簡潔なのにはワケがある
【 簡潔なのにはワケがある 】
今回のセミナーでは、シャノン・エントロピーの式が、どのような「条件」が与えられれば導出できるのかを見てきたのですが、バエズの定式化が一番簡潔なように思います。
改めて、もう一度見ておきましょう。
1. 𝐹( 𝑓∘𝑔 ) = 𝐹(𝑓) + 𝐹(𝑔)
2. 𝐹(𝜆𝑓 + (1−𝜆)𝑔) = 𝜆𝐹(𝑓) + (1−𝜆)𝐹(𝑔)
3. 𝐹は、連続的である
どれも、わりと自然な形をしています。
これと比べると、シャノンの証明に出てくる A(s^m) = mA(s)という関数等式は見慣れないものでしたし、Faddeev-Leinsterらのchainルールは、たくさんの変数と総和記号をふくんだ複雑な式でした。
この三つの条件だけで、あの奇妙な形のシャノン・エントロピーの式が導かれるというのは、にわかには信じられない気がします。
バエズのこの仕事の最大のポイントは、「エントロピーは、Functor に他ならない」と喝破したことにあります。
「どこにも、そんなこと書いてないじゃないか」と思われたかもしれません。実は、条件1. の 𝐹( 𝑓∘𝑔 ) = 𝐹(𝑓) + 𝐹(𝑔) がFはFunctor であることを主張しています。
カテゴリー論の教科書には、Functor Fの要件として 𝐹( 𝑓 ∘ 𝑔 ) = 𝐹(𝑓) ∘ 𝐹(𝑔) というのがあると思いますが、条件1.は、この要件の射の合成を表す右辺の '∘'が'+'に代わったものです。なぜなら、Functor F のdomainとなるカテゴリーでは、射の合成は和で定義されているからです。
ですので、バエズの三つの「条件」は、次のように言い換えることができます。
1'. Fは、Functor である
2' Fは、線形(convex linear)なFunctorである
3' Fは、連続的なFunctorである
バエズの定義が簡潔なのには、訳がありました。それは、カテゴリー論を利用しているからです。それにしても、この条件だけから、シャノン・エントロピーの定義が導けるというのは驚きです。
Leinster は、エントロピー論にとってのカテゴリー論の威力と魅力について、こういう言い方をしています。
「入力に、シンプレックス(∆_𝑛)と実数軸が与えられれば、出力にシャノン・エントロピーの概念を返す、一般的な能力を持つカテゴリー論的マシンが存在する!」
素晴らしい!
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