カテゴリーのオイラー標数
【 カテゴリーのオイラー標数 】
今回のセッションでは、2006年のLeinsterの論文 “The Euler characteristic of a category” の概要の紹介をしたいと思います。 https://arxiv.org/abs/math/0610260
この論文には、Magnitude という言葉は登場しません。
それにもかかわらず、この論文は、現代のマグニチュード論の最初の論文と見なされています。
ここで彼が主題とした「あるカテゴリーのオイラー特性数」を考えることが、「そのカテゴリーのマグニチュード」を考えることに等しいことは、その後の理論展開を見れば明らかだからです。
【 マグニチュード論の背景と展望を知る】
この論文の「はじめに」の部分を、紹介しようと思います。マグニチュード論が、どのような理論的関心を背景として、何を明らかにしようとして生まれてきたのかがよくわかるように思います。
先のセッションで見た、「ゼータ関数とメビウス関数」やその発展として「Rotaの理論」はもちろんですが、「オイラー特性数」をどのように捉えるのかという問題意識が大きなテーマとして意識されているのがわかります。
このセッションのスライドでは、前回のセミナーやこれまでのセッションで、「マグニチュード」について述べた部分を、グリーンのタイトルのページで引用しています。
今回の2006年のレンスターの論文には Magnitude という言葉は全く出てこないのですが、この以前の論文で彼が「マグニチュード」という言葉なしに述べていることの意味は、マグニチュード論をある程度知っているという立場で書かれている、グリーンのページの引用と照らし合わせてみるとわかりやすいと思っています。
以下、マグニチュード論の先駆けとなったレンスターの2006年の論文を引用します。(見出しは僕がつけました)
(これまで、「オイラー標数」という訳語を使ってきましたが、これから「オイラー特性数」に変えようかと思っています。)
【 オイラー特性数の基本的性格】
「オイラー特性数は最初に「頂点数から辺数を引いたものに面数を加えたもの」として学び、後にホモロジー群のランクの交替和として学ぶ。
しかしオイラー特性数は、過去50年間にますます明らかにされてきたように、これらの定義が示す以上に根本的なものである。
それは基数や測度に近い性質を持つ。
より正確には、それは対象に関連する基本的な無次元量である。」
【 基数とオイラー特性数】
「有限集合はオイラー特性数にとって最も単純な文脈を提供する。そして有限集合に量を割り当てる根本的な方法は、その要素を数えることである。
実際、位相空間のオイラー特性数は、基数の一般化として有用に考えることができる。例えば、和集合や積集合に関して同じ法則に従う。」
【 測度とオイラー特性数】
「さらに別の例がこの点を補強する。
ℝ^𝑛の部分集合がコンパクトな凸部分集合の有限和であるとき、それは多凸(polyconvex)である。𝑉_𝑛を、ℝ^𝑛のpolyconvexな部分集合上で定義され、ユークリッド変換で不変な有限加法的測度のベクトル空間とする。 Hadwigerの定理[KR]は、dim𝑉_𝑛 = 𝑛+1 を述べる。([Sc2]も参照のこと)
自然な基底は、𝑑 ∈ {0, …, 𝑛} ごとに1つのd次元測度から成る。例えば𝑛=2の場合、{オイラー特性量、周長、面積}がそれにあたる。したがって、スカラー乗を除けば、オイラー特性量はpolyconvex集合上の唯一の無次元測度である。」
【 オイラー特性数の新しい定義と理解の重要性 】
「シャニュエル[Sc1]は、他の文脈においてオイラー特性数がその本質を明瞭に示す形で定義可能であることを示した。彼は特定の多面体カテゴリーにおいて、オイラー特性数が単純な普遍性によって決定されることを証明した。
これら全てが、新たな文脈におけるオイラー特性数の定義と理解の重要性を明らかにしている。ここでは有限カテゴリーに対してこれを実施する。」
【 カテゴリーのオイラー特性数の定義】
「定義の一形態を非常に簡潔に与えることができる。
有限カテゴリー𝔸 を考え、その対象を 𝑎₁, …, 𝑎_𝑛 と全順序付けする。Z を (𝑖, 𝑗) 成分が 𝑎_𝑖 から 𝑎_𝑗 への射の数を表す行列とする。
𝑀=𝑍^(−1)と定義する(逆行列が存在すると仮定する)。
すると 𝜒(𝔸) は 𝑀 の要素の和となる。
もちろん、この定義が正しいことを読者に納得させる必要がある。」
【 Rota反転の一般化】
「本研究の基盤は、メビウス・Rota反転(§1)の一般化である。
Rotaは半順序集合に対するメビウス逆変換を確立した[R]。我々はこれをカテゴリー論へ拡張する。(半順序集合は、各射集合が最大1要素を持つカテゴリーとして扱う:オブジェクトは半順序集合の要素であり、𝑎 ⇢ 𝑏 という射は 𝑎 ≤ 𝑏 の場合にのみ存在する。)」
「 しかしながら、この一般化されたメビウス反転の主たる応用は、カテゴリーのオイラー特性数に関する理論にある(§2)。
実際には、先ほど示した定義とは異なる定義を用いる。この定義は、Zが可逆である場合には上記の定義と一致するが、より広範なカテゴリーのクラスに対して有効である。これは、カテゴリーのオブジェクトの「重み」という概念に依存する。」
【 今後の課題】
「究極的には、Schanuelが多面体に対して行ったように[Sc1]、カテゴリーのオイラー特性が普遍的性質によって記述されることが望ましい。そのためには、本稿の制約を緩和する必要があるかもしれない。
本稿では簡略化のため、対象となるカテゴリーは有限であること、係数は有理数のrig(semi ring)に属することを要求している。
以下のように「このカテゴリーはオイラー特性数(有理数系において)を持つか?」と問う代わりに、「このカテゴリーのオイラー特性数はどのリグに属するか?」と問うべきかもしれない。
ただし、本稿ではこの点については追求しない。」
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blog 「 カテゴリーのオイラー標数 」
https://maruyama097.blogspot.com/2025/10/blog-post_08.html
スライド「 カテゴリーのオイラー標数」のpdf ファイル
https://drive.google.com/file/d/1tHjqV2z5-dTD-i3jrKCw4GdRhhzsZRJM/view?usp=sharing
セミナーのまとめページ
https://www.marulabo.net/docs/llm1bradley/
セミナーに向けたショートムービーの再生リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcMBg47ryEOaF7o6TDZgipNN
https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcMBg47ryEOaF7o6TDZgipNN
ショートムービー「 カテゴリーのオイラー標数 」
https://youtu.be/sgnsWsrBjM8?list=PLQIrJ0f9gMcMBg47ryEOaF7o6TDZgipNN
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