7/3 楽しい数学特別編「現代数学との向き合い方」のお知らせ



今回は、「楽しい数学:数理ナイト スペシャル」として、数学者の佐藤文広先生をお招きして「現代数学との向き合い方」というテーマでお話を伺います。その後、丸山との対談を予定しています。対談の司会は、MaruLabo監事の井上準二さんです。https://math-special.peatix.com/
数学者に「現代数学」の話を聴く機会は、あまりないと思います。多くの方の参加をお待ちしています。
難しい話なのでは心配する方もいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫です。佐藤先生は、平明で分かりやすく数学を語ってくれると思います。
余談ですが、佐藤先生と僕は、大学時代からの友人なのですが、司会をお願いした井上さんと佐藤先生とは、中学校の同級生だったそうです。奇遇です。
(今回のイベントは、四回シリーズの「楽しい数学」の番外編で、「オールナイト・チケット」の対象外です。「オールナイト・チケット」は、あと二回残っている「楽しい数学」で使うことになります。)
佐藤先生の講演概要です。
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「現代数学との向き合い方」
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数学は人類最古の科学といってよいでしょう。数学は数千年にわたるその歴史の中で、過去3回の大変革を経験しています。それは
  (1) 古代ギリシアにおける論証数学の成立
  (2) 17 世紀の微分積分学の成立
  (3) 19 世紀後半から20 世紀初めにかけての「現代数学」の成立
です。
今回は、この3 番目の大変革を取り上げます。ここで「現代数学」といっているものの特徴は
  (3-a) 公理的方法を採用し、
  (3-b) 集合の基礎の上にすべての数学の対象を構築すること
です。
20 世紀の前半では、このような方法をとる新しい数学はしばしば「抽象数学」と呼ばれました。今日ではそれは当たり前となってしまっているので、数学者がことさらに「抽象」を強調することはあまりないのですが、大学の数学科の学生からでも「抽象的で何をやっているのかよく分からない」と言われることが珍しくはありません。そこで、上のような特徴を持つ「現代数学」に対しどのような視点をもって向き合ったら自然な理解ができるのかについて考えてきたことをお話しするつもりです。
私が大事だと思っているのは、
  (A) まず、知りたいことがある(問題、問題意識)。そして、人はその知りたい対象にどのようにしたら接近できるのか?
  (B) 知ったことを記録・伝達する方法・言語が必要
  (C) 新しい知識はそれまでに得られた知識の上に付け加えられる
という、ごく当たり前なことをはっきりと意識しておくことです。
この3 つは別に数学に限ったことではなく、すべての知識・学問・科学で多かれ少なかれ共通していますが、数学はそれを独特なやり方で(例えば、(B) では独自に発達した記号システム、(C) では証明と体系化の徹底、のように)推し進めてきました。そして、その特殊性ゆえに、このすべての知識に共通する側面を忘れがちになる、それが数学の理解を難しくしてしまっているようです。
このことを頭に置いておいて、講演では
  1 自然数とは何か
  2 実数とは何か
  3 数体系はどこまで拡大できるのか(公理的方法と構成的方法)
  4 公理的方法によって可能になったこと
  5 空間とは何か
などをテーマとして議論していきます。4 月26 日、5 月28 日の2 回の「MaruLabo 数理ナイト」での話題との接点も多いはずです。
では予告編として、1 について具体的内容をちょっとだけ。
1.1 自然数とは何か、まず、自分流の答えを考えてみてください。
1.2 数学史上、いろいろな自然数の定義が与えられてきました。
 ・ユークリッド第VII 巻:
  1. 単位とは存在するものの各々がそれによって「一」(イチ)といわれるものである。
  2. また数とは単位を合わせた多である。
 ・数詞: 0; 1; 2; 3; 4; : : :, I, II, III, IV,: : :, 一、二、三、四、: : : のこと。
 ・デデキント・ペアノの公理系: 集合N について、N の各要素n に対しN の要素n′ が定まっていて、次の4 つの公理を満たすとき、これを自然数の体系といい、N の要素を自然数という:
   P.1.  N は0 と記せられる特別な要素をもつ。
   P.2.  0 = n′ となるn は存在しない。
   P.3.  m′ = n′ ならばm = n である。
   P.4.  N の部分集合M が
      1. M は0 を含む
      2. M がn を含めばn′ も含む
      という条件を満たすならば、M = N である。
 ・フォン・ノイマンの定義: ∅, {∅}, {{∅}, ∅}, {{{∅}, ∅},{∅},∅}, ...ただし、∅ は空集合を表す。
ユークリッドは紀元前4 世紀頃に活動していたと考えられています。数詞は、ある程度発達した文明は、完成度の差こそあれ、作り出していたでしょう。位取り法に基づくインド・アラビア数字はインドで7 世紀に、0 の記号は9 世紀に記録があるようです。デデキント・ペアノの公理系は19 世紀末、フォン・ノイマンの定義は20 世紀初頭に与えられました。
これらの異なる定義をどう考えますか? 
同じものを表しているのでしょうか? 
あなたの考えた自然数と同じですか? 違いますか? 
時代の新しい定義が正しい定義で、古い定義は誤った定義なのでしょうか?
このようなことを議論する中で、数学とは何か、現代数学の方法とは何か、が見えてくると思います。
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● 佐藤先生からの自己紹介
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立教大学名誉教授、津田塾大学数学・計算機科学研究所客員研究員
専門:群の表現論を用いてゼータ関数を調べること。広い意味では整数論。
著書:「これだけは知っておきたい{ 数学ビギナーズマニュアル」(日本評論社)、「石取りゲームの数学」(数学書房)
訳書:「整数の分割」(アンドリュース-エリクソン著、数学書房)

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