量子テレポーテーションをめぐるエピソード
【 量子テレポーテーションをめぐるエピソード 】
これまで、 BB84の「量子キー配布」を見てきたのですが、今回からトピックが「量子テレポーテーション」に変わります。
実は、BB84をつくった同じ Bennett,とBrassardのBBコンビが、「量子テレポーテーション」の発見者です。二人と共著者の論文がでたのは 1993年のことでした。実験でそれが確認されたのは、1997年だったと思います。
量子コンピュータの世界では、「Shorのアルゴリズム」のShorが有名なのですが、量子通信の世界でのBennet たちの活躍も素晴らしいものです。「BB84」にしろ「量子テレポーテーション」にしろ、現在の量子通信の世界の基本的なアルゴリズムは、この二人に負うところが大きいのです。
重要なことは、発見者のアインシュタインさえが「そんなのありえない!」と叫んだ、日常の生活には縁遠い「理論物理学」上の「奇妙」な現象と考えられていた「エンタングルメント」に、はじめて技術的な応用の可能性が見つかったと言うことだと思います。
今回は、量子テレポーテーションを可能にする量子回路とその働きの概要を紹介します。
AliceとBobがエンタングル状態にあるとき、簡単な量子回路で、Aliceのもつqubitの状態をBobにそのまま送ることができるのです。
その回路は、CNOTゲートとHゲートとXゲートとZゲートの、わずか四つの量子ゲートから構成されています。実際には、エンタングルメント状態を作るのにあと二つほどゲートが必要なのですが、それを加えても6個の量子ゲートで量子テレポーテーション回路ができてしまいます。普通の電子回路で言えば、「半加算器」なみの単純さです。
Shorのアルゴリズムを実行する量子コンピュータに必要とされる量子ゲートの数より、桁違いに少ないゲート数で「量子テレポーテーション回路」を作ることができるのです。
僕は、量子コンピュータより量子通信の実用化の方が早いだろうと考えているのですが、それは、こうした実装の容易さが一つの理由になっています。
もうひとつ。エンタングルメントについてです。我々はその「奇妙さ」ばかりに目が行きがちなのですが、先にも述べたように、エンタングルメント状態は、たった二つの量子ゲート(CNOTとHゲート)で、簡単に実現できます。
そのことは、エンタングルメント状態というのは、物理学者が実験室で苦労して作り上げる特殊な状態などではなく、我々の身の回りにごく普通に存在していることを示唆していると僕は考えています。
「Hゲートなんか、近くで見たことない。」
と思うかもしれません。
確かに。Hゲートは、一番量子ゲートぽい量子ゲートなのですが、その働きは、基本的にはコインを投げることと同じです。
先に、「量子論抜きでBB84をシミレートする」という思考実験を紹介したのですが、本当に伝えたかったメッセージは、量子論なしですませようということより、量子論的な振る舞いの少なくない部分は、日常の言葉と振る舞いに翻訳できるということです。
なぜなら、おそらくは物理的世界にエンタングルメントが遍在するように、我々の日常も、量子論的なランダムさと偶然性に満ちているからです。
量子テレポーテーションについては、面白いエピソードがあります。
ある研究会で Bob Coecke は、こういう問いかけをしました。
「量子テレポーテーションが発見されるまで、なぜ、60年もかかったのでしょう?」
確かに、アインシュタインが「エンタングルメント」を発見した 1935年から、Bennett,とBrassard たちが「量子テレポーテーション」を発見する 1993年まで、約60年かかっています。
偶然(!)、会場にBrassard がいて、彼はこう答えたといいます。
「以前には、誰も、量子論の情報処理論的な特徴などを考えたことがなかったのです。」
「そういうわけですから、単純にいえば、誰もそうした問いを立てることを考えませんでした。」
逆に言えば、物理学の一分野としての量子論の世界から量子情報の世界が分離し、量子通信の世界が生まれてから、まだ30年もたっていないということです。
未来の量子ネットワークの中心技術が、エンタングルメントを利用した「量子テレポーテーション」技術であることは、今後、ますます明らかになっていくだろうと、僕は考えています。
【「エンタングルメントを利用した量子通信」を公開しました 】
https://youtu.be/2bGo9oiezo0?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM
https://drive.google.com/file/d/16MlBDh-_9gPyLBHrJ6-Mm4Iejjl-P0BP/view?usp=sharing
https://www.marulabo.net/docs/q-net/
コメント
コメントを投稿