状況にあっても、正しいコードを正しく書くことを求められていると、僕は思う。 当面の僕の主要な関心は、ストレートで狭いもので、どうしてプログラマーがミスを犯したか、どうしてマネージャーがそれに気がつかな

MIP*=REの含意

【 MIP*=REの含意 】 [ ゲーデルの不完全性定理と MIP*=RE定理 ] 「MIP*=RE定理」というのは、MIP*という複雑性のクラスが、「決定不能」だということを述べている定理です。それは、ゲーデルの「不完全性定理」に端を発する、一連の「決定不能」型定理の一つと考えることが出来ます。 ゲーデルの結果は、人間の認識可能性の一つの限界を示すものとして、多くの人にいわば認識論的・哲学的なレベルで衝撃を与えました。 ただ、その方法の適用は、数学の基礎の理論の内側にとどまっていて、科学の方法論そのものに影響を与えることはなかったし、ゲーデルの定理が、他の数理科学の分野の問題解決に応用されたことはなかったように思います。 21世紀の「不完全性定理」とも呼ぶべき「MIP*=RE定理」は、この点では、明らかに様相が異なります。 それは、新興科学としての「コンピュータ・サイエンス」の「決定不能」型定理として登場したのですが、その定理は、狭い意味での 「コンピュータ・サイエンス」の枠を超え、純粋数学や物理学の基礎理論に、重要な応用を持つのです。 エンタングルしたnonlocalゲームの値の「決定不能」性は、量子力学の基礎の「ティレルソンの問題」に対する否定的な答えを導きます。また、この結果は、数学の作用素環論の長年の難問だった「コンヌの埋め込み予想」否定的に解決しました。   [ 計算可能性理論と計算複雑性理論の接するところ 「拡大されたCHテーゼ」の誤り] 計算複雑性理論は、計算可能性理論の達成を受けて、決定可能なもの(計算可能なもの)にフォーカスを合わせて、その現実的な計算の「手に負えなさ」の階層を研究することを課題としてきました。 MIP*=RE の左辺MIP*は複雑性のクラスで、右辺はREは、計算可能性理論の基本的カテゴリーです。 理論的には、計算可能性理論の枠組みの中でも、原理的には計算可能でも、いくらでも計算リソースを必要とする計算が存在することはよく知られていました。だからこそ計算複雑性理論が生まれたのですが。 ただ、計算可能性を「多項式時間」での計算可能性に制限することが当たり前のようになっていきます。これを「拡大されたチャーチ・チューリングのテーゼ」というのですが、それは間違ったものだと、思います。 [ 決定論的な認識と確率論的な認識 ] 証明へのInt

楽しい哲学 -- はじめに

【 4/10 マルゼミ「エンタングルする認識」「はじめに」を公開しました 】 4/10 マルゼミ「エンタングルする認識」の「はじめて」の部分を公開しました。ご利用ください。 サミナーは、現在受付中です。皆様のお申し込みお待ちしています。 https://philosophy-entanglement.peatix.com/   -------------------------     はじめに   ------------------------- 先のセミナー「エンタングルする自然」では、21世紀の自然観の中核に「エンタングルする自然」という自然観が生まれていることを紹介しました。今回のセミナー「エンタングルする認識」は、こうした自然観を我々がどのように形成・獲得してきたかをみようとしたものです。 「自然の認識」は、「自然」と「認識」という二つの項からできています。ただ、その二つの項はまったく切り離された別々のものではありません。「自然」が新しい相貌の下に立ち現れ始めたということは、「認識」の飛躍が起きつつあるということに他なりません。それは、人間が新しい認識のスタイルを獲得しつつあることを意味します。 筆者は、エンタングルメントの認識が、現時点での人間の認識能力の飛躍の中心舞台だと考えています。小論は、こうした進行中の転換を、1964年のベルの定理(第一部)、1985-6年の対話型証明の登場(第二部)、そして2020年のMIP*=RE定理(第四部)の三つのトピックを中心に概観したものです。これらは、1930年代のアインシュタイン、チューリング、フォン・ノイマンの仕事に淵源するものです。 量子コンピュター(第三部)のトピックは、「自然」と「人間の認識」という二項のコンテキストからではなく、「自然と人間と機械」という三項の関係として捉えるのがいいと考えているのですが、あまり展開できていません。(このあたりの問題については、機械の利用と認識能力の拡大を扱った次のショートムービーをご覧ください。https://youtu.be/j8flZDzL6yA?list=PLQIrJ0f9gMcMlJbm6pdZKdXwrzWSGyeqL ) 認識の「飛躍」と言いましたが、大きな飛躍には、歴史的に先行するやはり大きな飛躍があります。興味深いのは、歴史的飛躍を行った発見者自身(例

