証明と実験
【 証明と実験 】
物理では、有名な実験がたくさんあります。ノーベル物理学賞の多くは、そうした実験に与えられています。最近ですと、LIGOでの重力波の検出、CERNの加速器LHCでのヒッグス粒子の検出等が有名です。今回取り上げるベルの定理とアスペによる実験での検証も、その一つです。
物理学の理論は、「基本的には」実験によって検証されることが求められます。
理論と実験とは、二つの異なるプロセスです。物理学が、この二つのプロセスを要求していることは、実験を必要としない数学との大きな違いです。数学にとって必要なことは、実験ではなく証明です。
ただそのことは、実験で検証されていない理論が、物理学的には正しい理論とは認められないことを意味しません。
重力波やブラックホールの存在は、近年まで実験的には検証されたわけではありませんでした。そのことを理由に、それらの存在を予見したアインシュタインの重力理論は正しいとは認められないという科学者はいないと思います。
事実、現在多くの物理学者が正しいと信じている物理理論、たとえば超弦理論は、実験によって検証されているわけでは必ずしもありません。
理論と実験による検証との間に、こうしたズレが起きるのには、いくつかの理由があります。
一つには、正しい物理理論がすぐに実験によってその正しさが検証されるとは限らないからです。
今回の例でいえば、アインシュタインがエンタングルメントを発見したのは1935年。ベルが理論的にエンタングルメントの実在性を示したのは 1964年。30年近くかかっています。ただ、ベルが示したのは、それは理論的な証明でした。
アスペが実験でそれを検証したのは 1982年。ベルの定理から20年近く、アインシュタインらのEPR論文からは、50年近くかかっています。(一般に広く知られるようになったのは、多分、2022年のノーベル賞からです。)
理論と実験による検証にずれが生ずるもう一つの理由があります。それは、検証実験に膨大なエネルギーを必要として、既存の技術では実験装置自体、構築できない理論も存在するからです。
20世紀の量子論の集大成である素粒子の「標準モデル」の最後のピースであるヒッグス粒子が21世紀に検出されたのは、CERNの加速器の能力がこの粒子を検出できるまで拡大・増強されたからに他なりません。(あるいは、到達可能なエネルギー範囲にヒッグス粒子が存在したことは、ラッキーだったのかもしれません)
ただ、超弦理論や大統一理論の実験的検証には、CERNの加速器の改修で手が届きそうには、思えません。また、宇宙の生成・発展・消滅を対象にした理論も、実験ができるとは思えません。
もちろん、超弦理論でも宇宙論でも、実験にかかる検証の道を考えている研究者は少なくないと思います。そうした研究が大事なことは言うまでもありません。
こうした、理論と実験のずれの説明は、話は壮大ですが、むしろわかりやすいものです。
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