「密度行列 ρ で理解する確率の世界」講演資料・講演ビデオ公開

   【 ことばと意味をめぐる驚くべきビジョン 】

「古典論・量子論・確率論」という三つのお題を並べると、「古典論と量子論を確率論が結びつける」という話だろうと思われる方が多いと思います。

こうした見方は、古典論から見ても量子論から見ても、一つの「確率論」が両者を結びつけると考えることになります。

ただ、我々が一つの確率論だと思っていた確率論の背後に、もう一つ別のより基本的な確率論があるのなら、「古典論と量子論を確率論が結びつける」という聞き慣れた古いストーリーはどう変わるのでしょう?

この古いストーリーは、また、決定論が支配するマクロな古典論の世界と、確率論が支配するミクロな量子論の世界を、わかりやすくはっきりと区別する考え方でもあります。

もしも、確率論が一つの顔しかもたないのではなく、古典論的確率論と量子論的確率論という二つの顔を持ち、かつ量子論的確率論が基本的なものであるなら、古典論の世界と量子論的世界の関係は、どう変わるのでしょう?

こうした確率概念の変化は、数学的な定義の変更で、もともと確率的な世界と考えられていた量子の世界には、それほど大きなインパクトを与えるものではないかもしれません。ましてや、我々が住む日常の世界にとっては、確率概念の量子論的見直しなどは、なんの影響もないと思われるかもしれません。

ただ、どうやらそうではなさそうなのです。

我々人間にとって最も基本的で日常的な活動である言語活動は、ことばが意味を持ち、我々が自由に意味を持つことばを生み出すことができるという能力に支えられています。

ことばの生成は決定論的で代数的な文法のルールに従います。ただ、ことばの意味は、量子論的確率論に従っているらしいのです。ことばの意味は、量子状態と見なすことができるというのです。

こうしたビジョンは驚くべきものです。ミクロな量子の世界とは遠く隔たっているように見える日常の世界のど真ん中に、目に見える形で量子論が活躍する世界が存在しているというのですから。

ただ、見方を少し変えると、そうした認識に近いところに、我々が立っていることに気づくことができます。

現在の「大規模言語モデル」の成功は、その多くを、ことばの意味を多次元の実数ベクトルで表現する「意味の分散表現論」におっています。それは、ことばの意味を、二次元の複素数ベクトル(qubit)なり、密度行列で表現するのと、非常に近いアプローチです。後者のアプローチは、量子状態として意味を捉えることに他なりません。

また、機械学習のアルゴリズムで、テンソル・ネットワークの手法の導入が活発に研究されていることも、こうした「接近」の傍証になると思います。

2/25 マルレク「密度行列 ρ で理解する確率の世界」講演資料・講演ビデオ公開しました。

このセミナーは、量子論で量子の状態を記述するものとして導入された密度行列が、直接に、確率として解釈できることを示し、古典論的確率論から量子論的確率論への移行のみちすじを示したTai-Danae Bradleyの議論を紹介したものです。

残念ながら、このセミナーでは、こうした議論と、ことばと意味の新しい把握については触れていません。ただ、その基礎にある議論として、大事な意味を持っています。

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「密度行列 ρ で理解する確率の世界」のセミナーの講演ビデオ全体の再生リストのURLです。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcNzep29QOkd_7ZXC7DgAN5j

この再生リストは、次の三つのビデオを含んでいます。個別に再生できます。

 ●  Part 1 結合確率と周辺確率

https://youtu.be/VG7SDdpqB9A?list=PLQIrJ0f9gMcNzep29QOkd_7ZXC7DgAN5j

 ●  Part 2 Bra-Ket記法とテンソル・ネットワーク記法

https://youtu.be/W_NsRNGLxCE?list=PLQIrJ0f9gMcNzep29QOkd_7ZXC7DgAN5j

 ●  Part 3 古典論的確率と量子論的確率

https://youtu.be/cRzABNFjM-g?list=PLQIrJ0f9gMcNzep29QOkd_7ZXC7DgAN5j

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講演資料は、次からアクセスできます。今回は、二つの資料があります。

「密度行列 ρ で理解する確率の世界」

https://drive.google.com/file/d/1Meqh8C_NjYiN-4_6GqLY0IGAKiZykI5k/view?usp=sharing

「テンソル・ネットワーク入門」

https://drive.google.com/file/d/1MbrfWwfV0-GMjpiu2PWAlAnO8KAokl0k/view?usp=sharing

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「密度行列 ρ で理解する確率の世界」セミナーのまとめページはこちらです。

https://www.marulabo.net/docs/density2/

セミナーに向けたショートムービーの再生リストです。こちらもご利用ください。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcOByaj0vK9cnGyaEUFUadh4

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