145億年間、宇宙を旅した光子の物語
【 145億年間、宇宙を旅した光子の物語】
#Column
2022年に日本の天文学者が、宇宙で地球から最も遠くにある銀河を発見しました。地球から、145億光年離れた銀河です。その銀河は「HD1」と名付けられました。
宇宙がビッグバンで誕生してから148億年と言われていますので、HD1は宇宙誕生のわずか3億年後に生まれたことになります。天文学者がHD1の観測に成功したということは、彼らは145億年もの間宇宙を旅してきた光と出会うことができたということです。
【 印象的な「宇宙から見た地球」の姿 】
これまでも、私たちは「宇宙から見た地球」の姿に強い印象を受けてきました。
アポロ8号が撮影した月の地平線から地球が上る「地球の出」という写真、アポロ17号が撮影した漆黒の宇宙に青い地球が浮かんでいる「ブルー・マーブル」という写真、ボエジャー1号が撮影した太陽系の中の微かな青い点としての地球「Pale Blue Dot」等々。
それらと比べると、今回のHD1の映像は、少しインパクトに欠けているかもしれません。ただ、それが、145億年間宇宙を旅してきた光だと考えると、別の感慨が湧いてくるように思います。
【 HD1発見者のコメント 】
HD1の発見者は、こう語ります。
「宇宙が始まって間もないころ、いつどのように銀河ができたのか、天文学者は知りたいのです。そのため、遠くの銀河を探して、昔の宇宙を調べようとしているのです。光の速度はどこでも同じで、かつ、無限ではありません。遠い天体の光ほど、長い時間をかけて地球に届きます。例えば10億光年の距離にある天体からは、10億年前に出発した光が、10億年かけてやっと今、私たちの地球に届いているのです。言いかえると、10億光年先から届いた光を観測すると、10億年前の様子が見えるのです。天文学者は遠い天体を観測し、はるか昔の宇宙を調べているのです。」
「HD1 はとても明るく、こんな明るい銀河が宇宙が始まって間もなくできていることに、天文学者は非常におどろいています。現在の銀河形成の理論では、こんなに明るい銀河が、こんな昔にどのようにできたかを説明できないのです。次のステップは、HD1 のような銀河がどのように作られたのか、あるいは HD1 は実は銀河ではなくて活発なブラックホールなのではないか、を明らかにすることです。研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測すると、そのナゾが解けるのではないかと期待しています。」
わかりやすいですね。これ実は、発見者が子供向けにメディア「ユニバース・アウェアネス」:キッズ向け記事として投稿したものです。こうした取り組みは素晴らしいと思います。
【 宇宙の膨張と宇宙を旅する光 】
宇宙が膨張していることは、多くの人は知っていると思います。ただ、宇宙を旅する光との関係で宇宙の膨張を考えると思わぬ問題があることがわかります。
先に、HD1は、私たちから145億光年の距離にあるというように述べていたのですが、実際のHD1は、もっと遠くの320億光年より遠くにあると考えられています。というのも、HD1から出た光が地球に到着するまでの145億年の間にも宇宙は膨張を続け、HD1はどんどん地球から遠ざかっているからです。
私たちは、基本的に光で宇宙を観測します。宇宙が猛烈なスピードで膨張しているということは、我々が現在、光で観測している「宇宙の端っこ」が、どんどん我々から遠ざかり我々の視界から消えていくことを意味します。
100万年後には、現在観測可能な銀河の 0.02%が視界から消えます。1千万年後には、銀河の0.2%が消え、一億年後には、銀河の2%が消えると言います。10億年後には20%、100億年後には80%、そして、1500億年後には、なんと 99.9999997% の銀河が、我々の視界から失われるのです!
私たちは、宇宙の膨張とともに、宇宙の中で孤立してゆくのです。ただ、そうした認識が可能であることは、むしろ私たちの存在のかけがえのなさを示しているのかもしれません。
ちなみに、宇宙には無数の高度な知性体が存在するはずですが、誰も宇宙の膨張を止めることはできなさそうです。
【 145億年間、宇宙を旅した光子の物語 】
145億年の旅をした光子には、意外な、驚くべき性質があります。
それは、質量を持たず光速で運動する光子では、時間の流れは止まっているということです。光子は、時間を感じることはありません。
145億年という、我々にとっては「永遠」とも思われる長い長い時間も、光子にとっては「一瞬」なのです。もちろん光子は、「永遠」も感じることはありません。
有限の時間しか生きられない私たちとは異なって、145億年間宇宙の旅を続けた光子は時間がないという「永遠の時間」を生きているのかもしれません。
−−−−-−−−-−−−−-−−−−−−−−-
blog page
https://maruyama097.blogspot.com/2025/04/145.html
コメント
コメントを投稿