対話型ゲームの射程
【 対話型ゲームの射程 】
CHSHゲームのように、出題者と回答者の二組の対話で進行するゲームを対話型ゲームと言います。
このセッションでは、まず、アスペによるベルの定理の実証的な検証実験とCHSHゲームという対話型ゲームによるアプローチの対応関係を見ていきます。
二つの入力 X, Yを受け取って、二つの出力 A, Bを返す実験装置があるとしましょう。最初は、どんな仕掛けで入力を出力に変えているのか直接にはわからないにしても、実験を繰り返すと、入力と出力のデータの間にある統計的な相関を見つけることができるようになるかもしれません。
まあ、ある場合には二つのデータの間に何の相関も見つからないかもしれないのですが。話は飛ぶのですが、現代の暗号技術の主流になりつつあるラティス暗号のLWE( Learning With Errors )は、一様にランダムなデータと、その中に正規分布する小さなノイズ紛れ込ませたデータを、相互に区別することが難しいことを利用しています。
実験装置が受け取る入力データ X, Y は、対話型ゲームでプレーヤー二人が出題者から問題として受け取るデータに対応します。実験装置の出力データ A, B は、対話型ゲームでプレーヤー二人が出題者に返す回答に対応します。
こうしてみると、対話型ゲームのチーム・プレーヤー二人は、観測装置との比較では、ブラックボックスの「中の人」として振る舞っていることになります。
このプレーヤーは、頭を絞ってゲームに勝つための最良の「戦略」を追求します。それは、隠れた相関を最も敏感に感じ取るための最良の観測装置にゲームを変えます。
入力と出力の相関は、入力 X,Y が与えられた時の出力 A, Bの条件付き確率 P(A, B | X, Y) で表現できます。入力と出力の具体的な値を、x, y, a, b として、これら全てが 0か1の値を取るとすると、先の相関は、次のように分解できます。
p( a, b | x, y )
= p( a, b | 0, 0 )+ p( a, b | 0, 1 )+ p( a, b | 1, 0 )+ p( a, b | 1, 1 )
このとき、 xy = a + b (mod 2) でゲームの勝敗は決まるのですが、プレーや二人はこのルールのもとで、ゲームの勝率が最大になるような「戦略」を考えます。
ここで見方を変えましょう。この対話型ゲームが対話しているのは、誰と誰なのでしょう?
確かに、直接には、出題者と回答者チームの対話が進行します。ただ、このゲームの本当の目的は、自然には、古典的な相関を超える相関が存在することを示すことです。その意味では、対話しているのは「自然」と「人間」だと考えることができるのです。
こうした抽象のレベルでは、対話型ゲームは、人間の新しい認識能力の獲得の手段の一つとして捉え返すことができるようになるます。
自然ではなく人間の論理的推論能力を対象にして、対話型ゲームを考えることができます。それを、「対話型証明」と言います。ここではもはや、対応する物理的な実験装置を必要としません。
さらに、CHSH ゲームが、古典論に対応する localなCHSHゲームが、エンタングルする量子論に対応する non localなCHSHゲームに拡大されたように、non localな「対話型証明」を考えることができるのです。
対話型ゲームは、遥か遠くまで我々の認識能力を拡大する可能性を持っているのです。
それについては、今回のセミナー「エンタングルする自然」のペアとして開催されたセミナー「エンタングルする認識」をご覧ください。
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「Bellの定理 (5) -- 実験と対話型ゲーム」を公開しました。https://youtu.be/ICTny14nlW8?list=PLQIrJ0f9gMcN3x9bET7QoK2YWs8dfsKNa
スライドのpdf
https://drive.google.com/file/d/1XvxK9EqYUaLVo7dt8pQms2daG3pP2wDE/view?usp=sharing
blog:「対話型 ゲームの射程」
https://maruyama097.blogspot.com/2022/10/blog-post_22.html
まとめページ「エンタングルする自然 ver.2 」
https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement2/
まとめページ「エンタングルする認識」
https://www.marulabo.net/docs/philosopy/
セミナーへの申し込み URL
https://entangled-nature.peatix.com/view
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