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8月のMaruLaboの活動について

【 8月のMaruLaboの活動について】 8月のMaruLaboの活動についてのお知らせです。 小又ゼミの日程が変更になり、片桐ゼミの日程が確定しました。  ===============================    MaruLabo が、8月に開催するセミナー  ===============================   ● 8月3日 MMM 平原ゼミ 第二回   「Coq スタートアップセミナー 」    https://www.marulabo.net/docs/coq-startup/  ● 8月5日 マルゼミ   「密度行列 ρ で理解する量子の世界」    https://rho-talk.peatix.com/  ● 8月14日 MMM 小又ゼミ 第一回   「誤り訂正符号の初歩―古典と量子」    https://www.marulabo.net/docs/komata/  ● 8月16日 MMM 浅海ゼミ 第一回   「クラウドアプリケーションのためのオブジェクト指向分析設計講座」      https://www.marulabo.net/docs/asami/  ● 8月20日 MMM 片桐ゼミ 第五回   「量子、情報、物理 — 量子情報と物理学入門 」     https://www.marulabo.net/docs/katagiri/    ===============================      MaruLaboのYouTube チャンネル  ===============================    ● "Maruyama Lectures" : https://www.youtube.com/c/MaruyamaLectures  ● "MaruLabo Micro Media" : https://www.youtube.com/c/MaruLaboMicroMedia

新しい「量子の理論」とエントロピー

【新しい「量子の理論」とエントロピー】 「量子力学」と「量子情報理論」の違いについて、物理的世界と情報の世界の違いを中心に書いてきたのですが、一つ強調したいことがあります。 それは、新しい「量子の理論」が、一見すると遠くへだたったもののように見える二つの世界、物理的世界と情報の世界の深いつながり、すなわち、物理的な世界の理解には情報の世界の理解が必要で、情報の世界の理解には物理的世界の理解が必要だということを明らかにしつつあるということです。 物理的世界と情報の世界という二つの世界を結びつける、我々にとって身近な概念が一つあります。それは、「エントロピー」です。 先に、量子力学では、"bit"を扱うことはまずないと書きましたが、それは正確ではなかったかもしれません。量子力学の前身の統計力学では、あるいは統計力学の前身の熱力学では、エントロピーは、中心的な概念でした。そして、シャノンの「情報理論」の登場が明らかにしたように、"bit"は、エントロピーの単位に他なりません。 新しい「量子の理論」が、物理的世界と情報の世界のより深いつながりを明らかにするのなら、既に巨視的・日常的な世界で、物理的世界と情報の世界という二つの世界を結びつけているエントロピーが、量子の世界で果たしている役割を知ることは重要なことです。 「量子情報理論」の重要なコンテンツの一つとして、エントロピー概念の量子の世界への拡張が含まれなければなりません。 -------------------------- この間、blogに、blogの内容とは無関係な当面のセミナーの内容紹介が混在していましたが、少し整理しました。次のインデックスをご利用ください。 --------------------------  ● 「あまり知られていないかもしれないこと」 https://maruyama097.blogspot.com/2021/07/blog-post_26.html  ● 「量子力学と量子情報理論の違い」 https://maruyama097.blogspot.com/2021/07/blog-post_27.html  ● 「量子力学と量子情報理論の関係について」 https://maruyama097.blogspot.com/2021/07/blog-p

量子力学と量子情報理論の関係について

【量子力学と量子情報理論の関係について】 量子力学と量子情報理論は別のものだと思った方がいいと前回書きました。少なくとも、80年以上前に定式化された「量子力学」の応用として「量子情報理論」が派生したと考えるのは、科学史・理論史的な歴史的な関心は別として、学習上の実践的なメリットはないように思います。 古い「量子力学」のテキストをひっくり返さなくても、直接「量子情報理論」の学習から始めることは十分に可能です。現在の時点では、僕は、むしろそれが「量子の世界を理解する」上では、望ましいアプローチだと考えています。 もちろん、両者は、理論的にも思想的にも、沢山のものを共有しています。そのことは明らかです。だからこそ、勉強を始めようとしている人でも、二つの理論が違うことに気づかないでいる人のほうがむしろ多いのです。 僕は、こう考えています。 より基本的な「量子の理論」が歴史的に形成されつつあって、その理論から見ると、「量子力学」は、その理論の物理学への応用であり、「量子情報理論」は、その理論の情報理論への応用なのだと。 もちろん、歴史的に先行したのは、物理学の「量子力学」です。ただ、そのことは、古い「量子力学」が「量子の理論」で最も基本的であることを意味しません。一般に、学の歴史では、最も基本的な認識は、学の発展の最後に生まれるものです。  「ミネルバのふくろうは、たそがれに飛び立つ」 それでは、新しいより基本的な「量子の理論」と、そうではない「量子の理論」を区別はどこにあるのでしょう?僕は、「エンタングルメント」と「エントロピー」を主要な考察の対象としているか否かが、そのメルクマールになると考えています。 それについては、次回、もう少し詳しく触れたいと思います。 まとめページ:https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/

