証明と検証 -- 証明とは何か?

【 証明と検証 -- 証明とは何か? 】

ここまで、2019年のGoogleの「量子優越性」の実証実験、1982年のファインマンの自然をシミレートする量子コンピュータのアイデア、1964年の自然の非局所性を示す「ベルの定理」と、時間を遡ってきましたが、ここから、時間を普通の流れに戻します。

ファインマンの提唱で量子コンピュータの取り組みがはじまった1982年は、アスペたちが「ベルの定理」の実証実験に成功した年でもあります。この1982年をターニング・ポイントとして、現代科学を捉えるのは、面白いかもしれません。

前回、物理学の理論は、基本的には、実験によって検証されることが求められるということと、ただ、物理学の理論を実験で検証するのは、なかなか難しくなっているという話をしました。

確かに、実験による検証を、物理理論の正しさの要件にする必要はないという考えはあり得うるかもしれません。それは、「物理学の数学化」と言っていい考えなのですが、数学的な正しさ、体系性のある理論、「美しい理論」は多くの人を惹きつけるものです。

ただ、ここでは、逆の話をしたいと思います。数学の「正しさ」についての考え方も大きく変わってきていると言う話です。1990年代に入って、数学的証明についての考え方に大きな転換が起きます。"Interactive Proof" 「対話型証明」の登場です。

Interactive Proofの特徴は、「証明者」と「検証者」を分離し、証明を 「証明者」と「検証者」の両者の「対話」の過程として捉え返すことです。

証明は、もともとが正しい推論によって導かれているから正しいのだと考えることと、正しいと検証されるから正しい証明だと考えることは別のことです。Interactive Proofのアプローチでは、正しいと検証されたものが正しい証明であるとされます。

物理理論が実験による検証が必要であるように、数学もそれが正しいことを示すためには、検証というプロセスが必要だと言うことです。

さらに興味深いことは、こうしたアプローチでは、これまで決定論的に進行すると思われていた「数学的証明」は、非決定論的で確率的な性格を帯びることになります。非決定論的で確率的! これは古典論的な物理学に対する量子論的な物理学の特徴と同じものです。

「物理の数学化」だけをみていると、大事な変化を見落とします。「数学の物理化」は、もっと驚くべき現象です。

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「Interactive Proofと証明概念の転換 」を公開しました。

スライドのpdf
https://drive.google.com/file/d/1NBVIn7CIt8lXZmOrK2KwXC1_Bz_gej80/view?usp=sharing

blog:「証明と検証 -- 証明とは何か? 」 
https://maruyama097.blogspot.com/2022/11/blog-post_9.html

まとめページ「量子計算の古典的検証 」
https://www.marulabo.net/docs/cvqc/

参考資料

MaruLabo 「チューリングマシンの拡大と複雑性」https://www.marulabo.net/docs/turing-complex/

MaruLabo 「コンピュータ・サイエンスの現在 -- MIP*=RE定理とは何か?-- 」
https://www.marulabo.net/docs/cs-mipstar/

MaruLabo 「MIP*=RE 入門 -- Interactive Proofとnonlocal ゲーム -- 」
https://www.marulabo.net/docs/mipstar/






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