カテゴリー論を学ぶためのテキスト 紹介

【 カテゴリー論を学ぶためのテキスト紹介 】

2月のセミナー「カテゴリー論入門」というテーマでやりたいと思っています。

かつて、カテゴリー論は、抽象的でとっつきにく、何の役にたつかもわかりにくかったため、"general abstract nonsense" = 「一般化しすぎで、抽象的過ぎて、現実には何の役にもたたず無意味なもの」と多くの人に受け止められていました。

ただ、現代では、様相が変わっています。

21世紀になって、カテゴリー論を数学の内部にとどまらず、さまざまな分野、例えば、物理学、論理学、コンピュータ・サイエンス、ネットワーク論、化学反応論 ... 等々に応用しようという「応用カテゴリー論("Applied Category Theory" =  ACT)」と言われる動きが活発になります。

こうした動きの代表的な論文は、John BaezとMike Stay の”Physics, Topology, Logic and Computation:"A Rosetta Stone”  https://math.ucr.edu/home/baez/rosetta.pdf です。

ですので、今、カテゴリー論を学ぼうとするのなら、この応用カテゴリー論が何を目指し、どのような研究をしているのを知ることから入るのが、一番いいと僕は考えています。

いくつか、入門用のおすすめのテキストを紹介しておこうと思います。

ひとつは、Tai-Danae Bradleyの "What is applied category theory?"  です。
https://arxiv.org/pdf/1809.05923.pdf

彼女については、だいぶ前のマルレク「人工知能と意味の形式的理論」  
https://www.marulabo.net/docs/semantics/ で、DiscoCatのメンバーとして紹介したことがあります。

彼女のホームページ、https://www.math3ma.com/ も必見です。とてもわかりやすく、カテゴリー論の基本概念がまとめられています。

二つ目のおすすめのテキストは、Brendan Fong と David I. Spivak の "Seven Sketches in Compositionality: An Invitation to Applied Category Theory" です。https://arxiv.org/pdf/1803.05316.pdf

Brendan Fong は、現在は、Topos Institute https://topos.institute/ の中心人物ですね。

この本の中の図を一つ紹介します。

何か複雑なカテゴリーの関係を表しているように見えるのですが、よくみると、レモン・メレンゲ・パイのレシピです。20世紀のカテゴリー論の教科書では、ありえない例です。

彼らの本は、最初の章から読まなくても、どこから読み始めてもいいように作られています。これも面白いです。

三つ目に、ディスコ猫やレモン・メレンゲ・パイなんかで大丈夫かと心配になった人に、おすすめなテキストがあります。

Emily Riehl の "Category Theory in Context" です。https://math.jhu.edu/~eriehl/context.pdf

冒頭に、Atiyahの次の言葉が引用されています。

" The aim of theory really is, to a great extent, that of systematically organizing past experience in such a way that the next generation, our students and their students and so on, will be able to absorb the essential aspects in as painless a way as possible, and this is the only way in which you can go on cumulatively building up any kind of scientific activity without eventually coming to a dead end. "

彼女の本は、カテゴリー論の基本的概念が、それまでの数学のさまざまな取り組み、さまざまな概念とどういう関係にあるのかを丁寧にあとづけています。カテゴリー論がどのようにして生まれてきたのかを示す労作です。

最後に、実は、MaruLaboには、「量子過程を図解する「String Diagram入門」」というページがあります。https://www.marulabo.net/video/string-diagram/
このページに対応して、YouTubeチャンネルには,「String Diagram 入門」というショートムービーの再生リストがあります。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcOVbpp5sFI3IEzSQG9hsKIS

String Diagramは、応用カテゴリー理論で愛用されている Symmetric Monoidal Category の図式的な表現法です。

先のページ/再生リストは、応用カテゴリー論の代表的な取り組みの一つである、Bob CoeckeとAleks Kissingerの "Picturing Quantum Processes"
https://www.amazon.co.jp/-/en/Bob-Coecke/dp/110710422X
の、最初の基本的な部分の紹介になっています。

ムービー、無声映画なのが残念なのですが、是非、ご覧ください。


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