エンタングルメントをめぐるドラマ #3
【エンタングルメントのエントロピー】
マルデセーナの量子論と相対論(重力理論)の「対応」の発見をきっかけに、エンタングルメントの理解は、飛躍的に深まります。
突破口を開いたのは、二人の日本人、笠真生と高柳匡です。
「「時空」が、二つの部分 AとBに別れているとする。AとBの「境界部分」は、「時空」の「境界」なので、マルデセーナの理論にしたがって量子論で記述できるはず。」
「やってみたら、この「境界」は、なんと、量子論の「エンタングルメント」のエントロピーに対応するんだ!」
彼らは、「エンタングルメント」がエントロピーを持つことの、最初の発見者となります。(2006年)
先にマルデセーナの時空の「境界」の重要性の発見は、「再発見」かもしれないと書いたのですが、それには訳があります。時計を50年ほど巻き戻します。
ブラックホールは、観測可能な物理量としては、質量・電荷・角運動量の三つしか持たないと信じられてきました。ブラックホールは、極めて単純な構造の存在で、上の三つの物理量でその特徴を完全に記述できると。それを、物理学者のウィーラーは、「ブラックホールには毛がない」と表現しました。(「毛は、三本しかない」という意味です)
1973年、ベッケンシュタインは、これを覆す発見をします。彼は、ブラックホールが、先の三つの物理量の他に、エントロピー を持つこと、しかも、そのエントロピーが、ブラックホールの「地平」の表面積に比例することを見出します。
ブラックホールの「地平」とは、その一線を超えると、なにものも(光でさえ!)ブラックホールから脱出できなくなる、ブラックホールを周辺の時空とをへだてる「境界」のことです。
通常、ある空間のエントロピーは、その空間の体積に比例します。ブラックホールのエントロピーが、ブラックホールの体積(質量と言ってもいいです)ではなく、その地平の面積に比例すると言うのは、少し意外に思われるかもしれません。こうしたタイプの物理法則を「エリア則に従う」といいます。
笠-高柳によるエンタングルメントがエントロピーを持つことの発見は、このベッケンシュタインのブラックホールがエントロピーを持つことの発見に匹敵する重要な発見です。
笠-高柳の発見に刺激されて、ラムズダンクが続きます。彼は、こう考えます。(2010年)
「二つの時空 A, B があったとする。二つの時空を、引き離してみる。そうすると、「境界面」の面積は減少する。これは、二つの時空が離れれば離れるほど、エンタングルメントのエントロピーが減ることを意味している。このエントロピーがゼロになった時、二つの時空は、引きちぎられる。」
「そうだ! 逆に考えればいいんだ。時空を結びつけているのは、エンタングルメントなんだ。エンタングルメントのエントロピーが、時空を縫い合わせているんだ!」
ここでは、二つの量子の奇妙なもつれあいとして発見されたエンタングルメントが、時空を結び合わせる「原理」として、見直されています。
このドラマはまだ続きます。
次回の最終章(いまのところの)では、「エンタングルメントを発見したのに、それを否定したアインシュタイン」という、これまでのアインシュタイン像をこえて、エンタングルメント研究の最前線で、アインシュタインの「再評価」という意外な逆転劇が進行していることを紹介しようと思います。
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