Inventing Ourselves: The Secret Life of the Teenage Brain


 恋は盲目。
 恋人たちは、自分たちが犯している
 ひどい愚行を、自分では見ることができないのだ。

シャイロックの娘ジェシカは、父の財産を持ち出してキリスト教徒と駆け落ちする。これが金貸しシャイロックが、キリスト教徒のアントーニオを憎む理由の一つとなる。かわいそうなシャイロックと馬鹿な若い娘。

ジェシカに限らず、シャークスピアの作品に登場する「若者」は、とても若い。
佯狂ハムレットに「尼寺に行け」と罵倒され、身勝手な狂言に翻弄されて、川に身を投げるオフィーリアは、多分、10代前半だ。可哀想な幼いオフィーリア。ハムレットは生き延びる。

イギリスの脳科学者、サラ・J・ブレークモアの"Inventing Ourselves: The Secret Life of the Teenage Brain" を読む。https://goo.gl/QoLX6o

 「思春期の若者の脳を研究しているの。」
 「十代に脳なんかあったっけ?」

彼女の研究手法は、MRIを使って脳を観察するのだが、同じ集団をずっと追いかけて、その経年変化を見るというもの。この本の大事な結論は、子供の脳とも大人の脳とも、思春期の脳は違うということ。思春期に起きる脳の変化は、特別なのだという。

確かに、男子なら声変わりしヒゲが生え、女子なら生理が始まり胸が大きくなる。(あいみょんが歌っている) こうしたドラスティックな変化が脳の中でも起きるというのだ。言われてみれば、確かにそうだろうと思う。

自意識が芽生え、危険を顧みず行動し、仲間の影響を強く受けること。そうした思春期の行動の特徴は、古今東西・民族・文化を問わず共通しているという。(「学校」ができる遥か以前から)こうした向こう見ずな若者の行動が、芸術にインスピレーションを与え、歴史的なインパクトを与えたことも数多くある。

日本には、「中二病」という言葉があるのだけれど、この本のサブタイトルの「十代の脳の秘密の生活」は、同じ問題を分析しているのだ。ただ、彼女は、それを単なる逸脱行動とも、知能の弱さ、常識・大人らしさの欠如としては捉えない。そうした時期を過ごすことは、人間が人間になるためのとても大事な経験なのだという。創造性も感情の豊かさもこの時期に生まれる。どのように思春期を過ごすかが、その後の人間形成に決定的な影響を与えるというのだ。

「中二病」が「病気」なら、「大人病」だってありそうなものだ。

この本、僕のような年寄りには、嬉しいことも言ってくれている。

脳は非常に柔軟で、適切な刺激を与えると、年齢にかかわらず変化し続けることができるという。本当かな? 本当だといいな。違うかもしれないけど。


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