量子力学と量子情報理論の違い

【 量子力学と量子情報理論の違い】 ここでは、物理学の「量子力学」と「量子情報理論」の違いについて述べてみようと思います。 どちらにも「量子」という名前がついているからでしょうか、二つの違いをあまり意識していない人が多いように思います。ただ、僕は、この二つは明確に異なるものだと考えた方がいいと思っています。 この区別は、実践的にも意味があります。量子コンピュータや量子通信の勉強を始めようと思った時に、必要なのは「量子情報理論」の学習です。古い「量子力学」のテキストの勉強から始めなければと考える必要はないと、僕は考えています。 物理学は、実在的な自然・物質を対象とします。「量子力学」は、物理学の一分野として、量子論の立場から、物理的な対象の運動法則の解明を目指します。情報理論は、情報を対象とします。「量子情報理論」は、量子論の立場から、情報を考察します。 「量子情報理論」では、「位置」や「運動量」や「エネルギー」(いずれも量子化されたものとして)を考察することはありません(アニーリング型の量子コンピュータでは、ハミルトニアンは大活躍するのですが)。「量子力学」では、これらは主要な考察の対象です。 一方、「量子力学」では、bit が主題になることはまずありません。「量子情報理論」では、bit あるいはその量子版であるqubitが、主要な考察の対象です。 今回は、両者の違いについて書きましたが、次回は、両者の関係について書いてみようと思います。 まとめページ:https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/

あまり知られていないかもしれないこと

【 あまり知られていないかもしれないこと】 ショートムービー「観測演算子の一般化」を公開しました! このコンテンツは、先に公開した「YouTubeで学ぶ量子論の基礎」の最終セクションの「 Lesson 6 観測演算子の一般化 POVM」と同一の内容を再録画したものです。 同じコンテンツを繰り返したのには、理由があります。 今回のセミナーは、状態ベクトルの言葉ではなく、密度行列の言葉で量子の世界の基本的な原理を記述することを目標にしているのですが、この新しい目標のためには、新しい枠組みが必要になります。その新しい枠組みへの転換が、このコンテンツから始まります。それは、量子の世界を理解するのには、とても重要な枠組みなのです。 今回は、その一つとして「観測演算子」の拡張として、POVM (Positive Operator Valued Measurement )という概念を紹介します。観測演算子は、射影演算子だけではないのです。 残念なことに、こうした定式化は、量子論の教科書にものってなくて、多くの人には、ほとんど知られていないようです。驚くべきことに、「量子力学」の専門家にとってさえそうだと、ある人は語っています。 These are the most general postulates of quantum mechanics and, surprisingly, never appear in any textbooks on the subject. There are two reasons for this. First of all, some people consider the present topic too difficult. However, more importantly, more people are not even aware of them, even when they work within quantum mechanics and its applications! まとめページ:https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/

Traceと密度行列

Traceというのは、行列の対角成分の和をとったものです。それだけですと、それがどういう意味を持つかは、直観的にはわかりにくいと思います。 一つ、はっきりしていることがあります。Traceをとるという演算は、多数の成分から構成されて独自の構造を持つ行列に、一つの数字を対応させるという演算だということです。それは、複雑なものに単純なものを対応づけるという意味では、二つのベクトルに、一つの数字を対応させる内積を取る操作に、似ているところがあります。 実は、Traceと内積には深い関係があります。 二つのベクトルの外積 |φ><ψ|は、行列を定義するのですが、この行列のTraceは、二つのベクトルの内積に等しいのです。(順序がちょっと変わっていますが)   tr(|φ><ψ|) = <ψ|φ> 量子の状態をベクトルで表すというスタイルでは、ベクトルの内積が重要な役割を果たしましたが、先のTraceと内積の関係式は、量子の状態を密度行列で表すというスタイルでは、行列のTraceが重要な役割を果たすだろうことを予感させるものです。 残念ながら、今回は、その話ではありません。セミナー全体を通じて Traceの果たす役割は明確になっていきますので、ご期待ください。 今回は、そのほんの入り口です。 続きは、YouTubeで! https://youtu.be/77F12wBBIjo?list=PLQIrJ0f9gMcMP-CPVK6wtgY3X7W4c0BSi スライド:https://drive.google.com/file/d/1J_wOe_Ukw2S41x9d25Ur_Bl17nGNB5Oo/view?usp=sharing まとめページ:https://www.marulabo.net/docs/rho-talk/

密度行列とは何か?

これまで、量子の状態をベクトルで表現してきました。例えば、量子ビットの状態は、状態ベクトルで表せば、|qubit> = a|0>+b|1> と、二つの状態ベクトルの「重ね合わせ」(ベクトルの和です)で表現されました。 それに対して、密度行列は、量子のシステムの状態を行列で表現したものです。では、どの ようにしてベクトルで表される量子の状態を、行列で表すのでしょう? 次のように考えます。ある量子システムで、状態|ψ_i>である確率をp_iとしましょう。この時、確率p_iを成分とする行列を考えます。 |qubit> = a|0>+b|1> の場合なら、|0>である確率p_0は |a|^2で、|1>である確率p_1は |b|^2になりますので、p_0とp_1、すなわち、|a|^2と|b|^2を成分とする行列を考えることにします。 ここでは、ベクトルの外積が行列になることを利用します。それでは、外積で作られる行列のどこにこの成分を割り当てるか考えましょう。うまい方法があります。 外積 |0><0|は、0行0列目の成分だけが1で、残りの成分は全て0の行列です。同様に、外積|1><1|は、1行1列目の成分だけが1で、残りの成分は全て0の行列です。 この時、p_0|0><0| + p_1|1><1|という行列として密度行列を定義します。0行0列目の成分がp_0で、1行1列目の成分がp_1の行列です。  ● 状態ベクトルを使った表示    |qubit> = a|0>+b|1>  ● 密度行列を使った表示    ρ = p_0|0><0| + p_1|1><1| = |a|^2|0><0| + |b|^2|1><1| 状態ベクトルを使った表示に出てくる a, bは複素数ですが、密度行列を使った表示に出てくる p_0, p_1 は、確率ですので 0と1の間に値を持つ実数です。これは、二つの表示スタイルの大きな違いです。 密度行列を作るのに利用した、確率 p_iと状態|ψ_i>のペア { p_i, |ψ_i> }の集まりを、「pureな状態のアンサンブル」といいます。その意味は、この量子システムで、状態|ψ_