enriched category とは何か ?

【 簡単な例からenriched categoryのイメージを持つ 】

ここでは、enriched categoryのイメージを持ってもらうことから始めたいと思います。

最初に確認したい事は、あるカテゴリーをenrich化するということは、そのカテゴリーのオブジェクトを拡大することではなく、その射を拡大することだという事です。

【 射の集まり hom−set 】

カテゴリーCのオブジェクトXとオブジェクトYの間の射 𝑋→𝑌は、一般には、複数存在します。こうした射の集まりをhom(X,Y)と表し、hom-set と呼びます。

hom(X,Y)は、一般には複数の射を要素とする集合になります。
preorder categoryのように、オブジェクト間にたかだか一つの射しか存在しない場合、それは一つの要素からなる集合になります。

【ベクトル空間の例 】

hom-setは、単なる集合以上の構造を持つことがあります。

ベクトル空間をオブジェクトとし、ベクトル空間の線形写像を射とするカテゴリーVectを考えます。

f,gがベクトル空間Xからベクトル空間Yへの線型写像とすれば、
f+gもベクトル空間Xからベクトル空間Yへの線型写像となり、
kがスカラーなら、kf もベクトル空間Xからベクトル空間Yへの線型写像となります。

 𝑓,𝑔 ∈ hom⁡(𝑋,𝑌)なら 𝑓+𝑔 ∈ hom⁡(𝑋,𝑌)で 𝑘𝑓 ∈ hom⁡(𝑋,𝑌)

このことは、hom(X,Y)自身がベクトル空間であることを意味します。

【 カテゴリーCのhom-setが カテゴリーVである場合を考える 】

カテゴリーCのhom-setがカテゴリーVである時、CはVによってenrich化されたカテゴリーであると言います。

先に見た例だと、ベクトル空間のカテゴリーVectは、Vect自身によってenrich化されたカテゴリーだということになります。

一般的なCategoryは、hom-setの構造についてそれがSetである以外特に条件を設けていないのですが、CategoryはSetによってenrich化されたカテゴリーだと考えることが出来ます。

(もっとも、すべてのhom(X,Y)が集合となるとは限りません。こうした条件を満たすカテゴリーを”locally small”と言います。)

【 言語のカテゴリーLに確率を導入するということ 】

ただ、先のenrich化の説明では、どのようなカテゴリーVがカテゴリーCをenrich化できるのかは、何も語られていません。

enriched category を一般的に定義するには、もう少し準備が必要です。それについては、おいおい説明することにしましょう。

ここでは、当初の目的である「言語のカテゴリーLに確率を導入すること」がどういうことなのかを整理してみようと思います。

言語のカテゴリーLはpreorderですので、LのオブジェクトXからオブジェクトYの射は一つしか存在しません。それは、hom(X,Y)が一つの要素しか持たない集合であると表現されます。

Lに確率を導入するという事は、hom(X,Y)に確率を表す数字のラベルをつけるという事です。
このラベルをhom(X,Y)と同一視すると、それは、[0,1]の値を取ることになります。この値は、先の「ただ一つの要素からなる集合」の*を、確率を表す具体的な一つの数字で置き換えたものです。

このことは、enrichするカテゴリーが[0,1]であることを示しています。

【 次回のセッションで取り上げること 】

ただ、ここで説明したことは、preorder category のhom-setの*を確率を表す数字で置き換えればいいのではということを述べただけです。

だいたい、enrich化されるカテゴリーのhom-setを勝手にenrich化するカテゴリーに置き換えて上手くいくのでしょうか?
enrich化できるカテゴリーには、条件があるはずです。

そもそも、[0,1]がそうした条件を満たすカテゴリーであることの説明も行われていません。

こうしたことを、次回あらためて説明したいと思います。

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ショートムービー「 enriched category とは何か ? 」を公開しました。
https://youtu.be/dlVT6HHm7sE?list=PLQIrJ0f9gMcPmrJ3B0LEXJ_SHPP-ak_hw

「 enriched category とは何か ? 」のpdf資料
https://drive.google.com/file/d/1BNK_xR934ekwN2eQ8CF5BzDig4Ry6fka/view?usp=sharing

blog 「 簡単な例からenriched categoryのイメージを持つ 」
https://maruyama097.blogspot.com/2024/01/enriched-category.html

「大規模言語モデルの数学的構造 II」まとめページ
https://www.marulabo.net/docs/llm-math2/

ショートムービーの再生リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLQIrJ0f9gMcPmrJ3B0LEXJ_SHPP-ak_hw

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