万延元年のアメリカ情報

スコット・アレクサンダーという作家がいる(SF作家かもしれない。"Science Fiction"じゃなくて"Speculative Fiction"だと、誰かが言ってた)。彼のblog("Slate Star Codex")、時々見ているのだけど、そこで見つけた画像。https://goo.gl/vZRpiy


2020年11月21日が、メイフラワー号アメリカ到着の400周年に当たるらしく、アメリカでは、自国の歴史への関心が高まっているのかもしれない。

この絵は、江戸時代の1861年に日本で出版された「童繪解萬國伽」("Osanaetoki Bankokubanashi"と読むらしい)からのもの。コロンブスのアメリカ大陸「発見」から、イギリスからの独立戦争までのアメリカの歴史を、日本の読者に伝えている。

160年前の日本人の知識欲は驚くほど旺盛である。もっとも、黒船騒ぎでアメリカへの関心は高かったのだろうが。でも、江戸時代にこんな形で、アメリカについての情報が広まっていたのは知らなかった。これ、子供向けの本ということになっている。

1860年は、万延元年だ。幕府はアメリカに大型の遣米使節を派遣して同年11月日本に帰ってくる。僕は、勝海舟や福沢諭吉やジョン万次郎もこの使節団の一員だと思っていたのだが、違うようだ。彼らは、この使節団を護衛する咸臨丸に乗っていた。(「万延元年遣米使節団員名簿」https://goo.gl/ArGZ53 ) 多分、そこでの知見が、この本に生かされているのだと思う。

確かに、いろいろおかしいところはある。弓を引いて戦っているのは、ワシントンだという。「國父 話聖東」は「建国の父 ワシントン」だ。(絵師は、アメリカ見ていないのだから。インスタもなかったし。)

ジョン・アダムスの母は、大蛇に飲み込まれ、アダムスはその敵討ちをするらしい。おいおい。ほとんどフェークだ。

「独立」とか「民主主義」がどう紹介されていたのか、興味があったのだが、ワシントンが虎と素手で戦い、アダムスが巨大なワシを召喚して大蛇と戦うんだから、多分、そんな話は出てこないだろう。

でも、160年前の日本人、一生懸命、こうした情報集めてたんだな。エライと思う。この本だけではないのだ。あとで見るNick Kapur氏は、この本の元になった二つの本をあげている。"Kaikoku Zushi" (海国図志) and "Amerika Ittōshi" (亜墨利加一統志). きっともっとあったと思う。

早稲田の電子アーカイーブに、この本の全部の画像がある。https://goo.gl/c7fsCa

ただ。悲しいことに、僕は、うまくこの本の日本語が読めないのだ。

ある人が、親切に画像の解説をしてくれている。ただし、英語で。Nick Kapur 氏のTwitter https://goo.gl/A8h6XA

160年前の絵のアナクロぶりとストーリーの荒唐無稽さを笑っていたのだが、160年前の彼らに笑われるべきは、日本人なのに子供向けのひらがなもろくに読めない僕の方かもしれない。

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