CHSHのアイデア
【 CHSHのアイデア 】
ベルの不等式は、CHSHの不等式と呼ばれることがあります。
このCHSHとは何を意味しているんでしょうか? IT系の人なら、シェルを変えるchsh (change shell)コマンドを連想するかもしれません。残念ながら、それとは関係ありません。
CHSHは、ベルの理論をわかりやすい形に書き換えた四人の物理学者のイニシャルを並べたものです。
Clauser, John
Horne, Michael
Shimony, Abner
Holt, Richard
先頭のクラウザーは、今年のノーベル賞を受賞しました。同じく今年のノーベル賞を受賞したアスぺは、CHSHたちの定式化に基づいて、ベルの理論、エンタングルメントが実際に存在するという理論を、実験的に証明しました。
CHSHの定式化がどういうものであるかは、それに基づいたアスペの実験をみるのがわかりやすいと思います。
アスペの実験装置では、エンタングルした量子の片割れを、右と左の検出器目掛けて打ち出します。左側には二つの検出器A0とA1が置かれ、右側にも二つの検出器B0とB1が置かれます。これらの計四つの検出器が観測した値を a0, a1, b0, b1としましょう。
これらの検出器が観測しようとしているのは量子のスピンです。重要なことは、量子のスピンは、上向き(+1)か下向き(−1)の二つの値しかとらないことです。どんな観測を行っても、a0, a1, b0, b1は、+1かあるいは−1の値しか取りません。
ここからが、CHSHのアイデアが光るところです。
a0 = +1 あるいは a0 = −1で、b0 = +1 あるいは b0 = −1ということは、a0 = a1か a0 = −a1 のどちらかが成り立つということ。前者なら、a0 − a1 = 0 で、後者なら a0 + a1 = 0 が成り立ちます。(ここがポイントですので、ゆっくり考えてください)
この時、次の式を考えます。
CHSH = ( a0 + a1 )b0 + ( a0 − a1 )b1
a0 = a1 なら、この式の後ろの項がゼロとなって消えて
CHSH = ( a0 + a1 )b0 + 0 = 2a0・b0
a0 = ±1 で b0 = ±1 ですので、a0, b0の値のどの組み合わせでもこの式が 2を超えないことがわかります。
a0 = −a1 なら、この式の前の項がゼロになって消えて
CHSH = 0 + ( a0 − a1 )b1 = −2a0・b1
前と同様に、a0 = ±1 で b1 = ±1 ですので、a0, b1の値のどの組み合わせでもこの式が 2を超えないことがわかります。
いずれの場合でも、CHSH ≦ 2 が成り立つことがわかります。
CHSH = a0・b0 + a0・b1 + a1・b0 − a1・b1 ≦ 2
これを ベルの不等式、あるいは CHSHの不等式と呼びます。
パーフェクト! どこにも、ぬけ・もれはないはずです。
ところが、実際に実験すると、CHSHの値が、2を超えることがたびたび起きるのです。繰り返し実験すると、CHSHの値は2を超えないどころか、2√2 であることが確かめられます。
しかも、この2√2という値は、量子論での予測と一致します。
------------------------
「Bellの定理 (2) -- CHSHの定式化」を公開しました。
https://youtu.be/br-ZHKIuLo8?list=PLQIrJ0f9gMcN3x9bET7QoK2YWs8dfsKNa
スライドのpdf
https://drive.google.com/file/d/1IBgVgqehP9bIhZF1Mq0YRKPdCbaPFi_n/view?usp=sharing
https://www.marulabo.net/docs/science-entanglement2/
https://entangled-nature.peatix.com/view
コメント
コメントを投稿