コピーができない!
【 コピーができない!】
「量子テレポーテーション」という大袈裟な名前にかかわらず、結局は、アリスからボブに、追加の情報を普通の通信手段で送信しなければ「テレポート」が完了しないことを先に見てきました。ちょっとがっかりかもしれません。
それなら、いっそのこと量子の情報を、普通の通信手段で送ればいいじゃないかと考えた方もいらっしゃると思います。
「qubitの状態が、a|0> + b|1> で表されるなら、
普通に、a と b を送ればいいだけじゃない?」
ところが、そうはいかないのです。
qubitの状態を知るためには、qubitを観測しなければなりません。ただ、観測した途端、qubitの重ね合わせの状態は破れて、|0> または |1> の状態しか観測されないことになります。観測しても、a, b の情報は得られないのです。
遠まわりですが、a, b についての情報を得る方法はあります。
何度も繰り返し観測すれば、|0> を観測する確率は |a|^2 に、|1> を観測する確率は |b|^2 に近づきます。ただ、これでは、ラチがあきませんし、得られる情報は、確率的なもので正確なものではありません。
量子情報の定理に、こんなのがあります。No-Cloning 定理と言います。量子情報の最も基本的な定理の一つです。
「量子の情報は、コピーできない」
変ですね。我々の世界は、基本的に量子の世界の上に成り立っているはずです。我々の世界では、コピー機を使って書類のコピーはできます。コンピュータではデータのコピーは当たり前です。YouTubeは一つの動画データから沢山の動画のコピーを配信しています。我々の世界の情報は、コピー可能です。
それは、こういうことです。(正確な説明は、別の機会に)
ある性質を満たす特殊な情報だけが、コピー可能な性質を持ちます。我々が日常目にする情報は、量子の情報の世界から見れば、特殊なタイプの情報に他ならないのです。一般的には、量子の情報はコピーできません。
「ちょっと待って。量子テレポーテーションは、
アリスの持っている情報のコピーをボブに
送っているんじゃないの?」
いいところに気づきましたね。でも、あれは、情報のコピーじゃないんです。
前回見たように、アリスはボブに情報を送るのですが、その情報はアリスが量子テレポーテンション回路上で行う観測によって得られたものです。(回路図上の「メーター」のアイコンは「観測」を表しています。)
このアリスの観測によって、アリスが元々持っていたqubitの情報は、この時点で失われます。ボブが得たのは、新たに構成されたqubitです。結果として、このqubitの情報は、アリスの失われた情報と一致します。
「屁理屈みたい。」
そうかもしれません。ただ、エンタングルメントを利用した量子テレポーテーション回路によって、量子情報の基本定理「No-Cloning定理」が禁じている量子情報のコピーと、事実上同じ働きを獲得できるのは、とても大事なことです。
普通の通信の基本的な機能が、1ビットの情報を正確に送ることにあるように、量子通信の基本的な機能は、一つの量子ビット qubitの情報を正確に送ることです。量子テレポーテーションは、そのプロトコルを提供しています。
こうして、量子通信には、エンタングルメントの利用が不可欠であることがわかります。
【「Bell State GateとBell Measure Gate」を公開しました】
このblog 記事と動画の内容は対応していません。
https://youtu.be/7uEUArokyJ8?list=PLQIrJ0f9gMcMOZpuJsAE6UvyX4g0_TYnM
動画のpdfは、こちらからアクセスできます。https://drive.google.com/file/d/17Pwogk8NdQKSQmOIiTtexpi04yG6v5Xa/view?usp=sharing
https://www.marulabo.net/docs/q-net/
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