がんばれボイジャー 2

【がんばれボイジャー 2】 ♪ I'll send an SOS to the world   I hope that someone gets my   Message in a bottle, yeah ♪ 宇宙の広さを想像することは意味があると、先に書きました。 一つには、それが、私たちが自然に接する一つの仕方だからです。それも、とても大事な。宇宙について言えば、たとえ私たちの日常がどんなに自然から離れていても、私たちは宇宙を想像することができます。私たちの想像力には生まれつき宇宙が組み込まれているように。(仕事の合間にでも、是非、やってみてください。) 宇宙の広さを想像することには、もう一つの意味があります。 それは、それが、私たちが私たち人間について考える、とても大事な機会を提供してくれるということです。 二つのボイジャーは、Golden Disc と呼ばれる、人間からの「宇宙人」へのメッセージを積んでいました。当時のアメリカの大統領は、そのことの意義を国民向けに、次のように語りました。 「われわれは宇宙に向けてメッセージを送りました。銀河には2000億個もの星があり、いくつかの星には生命が住み、宇宙旅行の技術を持った文明も存在するでしょう。もしもそれらの文明の一つがボイジャーを発見し、レコードの内容を理解することができれば、われわれのメッセージを受け取ってくれるでしょう。われわれはいつの日にか、現在直面している課題を解消し、銀河文明の一員となることを期待します。このレコードではわれわれの希望、われわれの決意、われわれの友好が、広大で畏怖すべき宇宙に向かって示されています。」 ディスクには、次のように書かれています。 「これは小さな、遠い世界からのプレゼントで、われわれの音・科学・画像・音楽・考え・感じ方を表したものです。私たちの死後も、本記録だけは生き延び、皆さんの元に届くことで、皆さんの想像の中に再び私たちがよみがえることができれば幸いです。」  ディスクのコンテンツについては、次のNASAのページからすべてアクセスできます。https://voyager.jpl.nasa.gov/golden-record/whats-on-the-record/ 日本語のwiki ページ「ボイジャーのゴールデンレコード」からも、その概要を知ることができます

がんばれボイジャー

【がんばれボイジャー】 今日は、大嘘ついてもいい日だが、大きな事実だけ述べてみようと思う。 ♪ ボイジャーは太陽系外に飛び出した今も     秒速10何キロだっけ 今も旅を続けている ♪ 人間が作ったもので、今、地球から一番遠くにあるものは、1977年に打ち上げられたボイジャー1号とボイジャー2号である。 2021年現在、ボイジャー1号は時速6万kmで飛行して、太陽から227億kmの距離にある。それは、太陽系を取り巻く引力圏のバブルを飛び出し、初めて恒星間の宇宙空間に到達している。ボイジャー2号(時速5.5万km, 太陽から189億km)も、太陽系のバブルの外縁に到達している。この図をみてほしい。https://voyager.jpl.nasa.gov/galleries/illustrations/#gallery-4 地球と太陽の間を光は8分少しで到達する。地球から、約227億kmという距離は、光のスピードでも18時間くらいかかる。ボイジャー1号は40年以上飛び続けて、とんでもなく遠いところに到達している。 この図をみると、「ボイジャーがんばれ!」と、つい応援したくなる。 この図では、太陽を核として、太陽系が長い尾を引いているように見える。それは、太陽系自体が天の川銀河の中心にある巨大なブラックホールのまわりを猛烈なスピードで周回しているからである。 ただ、ボイジャー1号は、恒星間の宇宙空間に入ったと述べたが、太陽に「近い」恒星は、実は、とても「遠い」のだ。 ボイジャー1号が最初に接近する恒星は、地球から17光年はなれたへびつかい座の恒星Gliese 445で、それまで4万年かかると言う。ボイジャー2号は、8.7光年と地球に一番近い恒星シリウスの方向を目指すのだが、そこに接近するまで、およそ29万6千年かかると言う。 多分、誰もボイジャーの「応援」を続けることはできないのだ。 太陽系が属する天の川銀河の中で、地球に「近い」恒星に限っても、それくらい「遠い」のだから、観測可能な範囲だけでも2000億個の銀河が存在する 宇宙は、気が遠くなるほど広大だ。 その上、宇宙を構成しているのは、目に見える2000億個の銀河だけではない。我々の目には見えないし、直接観測できないもの暗黒エネルギー(68%)と暗黒物質(27%)が宇宙の大部分を構成しているらしいのだ。我々が知る宇宙